【0章】プロローグ
それは、人間なる生物が生まれる数千年も前のこと。
世界の支配は、人間が神と呼ぶ種族が統治していた。
神は食べもせず、争いもせず、働きもせず。
それでも世界の秩序は安穏と安定していた。
神は殺される以外に命を絶やす手段もなく、争いのない神の世界は人口が徐々に飽和状態に達していった。
神々は少しずつ危機感は抱きながらも、なにも行動には移そうとはしなかった。
そんなある時、一人の神が提案する。
「我々の世界にはもうこれ以上に神が増える余裕が無い。そろそろ人口削減の対策でもしないか」
その提案には多くの神が反対した。
なぜならば、提案に賛成するということは殺される可能性がある、ということを自ら受け入れる、すなわち、死、を許容することになるからだ。
しかし、このままではいくら飲まず喰わず働かずの神でも、生活に関わってくる。
暮らす場所も段々と狭く、小さく、密集してきた。
とうとう痺れを切らした神々たちは争いを作為的に起こすことに賛成した。
だが、神々たちは自ら争うのを良しとしなかった。
代理戦争を引き起こそう。
名も知られていないちっぽけな一人の神の提案。
誰も反対するものはいなかった。
そして、神々の代理が作られた。
それが、人間である。
擬似の世界を与えられ、国、勢力を何の考えなしに気の赴くままに作った。
本当の争いを知らない神がすることだ。
神の作りし人間の行動は、神の想像を安々と超えていく。
最初は自身の国、勢力が勝つと喜び、負けた相手を殺していった。
中には自ら人間に、天の声として指図をする者も現れ始めた。
丁度神々の人口が最盛期の半分にまで減った頃だろうか。
人間達は、もうすでに神の力の届かない存在になり果ててしまった。
支配し略奪する欲望にまみれた醜い種族となり、神々の興味も段々と離れていくの中で、ある神は密かに計画を進行させていた。
彼女の名はアマラス。
赤銅の眼を髪を持った神の一人である。
人間界では争いが絶えず、他の神々が飽きたその世界に彼女だけは心を傾けていた。
元はといえば我々の仕業である。
いくら神の創造物であれ、意思を持った人間たちを見殺しにする訳にはいかない。
そう思い立った彼女は、人間界のある一国に目をつけた。
多くの隣国に囲まれた内陸の小国。
アマラスは自ら人間に干渉する道を選んだ。
だが、心優しい彼女は意のままに人間を操ることに気が進まない。
アマラスには妹がいた。
名はアマティ。
アマラスとよく似た顔を持つ、桃色の眼と銀色の髪を持つ神だ。
彼女は姉のアマラスを心配し、こう言った。
「姉さんはこの国の王を決めて、守ってくれればいい。後の細かいこととかは全部あたしがやるから」
自ら批難を浴びる立場へと赴く妹をアマラスは止められなかった。
ここで、アマティを止めると、彼女への冒涜となってしまう。
無駄に長い年月を共に過ごしているわけではない。
そうして、誕生したのがラピニス国。
この物語の中心となってくる、小さな国である。
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この話は、これからも続きます。