〜2人目の被害者〜先藤隆道
四日目(木)〜二人目の被害者〜
先藤隆道
俺が朝、教室に入ると生徒から冷たい視線を浴びせられた。
(なんだ?)
「うわ、来たよ……」
「変態……」
「キモ」
(何を言っているんだ?)
「ホームルーム始めるぞ。席に付け」
いつもの様に指示をするが生徒は動かない。
(何故だ?)
ふと黒板を見て、背筋が凍る。
そこには俺が今まで撮った写真や瑠衣が表彰された際の記念写真だけでなく黒板に一面に俺のコレクションが張り出されていた。そして教卓の上には俺が取り付けて置いた監視カメラや盗聴器――。
(――まさか)
俺は宮瀬を見る。
――笑っていた。静かな笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
(宮瀬……!)
他の生徒は俺を蔑む様な目で見ている。
「気持ち悪い」
「最低」
「クズ教師」
「犯罪者」
そんな声が聞こえた。俺は周りを見渡す。
三年生の教室は隣の棟だ。この廊下を通らないと隣の棟には行けない。
(瑠衣はまだ来てないな)
俺が生徒達に近づくと皆悲鳴を上げて逃げていった。しかし宮瀬はその場に残った。
「宮瀬……」
「何?」
「何で、バラした?」
「瑠衣の部屋に盗聴器と監視カメラを仕掛けてあったから」
俺は顔が強張るのを感じた。
(嘘だろう? もうバレたのか。いくら何でも早すぎないか?)
「今まで兄さんの部屋に行く機会はなかったから気付くのは遅れたけど。それにしても隠すの下手だね。僕じゃなかったらあのまま隠し通せたからしれないけど。まぁ、でも――聞こえてたでしょ?」
「途中で辞めたけどな。あんなに暴言言われたら誰だって怯えくらいするだろ。……こんな早くバラすなんて思わなかった」
「僕がバラさなくとも、武がやってたと思うけど」
「何で、小野が?」
「武は知ってたよ。あんたの悪事、全部」
「え?」
「でも、黙ってた。だけど僕はあんたを許すつもりもないし、兄さんを渡すつもりもない」
「頼む、せめて瑠衣には言わないでくれ、何でもするから!」
「じゃあ死んで」
「宮瀬……!」
俺は気づくと少しずつ後退りをしていた。
しかし宮瀬は距離を詰めてくる。壁に背が当たる。宮瀬の手が俺の首に伸びかけた時だ。
「蓮〜!」
宮瀬の手が止まる。
そしてゆっくりと振り返った。
「兄さん……」
「瑠衣っ助けてくれ!」
「先生……」
瑠衣は俺と宮瀬を交互に見た。
「何、してたんですか?」
「俺は何もしてないのに、宮瀬が急に……」
「は? 勝手に兄さんに話しかけるなよ。低脳は黙ってて」
そう言う俺に宮瀬は敵意を向ける。
「兄さん、いつから居たの?」
「ごめん、なんか異様に静かだから教室に来たら先生と蓮が話してたから気になって盗み聞きしてた。てか、蓮、先生を脅してなかった?」
そう言われて宮瀬は顔を顰める。まるで、誤解だと言うように。
「脅して無いよ。事実を言ってただけ」
「どう言う事?」
「あれ、見たら分かるよ」
そう言って黒板を指差す。
「え?」
瑠衣が黒板を見ようとした瞬間俺は反射的に瑠衣の腕を掴んでいた。
「止めろ!」
「ひっ!」
「俺の……俺の人生が終わる……」
「い、痛い……」
瑠衣がそう声を漏らした。次の瞬間俺の体は吹き飛んで机に突っ込んだ。恐らく宮瀬に蹴られでもしたんだろう。
「……触った。兄さんに、触った。僕、兄さんに触るなって、言ったよね。何したか、わかってる?」
宮瀬の冷たい声が耳に入る。視界の端に黒板を見つめる瑠衣の姿が映った。
(あぁ、本当に最悪だ……)
瑠衣に見られた。終わった。俺の人生は終わったんだ。
「先生……どう言う事ですか?」
震える声で言う瑠衣に宮瀬が肩に手を当てる。そしてポケットから監視カメラを取り出す。
「盗撮だよ。学校中にこれを仕掛けてる」
宮瀬はカメラのスイッチを付ける。瑠衣は映像を見た。
「ひっ」
「大丈夫だよ。このクラスには無いから」
「…………」
瑠衣は驚いた表情で言葉を失った。
「なんだよ……悪いか?」
俺はそう言いながら体を起こした。
「悪いに決まってるじゃ無いですか……」
瑠衣は言葉を絞り出す様に言った。
「俺は、私的にしか使っていない。だったらこれは善だろ」
「善!? 何言ってるんですか? 犯罪なんですよ!」
「犯罪でもなんでも良い。俺は俺の為にやってるんだ。欲を満たせるならなんでも良いんだよ!」
「あ、頭おかしい……」
「宮瀬よりマシだろ」
俺は吐き捨てるように言った。宮瀬は苛立ったように俺を見た。
「僕とお前を比べないでくれる? 後、僕よりお前の方がクズだから」
宮瀬はゴミを見る様な目で俺を見つめて言う。そして瑠衣が宮瀬に続けて言う。
「先生、反省した方がいいですよ」
「何でだよ、俺は悪く無いだろ!」
「兄さん、何言っても無駄だよ。こいつ、脳みそ詰まってないから」
「な、なぁ、まさかだが教育委員会にバラす気じゃ無いだろうな?」
「バラすけど」
「嘘だろ? なぁ」
「嘘なんか付かないよ。兄さん、行こう」
「う、うん」
「待て、本当にバラすのか? なぁ!」
俺を無視して二人は去った。俺は絶望した気分で屋上へ行った。
(もう……終わった。何もかも)
俺はフェンスを乗り越える。
「……宮瀬さえ居なければ……俺の人生はもっと良かったはずなのに……」
「じゃあ、死ねよ」
突然、背後から声がする。
……誰だ? それを問いかける前に、俺の体は落ちた。




