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僕はルルと会話する

 週末に僕は彼女とルルをマクドナルドに誘った。

 我々はハンバーガーを三個とポテトを食べてマックシェイクを飲んだ。正直、おごりは痛かったがこの後、何日か彼女の冷蔵庫から食品を頂戴(ちょうだい)して埋め合わせをすればいい。

「あのね、竹の林の中からすごい一杯のお金が見つかったんだよ」ルルは言った。「その後、その竹林にいろんな人たちが集まったんだって。みんな、お金がもっと落ちていないかなって思って集まって来たの。近所のおじさんとかおじいさんとか」

 僕はその話を聞いて少し呆然(ぼうぜん)としてしまった。竹林で三億円か、そのくらいの札束が見つかったのは僕が子供の頃のニュースだったはずだ。ルルはどうしてそんな昔のニュースを知っているのだろう。わからないし、自分がわからないことが僕は赦せない。僕は(いら)ついて、なぜかと聞いた。

「そこはかぐや姫のいた竹林だったの」ルルは答えた。

「かぐや姫の物語を読んであげた時に竹林で札束が見つかった事件の話を思い出したんです」母親が言い訳するように言った。「それで私がルルにそのニュースを話して、子供にはそっちの話の方がびっくりできて面白かったみたいなんです」

「へえ、そうか」僕はルルに向けて言った。竹取の(おきな)は竹林でかぐや姫と三億円を拾いましたとさ、と僕は内心で皮肉った。

 僕は文化的な面を見せようと井上靖氏の『敦煌とんこう』の戦争場面について論じた。僕が詳しく話すほどに母娘は唖然としていた。それで僕は自分が話題選びに失敗したことを知った。もっと卑近な話題を探さなければならなかった。

「今度おじさんが、大型犬が人間になった話をしてあげる」僕はルルに言った。「その犬は人間になっても頭の上に犬みたいな耳が付いていてね、大昔の妖怪だったんだけど現代の神社に来たんだ。そして神社の一人娘を護るために犬の妖怪は一所懸命に戦うんだ。すごく大きな刀を持ってね。その犬は普段は神社の娘と旅をして暮らしているんだ。娘と犬は愉しいお話をしながら旅しているんだよ」

「犬の妖怪はどうやって人間の言葉を覚えたの?」ルルは聞いた。「犬はじーっと人間を見て、何か気が付いたことがあるとわん! て()えて教えてくれるんだよ。だから犬はわん! しか言えないんだよ」

「その犬は半分、妖怪で半分人間なんだ」僕は答えた。「犬の妖怪は神社にある井戸から出てきたんだ。その時にはもう人間の言葉が話せたんだ。だって言葉が話せなくて、ずっとわん、しか言わなかった物語を作る人はうーんって困ってしまうだろ? 物語が全然前に進まないし、つまらなくなっちゃう。それに物語をする人もお話を作れなくてお金が稼げなくなって死んでしまうじゃないか」

「犬が言葉を覚えたら物語を作る人は困らない?」ルルは聞いた。「もう死んだりしない? ルルは犬が言葉を覚えたらいいなって思うよ」

「きっとそうなるよ。おじさんが約束する。水を浴びるとパンダに変身する男の人の話をしようか。面白いなって思わない?」

「パンダって体が真っ白に変わったら白熊になるんだよ」ルルは言った。「パンダが茶色になったら北海道の熊になるの。だって色が違うだけで同じ生き物なんだなってルルは思うもん。『いきものずかん』を見ててそっくりだなってルルは思ったの」

「食べるものが違うのさ。パンダは竹を食べて、白熊はアザラシを食べて、ヒグマは鮭の卵のいくらを食べるんだ」

「体の色が違うと食べていいものと食べちゃいけないものが変わるんだね。変なの。パンダはどんな匂いがするの? おじさんみたいな不思議な匂いがする?」

 僕の匂い? と僕は思った。床下にずっと暮らしているために僕の体からは土の匂いがするのか。自分では自分の匂いがわからない。

「パンダは竹と竹の葉っぱの匂いがするんだ。食べるもので体の匂いは変わるからね」僕は言った。

「ふうん。おじさんの家はどこにあるの? 『三匹の子豚』みたいな煉瓦(れんが)のお家なの?」

「おじさんの家はルルちゃんの家のとっても近所にあるんだ。怖い、怖い、お化けが()いている家だからお化けがいない時にルルちゃんを家に招待してあげる」

「ルルの家にもお化けがいるんだよ。お化けがベランダの下から出て来て走って行くのを見たもん。ルルはお化けなんか怖くないよ」

「いろんなお化けがいるからね。でも子供は暗いところからお化けが出て来る気がして錯覚(さっかく)するのさ」

 僕は内心冷や冷やしながらルルの言葉を聞いた。僕がベランダの下から家に出入りしているところをルルは見たことがあるのだ。

「サッカクって何?」ルルは聞いた。

「そこにいないものが目に見えた気がするんだ。おじさんも子供の頃はそうだった。子供にはよくあることだよ」

 母親は(うれ)しそうに僕とルルの会話を見守っていた。

 手近な問題ができた。ルルが目撃した僕の床下への出入りを誤魔化すことだ。「それは電気メーターを(はか)りに来た電力会社の人が庭を出入りしたんだろうね」と僕は上手く言い(つくろ)った。



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