第2話 『彼女VS元カノ、教室の静かな戦争』
翌日の朝。
春の柔らかな日差しが、街の屋根をゆっくりと照らしていた。
通学路の桜並木は昨日と変わらず満開で、淡い花びらが風に乗って舞い続けている。
坂道を登る学生たちの声。
自転車のベルの音。
遠くから聞こえる電車の走る音。
そんな穏やかな朝の中を――
「はぁ……」
一人の少年が重いため息をついて歩いていた。
天城蒼空。
昨日、元カノと再会したばかりの男子高校生だ。
(なんで同じクラスなんだよ…)
頭の中には、昨日の光景が何度も浮かぶ。
教室で突然現れた元カノ――
火神紅葉。
しかも彼女――
月城美月の前で「元カノ」と宣言した。
(今日、学校行きたくないな…)
蒼空がそんなことを考えていると――
「蒼空ーーー!」
元気な声が背後から飛んできた。
振り向くと、ショートカットの少女が全力で走ってくる。
「ひより…」
風宮ひより。
幼なじみで、いつも元気な女の子だ。
「おはよ!」
「おはよう…」
ひよりは蒼空の顔を見て笑った。
「なんか元気ないね」
「いや、別に…」
ひよりはニヤッと笑う。
「元カノ問題?」
蒼空は固まった。
「……」
「図星だ」
ひよりは楽しそうに笑う。
「まあでもさ、あれはビックリだったよね」
二人は桜並木の道を歩く。
花びらが風に舞い、二人の肩に落ちる。
その時――
「蒼空くん」
後ろから優しい声が聞こえた。
振り向くと――
月城美月が立っていた。
長い銀色の髪が春風で揺れている。
「おはよう」
「おはよう、美月」
美月は少し微笑んだ。
だが、その笑顔には少しだけ緊張があった。
「蒼空くん」
「ん?」
「昨日の子…」
蒼空は少し言葉に詰まる。
「……うん」
美月は静かに聞いた。
「本当に元カノなの?」
蒼空は苦笑する。
「昔、ちょっと付き合ってた」
「ちょっと…」
ひよりが横で小声で言う。
「中学の頃、めっちゃ付き合ってたよね」
「ひより!!」
美月の顔が少し固まる。
蒼空は慌てる。
「いや、もう終わった話だから!」
だが美月は黙ったままだった。
春の風が三人の間を通り抜ける。
そして――
学校に到着する。
校門の前には多くの生徒が集まっていた。
桜の花びらが舞う校庭。
朝練の声が響くグラウンド。
窓から差し込む光で輝く校舎。
いつもの学校の朝。
だが蒼空の気分は落ち着かなかった。
教室に入る。
ガラッ。
すでにクラスメイトが集まっている。
そして――
窓際の席。
そこに座っていた。
長い赤い髪の少女。
火神紅葉。
蒼空と目が合う。
紅葉はニヤッと笑った。
「おはよう」
「……おはよう」
ひよりが小声で言う。
「来たよ修羅場」
蒼空は席に座る。
だが次の瞬間。
紅葉が立ち上がり、蒼空の机に近づいてきた。
「蒼空」
クラスメイトがざわつく。
「な、なに?」
紅葉は腕を組む。
「今日、一緒に帰る?」
教室が静かになる。
蒼空は固まる。
「は?」
その瞬間――
椅子が引かれる音。
ギッ。
美月が立ち上がった。
教室の空気が一瞬で凍る。
美月は静かな声で言った。
「蒼空くん」
「う、うん」
「放課後、デートの約束してたよね?」
蒼空の背中に冷や汗が流れる。
紅葉は笑う。
「へぇ」
美月も笑う。
「へぇ」
ひよりがつぶやく。
「始まった…」
クラス全体が静まり返る。
蒼空は完全に板挟みだった。
だが――
その時。
教室のドアが開いた。
ガラッ。
三人の女子が入ってくる。
一人はクールな黒髪の少女。
一人は金髪のお嬢様っぽい少女。
もう一人は小柄で可愛い少女。
彼女たちは教室を見渡し――
同時に蒼空を見る。
「え?」
蒼空は驚く。
黒髪の少女が言う。
「あなたが天城蒼空?」
金髪の少女も言う。
「やっと見つけましたわ」
小柄な少女も言う。
「蒼空先輩ですよね?」
蒼空の頭は完全にパンクした。
(なんで…)
クラスメイトもざわつく。
そしてひよりが一言。
「蒼空…」
「うん…」
「ハーレム確定だね」
蒼空の平和な学園生活は――
まだ始まったばかりだった。




