<十>御霊の安息を
ところが、事態はとんでもない方向へと進んでいた。遺族の悲しみは頂点に達していて、一刻も早く弔辞をお願いして故人の御霊に安息を与えてくれることを望んでいるという。葬儀社の男性はどうしてもそのまま弔辞を述べるしかないという。
「ムリです。年齢も違うし、だいいち故人のことは全く知りませんから。それより友人のハナコさんを捜すことの方が先でしょ」
「ところが、花子さんからは弔電がきていたんですよ。ですから今日、この会場には来られていないんです。ところであなた何歳ですか? 園子さんは三十六歳でしたけど。同じくらいじゃないですか?」
歳は偶然同じだ。しかし、どう考えても無理である。
―― バレるに決まっているし。バレたらもっと悲惨なことになるよ! 出来ない。絶対に!
「それでは、生前故人と大変親しかった、西大寺花子様から弔辞を頂きとうございます。西大寺様よろしくお願いします」
―― 絶体絶命だぁ!
華子はマイクを渡された。
「あの。あ。あ。あ。ふーふー。本日は晴天なり。あ。あ。あの、マイク故障していますけど……残念。弔辞はパスするしか……」
葬儀社の男性が首を大きく横に振って言った。
「いえ。故障していません。充分聞こえます! 続けてください!」
葬儀社の男性が華子を半ば睨みつけている。
「あの。私、華子です。園子ちゃん。あなた。分かる?」
華子は、観念した。そして完全に開き直った。彼女は目を閉じ、現在この地方でもう一つ執り行われている葬儀、親友『江本麻紀ちゃん』のことを心に思い抱き、『麻紀ちゃん』に自分の言葉が届くように願いながらゆっくりと話を始めた。