第1章「新学期、恋が動き出す春」 第1話 『桜舞う朝、元カノが現れた日』
春の柔らかな朝の光が、街をゆっくりと照らしていた。
住宅街の道沿いに並ぶ桜の木は満開で、淡いピンク色の花びらが風に乗って舞っている。
花びらはゆっくりと空を漂い、まるで春の雪のように地面へ落ちていった。
その桜並木の坂道を、一人の少年が歩いていた。
天城蒼空。
黒髪で少し優しそうな顔立ちの、ごく普通の高校二年生だ。
肩にかけた通学カバンが、歩くたびに小さく揺れる。
「今日から新学期か…」
蒼空は空を見上げた。
青い空には雲がゆっくり流れている。
新しいクラス。
新しい一年。
少しだけ緊張していた。
そのとき――
「蒼空ーーー!」
元気な声が後ろから響いた。
振り向くと、ショートカットの明るい少女が手を振りながら走ってくる。
「ひより?」
風宮ひより。
蒼空の幼なじみだ。
運動神経抜群で、明るくて元気な女の子。
「おはよー!」
ひよりは蒼空の隣に並び、少し息を切らしながら笑った。
「置いていかないでよ〜」
「別に置いてないって」
「もう、冷たいなぁ」
ひよりは少しだけ頬を膨らませる。
しかしすぐに笑顔に戻った。
「でもさ、新学期だよ?ワクワクするよね!」
桜の花びらが、二人の間をふわりと通り過ぎていく。
そのとき――
「蒼空くん」
優しい声が聞こえた。
振り向くと、そこには長い銀色の髪を揺らす少女が立っていた。
朝の光を受けて、その髪はきらきらと輝いている。
月城美月。
蒼空の彼女だ。
「おはよう」
「おはよう、美月」
美月は少し恥ずかしそうに微笑む。
「一緒に行こ?」
そして自然に蒼空の隣に並んだ。
ひよりがニヤニヤしている。
「おー、朝からカップル登場」
「ひより!」
美月の顔が赤くなる。
蒼空は苦笑した。
三人は並んで坂道を歩く。
春の風が吹く。
桜の花びらが空を舞い、三人の周りをゆっくりと漂っていた。
このとき蒼空は思っていた。
――今日も普通の一日になる。
そう思っていた。
だが、その予想は――
学校で崩れる。
校門に到着すると、多くの生徒たちが登校していた。
校庭ではサッカー部が朝練をしている。
「パス!パス!」
ボールを蹴る音が青空に響く。
体育館からはバスケットボールのドリブル音が聞こえる。
春の学校の朝は、どこか活気に満ちていた。
蒼空たちは校舎に入る。
廊下には新しいクラス表が貼られている。
「どれどれ…」
生徒たちが集まり、ざわざわしていた。
蒼空も近づく。
「えっと…2年B組」
指で名前を探す。
「あった」
天城蒼空。
その隣に――
月城美月。
「やった!」
美月が嬉しそうに言う。
「同じクラスだね!」
「ほんとだ」
だが――
ひよりが突然言った。
「あ」
「どうした?」
ひよりはクラス表を見て、少し驚いた顔をしている。
「蒼空…」
「ん?」
「この名前…」
蒼空がクラス表を見る。
そこに書かれていた名前。
火神紅葉
その瞬間。
蒼空の心臓がドクンと鳴った。
「……まさか」
そして――
教室に入る。
窓から春の光が差し込み、教室は明るい空気に包まれていた。
蒼空は席に座る。
生徒たちは新しいクラスの話で盛り上がっている。
すると――
ガラッ。
教室のドアが開いた。
一人の少女が入ってくる。
長い赤い髪。
少し大人っぽい雰囲気。
そして強気な目。
その少女は教室を見渡し――
蒼空を見た。
その瞬間。
蒼空は確信した。
(やっぱり…)
少女は席へ向かって歩く。
そして蒼空の席の前で止まった。
ニヤリと笑う。
「久しぶりね」
蒼空は固まる。
「……紅葉」
火神紅葉。
蒼空の――
元カノだった。
ひよりが小声で言う。
「修羅場の予感…」
美月は驚いた顔をしている。
紅葉は平然と席に座りながら言った。
「まさか同じクラスになるなんてね」
蒼空の平和な高校生活は――
この瞬間から、大きく動き始めた。
そして彼はまだ知らない。
このクラスには――
彼の人生を変える9人の少女がいることを。




