第3話 『ざわめく教室と、新しい出会い』
春の朝の空気は、まだ少し冷たかった。
校舎の周りに並ぶ桜の木は満開で、淡いピンク色の花びらが静かに風に乗って舞っている。
その花びらは校庭を横切り、校舎の窓に当たり、廊下の床にふわりと落ちていた。
朝の学校には、独特の活気がある。
グラウンドではサッカー部が朝練をしている。
「ナイスパス!」
ボールを蹴る音が青空に響く。
その横では野球部がバットを振り、金属音がカキーンと広がっていた。
体育館からはバスケットボールのドリブル音。
吹奏楽部の楽器の音も、遠くから聞こえてくる。
そんな賑やかな朝の校門を、天城蒼空は少し重い足取りで歩いていた。
(昨日、何だったんだよ…)
頭の中には、昨日の教室の出来事が何度も浮かぶ。
元カノ 火神紅葉 と彼女 月城美月 の静かな対立。
そして突然現れた三人の女子。
(なんで僕の名前知ってるんだ…)
蒼空はため息をつく。
そのとき――
「蒼空くーん!」
元気な声が響いた。
振り向くと、ショートカットの少女が手を振りながら走ってくる。
風宮ひより。
「おはよ!」
「おはよう」
ひよりは蒼空の顔を見て笑った。
「まだ元気ないね」
「そりゃそうだろ…」
ひよりは楽しそうに言う。
「昨日すごかったもんね」
二人は校門をくぐる。
桜の花びらが風に舞い、二人の肩に落ちる。
「彼女と元カノの対決に、新ヒロイン三人」
ひよりは指を折りながら数える。
「普通の男子ならパニックだよ」
「もうパニックだよ」
蒼空は本音を言った。
そのとき――
「蒼空くん」
優しい声が聞こえる。
振り向くと、長い銀色の髪の少女が立っていた。
月城美月。
朝日を受けて、その髪は柔らかく光っている。
「おはよう」
「おはよう、美月」
美月は少し微笑んだ。
だが、その視線は蒼空の背後へ向く。
「…紅葉さん」
蒼空は振り向く。
そこには腕を組んで立っている少女。
長い赤い髪。
強気な瞳。
火神紅葉。
「朝からラブラブじゃない」
紅葉は少し挑発的に笑う。
美月も笑顔で返す。
「そうですね」
空気が一瞬でピリッとした。
ひよりが小声で言う。
「また始まりそう」
蒼空は急いで言う。
「と、とりあえず教室行こう!」
校舎の中は朝の光で明るかった。
廊下の窓から差し込む日差しが床に長い影を作る。
生徒たちの笑い声や話し声が響き、学校全体が賑やかな空気に包まれている。
蒼空たちは教室へ向かった。
ガラッ。
教室に入ると、すでにクラスメイトたちが集まっていた。
窓から見える桜の木。
風が吹くたび、花びらが舞っている。
その光景はまるで春の絵画のようだった。
蒼空が席へ向かう。
だが――
教室の空気が少しざわついていた。
「ねえねえ」
「昨日のあれ見た?」
「蒼空すごくない?」
蒼空は嫌な予感がした。
ひよりが小声で言う。
「完全に有名人だよ」
そのとき――
教室のドアが開いた。
ガラッ。
昨日の三人の女子が入ってくる。
クラスの視線が一斉に集まった。
黒髪のクールな少女。
金髪のお嬢様のような少女。
小柄で可愛い少女。
三人は真っすぐ蒼空の方へ歩いてくる。
蒼空の前で止まった。
黒髪の少女が言う。
「あなたが天城蒼空?」
蒼空は戸惑う。
「そ、そうだけど…」
少女は軽く頭を下げた。
「雪宮セリナ。よろしく」
次に金髪の少女。
優雅に微笑む。
「私は星野ルミナですわ」
そして小柄な少女。
「花咲リリィです!蒼空先輩!」
蒼空は完全に固まった。
教室がざわめく。
「また増えた」
「蒼空モテすぎだろ」
ひよりが笑う。
「ほんとハーレムだね」
その瞬間――
椅子が引かれる音。
ギッ。
美月が立ち上がる。
紅葉も立つ。
二人の視線が、新しい三人へ向く。
教室の空気が一瞬で張り詰めた。
リリィが言う。
「蒼空先輩って人気なんですね」
ルミナが微笑む。
「面白いことになりそうですわ」
セリナは静かに蒼空を見る。
「……観察対象」
蒼空は思った。
(僕の学校生活…どうなるんだ…)
窓の外では、桜の花びらが静かに舞い続けていた。
春は始まったばかり。
そして蒼空の――
騒がしい青春も、今まさに始まったのだった。




