何者
偽物は僕だ。僕は本物だ。何を言っているんだ。僕は何もかも分からないよ。自分の存在すらも分からないよ。消えてしまいたいよ。まだ消えなくていいよ。いなくなっていいよ。まだだめだよ。僕はまだ生きなきゃいけないんだ。まだ僕は...
僕は何者だ。僕は今何をしているんだ。まだ何もしていないのか。なぜ何もしてないのだ。歩き始めたのか。いやまだ歩き始めていないのか。なぜ歩き始めるんだ。その行為に意味はあるのか?
その行為は本当に自分の意志で行っているのか?
なぜ行動するのか、その行為をする度に考えているのか?
僕は何を考えてこの行為をしたんだ?何のために?それとも誰かのために?
僕は人を殺してしまった。襲われたからだ。
必死に抵抗をした。自己防衛だった。
なのに僕は人を殺してしまった。
その行為は実行する価値があったのか?
あった。自分の命を守るためだ。
なかった。逃げるという選択肢もとれたはずだ。
あるいは命をあきらめて死んでしまえばよかったのだ。
その選択ができなかった僕は弱者だ。
何も生まない身であるにもかかわらず、他人からは奪うのか?
なんておこがましい存在だ。僕にはそもそも生きる資格がなかったのだろう。
この世に産まれてくる価値がなかったのだろう。
僕には何もなかったのだろう。
僕にはなにも...
僕は走っていた。何のために。別に何のためでもないよ。ただ走りたくて走っているんだ。その行為に何の意味があるんだ?僕は何のために...
僕の意志に何者かの意志が侵入している。
これは僕の意志ではない。でも周囲の人からは僕の意志ということになる。
何者かの意志で僕の身体の操作権が占領された。
僕は無意識でなにか悪いことをしてしまったみたいだ。
僕は自分自身の行動に意志がないにもかかわらず全て僕のせいだ。
何なんだこの理不尽は。
僕は何もしていないじゃないか。
なのに僕は期待していた。
いるはずのない、僕の意志を信じてくれる存在に。
僕は何もしていなかった。何のために?そんなの問うまでもない。誰のために?何だその質問は。何をしたいんだ?何もしたくない。僕はただ無を実感しているのだ。
思考も行動も何もかも無にしてしまえば、誤解は起きないのだと。
これで僕を疑う奴はいない。僕は何もしていないからだ。
何もしていなければ何も起きない。そんなの誰でも知っている。
だから僕は考えるのをやめた。
無に身を任せるのが自然だからだ。
無は全てを受け入れてくれる。何も存在しない。何もない。
ただ無を彷徨うだけなのだ。
偽物の僕は、まだ僕の命を狙っている。
自分の命を守るためにはこの方法しか残されていなかったのだ。
ああ、僕はあとどれくらい人生を捨てればいいのだろうか。
いつになれば生きることを諦められるのだろうか。
無には幸せはない。不幸せもない。
それなら僕は一体何なのだろうか。
僕は何者なのだろうか。




