【1章】ラピニス国の王 02
「賞金」
男は王に挨拶もせず、一言そう言った。
それにしてもみすぼらしい格好をしている。
濡れたような癖のある黒髪は肩に着くくらいまで伸びている。かぶっている帽子も穴が開いていたり、と清潔感が感じられない。全体的に埃がかった印象を受ける。
しかし、王の周りの臣下たちはその男を見るなりざわつきだす。
高く響く各々の囁き声。
男はそれが聞こえないような態度で王を睨みつける。
「王様、賞金」
男はもう一度言った。
その声で王は目を覚ましたように、男を見つめる。
気を抜くと男の雰囲気に飲まれてしまう。
目の前の男は何者なんだろう。
王は疑問に思ったが、この部屋に入って来られる時点で危害を加える人ではない、ということは明らかだ。
そして臣下たちの様子も、彼がただ者ではないということを物語っていた。
「あなたは、何の賞金が欲しいのですか?」
一言に賞金といっても、種類は多い。
手配犯を殺害して得られるものから、国王主催の催しで栄誉を讃えられたものまで様々だ。
だが、彼の様子からして内容は明るいものではないことは察しがつく。
「賞金首を殺してきた」
そう言って彼はおもむろに懐から腕輪や拳銃を取り出す。その数、合計二十個。
「この腕輪は、一級殺人のグラン・レアード。指輪と拳銃は、親族全滅させたカーガル・ティエン。これは・・・」
誰に求められるでもなく彼は取り出したものの説明を始めた。
王の横では神官が書類をめくり確認をしている。
最後のバレッタの説明が終わったところで、彼はまた王を睨みつける。
早く金をくれ、と言わんばかりに。
書類の確認が終わったのか、神官はその男に告げる。
「あなたはロイトル=D・マッキノンですね。あなたの証言と失くなった装飾物、そして死亡記録を参照した結果、正しいと判断されました」
神官はそれだけ言うと王の後ろまで下がる。後の判断は王に任された。
「賞金を、持ってきてください」
王は近くにいた家臣の一人に告げる。
この数を始末したのだから相当な額になることは間違いない。賞金を準備するのには時間がかかるだろう。
王は気になっていた。
彼が今まで見てきた世界、外の世界を。
「あの、すみません。少しでいいですから、外の・・・外の世界の話をお聞かせ願えますか?」
その瞬間部屋の空気が凍りつく。
王からしたら、ただの興味であったはずなのだが、周りはそうとは受け取らない。
男も更に睨みをきつくしただけで、何も言おうとはしない。
そのままどれくらいの時間がたったのだろうか。
やっと男が口を開いた。
「んなもん、自分で確かめろ。王だが何だが知らねえが、手前で努力もせずに人に頼ろうとするな。そんなクズは一生そこでくたばってろ」
男はそう吐き捨てると、本来の目的である賞金も受け取らずに出ていった。
残された部屋の中で王はつぶやく。
「私は・・・王だから・・・?だから知っちゃいけないの?どうして・・・?」
臣下たちも目を上げず、王を一人にするように部屋から出ていった。
これから詳しいことは明らかにしていく予定です。