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オカマ総理

「実は俺オカマなんだよ、隠してたけどさ。」


数十年前、半田元総理は政界を引退していた。


今年のテレビの年末特番の収録。政治を扱う番組の1対1でのインタビューも終盤に差し掛かった時だった。

「半田さん。それでは最後にもし何か一言ございましたら」


それまでインタビューは順調に進んでいた。事前の打ち合わせどおりだった。

収録の雰囲気はどこか気の抜けたものだった。


しかし元総理の突然のカミングアウトに、インタビュアーの顔は曇った。

「今何と?」

恐る恐るインタビュアーは質問した。


「だからゲイなんだよ、俺」

半田元総理は屈託のない顔で笑った。

数十年前、選挙戦でも有権者に同じような笑顔を見せていた。


緩みかけたカメラマンや照明の動きが、一気に引き締まっていった。


「なぜですか?なぜ、その今そんなことをおっしゃるのか私にはよくわからない。」

インタビュアーは大きな身振りで訊ねた。

インタビューは、誰も予想していなかったところへ向かっていった。


「ゲイというのは悪いことですかね?」

「違います」インタビュアーは即座に否定した。


「それでも私はわからない」インタビュアーは半田元総理の目をまっすぐ見つめて続けた。


「これはテレビです」

「いかにも」半田元総理は悠然とうなずいた。


「わざわざ言う必要がありますか?」

「私には失うものは何もないんだよ。」


オンエアーでは、元総理衝撃の告白として「ゲイ」の部分が過剰なまでにクローズアップされた。視聴率も高かった。

「社会で肩身の狭い思いをしている自分以外のゲイが、救われて欲しい」

半田元総理カミングアウトの最大の大義は放送されなかった。


テレビでの放送終了後、週刊誌なども騒ぎ立てた。

インターネットの掲示板では、誹謗・中傷が多数を占め、賞賛する声は少なかった。


数日後。半田元総理の自宅に脅迫文が届いた。

「嘘つけ!」「ゲイをバカにするな!」などの内容が多数だった。


半田元総理は、自分の主張が真実であることを伝えるためにテレビのインタビューに再度応じた。屈託のない顔で笑い、批判を跳ね返した。視聴率も高かった。

「今度はカットしないでくれよ」

生放送で収録は行われた。


それでも、半田元総理の自宅への脅迫文は続いた。


「死を以って潔白を証明する」

冬も深まった寒さの厳しい早朝。

「半田元総理自殺」がテレビのニュース速報で流された。

自宅マンションの屋上には遺書が残されていた。


「突然のことで私にはよくわかりません」

半田元総理の家政婦が涙ながらにテレビの取材に対応した。

半田元総理は一人暮らしだった。


同日の夕方のニュース。各局とも半田元総理の突然の自殺一色になった。

テレビの年末特番のインタビュアーを務めた男も、自分の番組内で半田元総理自殺の原稿を読むことになっていた。


半田元総理の政治家としての功績を紹介するコーナーの際、

男は原稿を読みながら涙を流し始め、沈黙に番組は覆われた。

男の周りがざわざわし始めた。

隣の若い女性アナウンサーがCMに入るべきかディレクターと確認し始めていた。


「私は、半田元総理が嘘を言っているとは思えません」

アナウンサーの男が、放送の意図するところとは関係の無いことをしゃべり始めたが、

放送は続いた。



「私は年末、実際に半田元総理の目を見ながらインタビューを行いました。私にはこの人が嘘を言っているのではないことがすぐにわかりました。おもしろおかしくするためにやったわけでは決してないのです。社会で肩身の狭い思いをしている人達に力を与えたと私は思います。なぜなら、なぜなら私も半田元総理と同じくゲイだからです」


スタジオは騒然としたが、実際には、インタビュアーを務めた男がカミングアウトした部分はオンエアーされなかった。「おもしろおかしくするためにやるわけがない」と言った後、コマーシャルが流された。


桜の咲き始めた四月ごろ。半田元総理に脅迫文を送っていた男が逮捕された。

都内に数多くのパチンコ店を経営する会社社長の犯行だった。

半田俊行、72歳。

半田元総理の実弟であった。

会社の利益に著しく悪影響を及ぼすと思った、と犯行動機を語った。

数ヵ月後、会社は東証の二部に上場される予定だった。



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