第5話 『放課後の屋上と、それぞれの気持ち』
午後の授業が終わる頃、春の柔らかな日差しは少しだけ傾き始めていた。
窓から差し込む夕方の光は教室の床を長く照らし、机や椅子の影を静かに伸ばしている。外では風がゆっくりと桜の枝を揺らし、花びらが空に舞い上がっては、校庭や廊下の窓際に静かに落ちていった。
教室の中では、チャイムが鳴った瞬間に生徒たちの空気が一気に変わる。
「やっと終わったー!」
「今日部活どうする?」
「コンビニ行かない?」
あちこちから楽しそうな声が聞こえ、椅子を引く音やカバンを持つ音が重なり合う。
だがその中で――
一人だけ、少し緊張した顔をしている少年がいた。
天城蒼空。
机に座ったまま、深く息を吐く。
(今日も無事終わった…)
そう思った瞬間だった。
「蒼空くん」
優しい声が聞こえる。
顔を上げると、そこには月城美月が立っていた。
夕日の光が彼女の銀色の髪を照らし、まるで淡く光っているように見える。
「放課後、少し話せる?」
蒼空は少し驚く。
「うん、いいけど」
するとその直後――
「へぇ」
聞き慣れた声。
振り向くと、腕を組んだ少女が机の横に立っていた。
長い赤い髪。
少し挑発的な笑み。
火神紅葉。
「デート?」
美月は静かに言う。
「違います」
紅葉は肩をすくめた。
「まあいいけど」
そして蒼空を見る。
「蒼空」
「な、なに?」
「私も話ある」
蒼空は頭を抱えたくなる。
(なんでこうなる…)
その様子を見て、後ろから声が聞こえる。
「大変だねー」
振り向くと風宮ひよりが笑っていた。
「完全に修羅場コース」
「笑うなよ…」
だがそのとき――
「蒼空先輩!」
元気な声が響く。
花咲リリィがカバンを抱えながら走ってきた。
「今日、一緒に帰れますか?」
さらに――
「蒼空さん」
「蒼空」
後ろから声。
星野ルミナと雪宮セリナも近づいてくる。
蒼空の周りに女子が集まる。
クラスの男子たちがざわつく。
「また囲まれてる」
「羨ましい…」
ひよりが笑う。
「もう人気者だね」
蒼空は限界だった。
「ちょっと待って!」
全員が蒼空を見る。
「順番に話そう!」
沈黙。
そして――
ひよりが吹き出す。
「会議みたい」
紅葉は笑う。
「じゃあ私先」
「いや!」
そのとき、美月が静かに言った。
「屋上に行こう」
校舎の階段を上ると、屋上へ続く扉がある。
普段はあまり人が来ない場所だ。
蒼空、美月、紅葉、ひよりたちは階段を上がる。
夕方の光が窓から差し込み、階段の壁をオレンジ色に染めていた。
扉を開ける。
ギィ――
屋上に出た瞬間、春の風がふわっと吹き抜けた。
広い屋上からは学校の景色が一望できる。
グラウンドではサッカー部が練習をしている。
体育館の横ではバスケ部の声が響いている。
遠くの街並みには夕日の光が広がり、空は少しずつオレンジ色に変わっていた。
桜の木も校庭に並び、花びらが風に舞っている。
その景色はとても静かで、穏やかな春の放課後だった。
しかし――
屋上の空気は少し違った。
「で?」
紅葉が腕を組む。
「何の話?」
美月は蒼空を見る。
「蒼空くん」
「うん?」
「紅葉さんと昔付き合ってたって聞いたけど」
蒼空は少し困った顔をする。
「まあ…中学の頃」
紅葉は笑う。
「懐かしいね」
美月は静かに聞く。
「どうして別れたの?」
蒼空は少し黙る。
風が屋上を吹き抜ける。
遠くで部活の声が聞こえる。
夕日の光が少しずつ濃くなっていく。
紅葉が答えた。
「私が引っ越したから」
蒼空も小さくうなずく。
「急だったんだ」
ひよりが言う。
「そうだったね」
美月は少し安心したように微笑む。
「そうなんだ」
紅葉は蒼空を見る。
「でもさ」
少しだけ優しい声だった。
「また同じ学校になった」
蒼空は黙る。
夕方の風が吹く。
桜の花びらが屋上まで舞い上がり、静かに床へ落ちていった。
そして紅葉は言う。
「蒼空」
「なに?」
「また友達からでもいい?」
蒼空は少し驚く。
そして笑った。
「もちろん」
その様子を見て、美月も少し安心した表情をした。
ひよりはつぶやく。
「でも恋は終わってない気がする」
蒼空は空を見る。
夕焼けの空が広がっていた。
そのときだった。
屋上の扉が開く。
ギィ――
振り向くと、三人の女子が立っていた。
水瀬アクア
雷堂ライカ
闇城ノア
蒼空は思った。
(また増えた…)
春の夕焼けは、ゆっくりと学校を包み込んでいた。
そして蒼空の学園生活は――
ますます賑やかになっていくのだった。




