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<一>プロローグ

 東京都心から私鉄で西の都下方面に揺られること約一時間の駅周辺には、何棟ものマンションが乱立していた。その周りにはさらに建売の住宅が群がっていて、区画が途切れる端には開発前の荒れた雑草地や農地が広がっている。その中にぽつんと一軒の平屋建ての古めかしい家屋があった。家の周りは舗装もされておらず、玄関の前には雑草がうずたかく生い茂っていてとても人が住んでいるようには見えない。

 日が暮れかけて徐々に薄暗くなってきた頃、その家の前に一台の車が停まった。車からは二〇歳台前半くらいの若い男女が出てきて周りをきょろきょろと伺いながらゆっくりと玄関の前に立った。二人は一言二言、言葉を交してから玄関扉を開け家の中へ入った。

 電気は供給されていないらしく電灯はあるが灯りはつかない。薄暗い中、二人は家の奥へと進んだ。突然女が立ち止まって暗がりの方を真っ直ぐ指差して言った。


「ああ。いる。いる。そこにいるよ」


 男はすこぶる体格がいい。しかも男の鍛えられた上半身の筋肉が衣服の上からでもはっきりと伺える。 

 男が前かがみになって目を凝らす。しかし男には『そこにいる』ものが見えないようだ。ゆっくりと暗がりの方へ近づいていく。

 今度は女は囁くような声で男に伝えた。

「話声が聞こえるよ。凄いよ凄い! 一人じゃないよ。あんた。これって大変なことじゃんよ!」


 男は女の言葉にびくっと体を震わせ、そのあと真剣そうに頷いて女の指差す方へ進む。屈強な筈の男の膝は完全に『笑って』しまっていて思うように前進できそうにない状況である。男は後ろ手に女を近くへ誘い、女の手を取って少しずつ進もうとした。

 その時である。

 突然女が高い声で言った。


「あれ? あれ! 逃げられた! 逃げられちゃったよ。きっとあんたのせいよ!」

 

 男の顔色が変わった。

「ぐわっ!」 

 気が付くと男は車の近くでうずくまって激しく呼吸をしていた。

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