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君を離さない  作者: 愛華
7/8

〜視線〜宮瀬蓮


      三日目(水)〜視線〜

               宮瀬蓮

 僕は先藤先生と別れた後、瑠衣から鍵を受け取り帰路を辿りながら考えていた。噂は本当だった。先藤先生が兄さんを好きなんて、信じられない。

 あってはならないことが、起きてしまった。胸の中にどす黒い感情が渦巻く。それと同時に吐き気が込み上げる。

(本当、気持ち悪い……なんであんな奴が教師なんだろ)

 それに、兄さんが武を好きだというのが本当ならいつも以上に目を光らせておかないといけない。僕がそう思っていると携帯に一つの通知が届いた。

(ん、兄さん?)

 内容は家に着いたら部屋に来て欲しいと言う連絡だった。

(兄さんの部屋……)

 兄さんの部屋に入れる。そう思った瞬間さっきまで感じていたどす黒い感情が消え去った。

(急がなきゃ)

 僕は急いで家まで向かった。

 家に着き、鍵穴に鍵を挿す。急いで扉を開けると兄さんが驚いた表情を浮かべて僕を見た。

「蓮、早いな」

「急いで帰ってきてって言われたから、心配で」 

「あはは……まぁ、来い」

「うん。で、どうしたの?」

 僕は夜ご飯を作りながら聞いた。

「その、相談なんだけど」

「相談って、何かあったの?」

「部屋で一人でいると視線を感じるんだよね」

「視線を感じる?」

「うん……」

 そう言いながら兄さんは料理を口に運んだ。

「――美味しい」

 兄さんは炒飯を一口食べるとそう言った。そこまで美味しいのかな。

「本当?」

「うん。蓮って炒飯作るの初めてだよな?」

「うん。そうだけど」

「美味しいよ、これ」

「良かった。それ、一つ具材加えたんだけどわかる?」

「え、何だろ。これか? この黒いやつ」

「あ、そうだよ。何だと思う?」

「ん……分かんない、何これ」

「ヒジキ」

「え、あ本当だ。ヒジキだ。でも何でヒジキ?」

「期限切れそうだって言ってたから入れてみた」

「あ……そうだ。忘れてた」

「兄さん、ヒジキ使った料理あんまり作らないのに買うんだもん」

「だって、安かったから」

「安いと買う癖、まだ治ってないんだね」

「うぅ……」

「意外と合うでしょ、ヒジキと炒飯」

「うん、違和感ない」

「良かった」

「思ったけど、めっちゃ話脱線してるな」

「だね。凄い褒められて忘れてた」

「俺も炒飯美味しすぎて忘れてた」

「……で、視線を感じるんだっけ。いつから?」

「いつだろ、先月?」

「えっ、なんで直ぐ言わなかったの?」

「最初は気にしてなかったから」

「直ぐ言ってよ。兄さんの悪い癖だよ」

「ごめん。でも、迷惑かけたくなかったし、どうすれば良いのかも分かんなかったから」

「迷惑じゃないよ」

「そ、そっか。次からはちゃんと言うよ」

「うん、そうしてよ。……ちょっと、部屋に行っても良い?」

「え? う、うん」

 僕は兄さんの部屋に入った。

 僕は兄さんを見てその理由を直ぐに理解した。

「……兄さん」

「な、何だよ?」

「こんな所だったら視線を感じても仕方ないよ」

「え? なんで」

「だってこれ、ぬいぐるみだらけじゃん」 

 兄さんの部屋は床や引き出しは綺麗に片付けられていたが、そこら中にぬいぐるみが置かれていたのだ。

「で、でもぬいぐるみだろ?」

「あのね、兄さん。視線を感じる能力って、人間には無いんだよ」

 そう言うと兄さんは驚いた表情で僕を見た。

「いや、嘘だろ。じゃ、じゃあ、何で俺は視線を感じたんだよ?」

「兄さん、確証バイアスって知ってる?」

「かく……何だって?」

(呆れ通り越して可愛く見えてくるな)

「確証バイアスは自分の持っている先入観とか考えを肯定する為に都合の良い情報だけを集める傾向の事だよ」

「んん……?」

「例えば、誰かが見ている気がすると思い込むと、その思いを確証させる情報を集める。実際にはそんな証拠がなくても信じ込んでしまうことがあるんだ。意味わかった?」

「えっと、つまり……どう言う事?」

「……つまり……兄さんの部屋にはぬいぐるみがたくさん置いてあるでしょ? それで兄さんは誰かが自分を見ていると思い込んだ。だけどその確証がないから脳が勝手に『ぬいぐるみがこっちを見ている』って言う情報に書き換えたんだよ」

「へぇ……?」

「……意味、分かってる?」

「う……ん、分からん」

(全く理解してない……)

「だから……ね、兄さんは視線を感じるって思い込んだ。だけど誰が見てるか分からないから、脳がぬいぐるみが兄さんを見てるって言う情報を作った。これで分かる?」

「うん、何となく。でも怖いな……勝手に情報が作られるって」

「でも、そういうのって脳が張り切りすぎてるのもあるし仕方ないよ」

「脳が張り切りすぎてる……?」

「勉強机には置いてないでしょ?」

「うん。勉強に集中したいからな」

「兄さんが視線を感じるのは脳が頑張って情報を処理しようとして、張り切るからで、それで視線を感じるって思い込みをする」

「うん」

「つまり、勉強頑張って偉い」

「……嬉しい」

「だから、このぬいぐるみ達は処分しよう」

「えぇ、ちょっと待てよ!」

「ん?」

「そのぬいぐるみ、先藤先生からクラスの大会の祝いでもらったやつだし捨てたくない!」

「え」

「去年貰ったんだよ。先藤先生が担任だったから。ここに置いてある奴全部大事なぬいぐるみなんだよ。記念のプレゼントだしさ」

「ん〜、じゃあ、これだけ持ってくね」

 僕は大きなぬいぐるみを手に取った。

「僕の部屋に置いておくからそれなら良いでしょ?」

「う、うん」

「それがなくなったらその……確証……」

「確証バイアス?」

「そう、それ、無くなるの?」

「なくなると思うよ。脳を休ませながらじゃないとダメだと思うけど」

「そっか……じゃあ、一時間くらい開けながらやろうかな」

「それは休みすぎじゃない?」

 僕は苦笑しながら言った。

「まぁ、兄さんの楽なやり方でやれば良いんじゃない? 受験あるんでしょ?」

「あぁ……」

 あからさまに嫌そうな表情をしている。勉強嫌いはいつになっても治らないみたいだ。

「じゃあ、そろそろ寝るね」

「蓮、ありがとう」

「……うん」

 僕は兄さんの部屋を出た。

 僕をぬいぐるみを見た。心の底から不快感が湧き上がってきた。

(あんな奴からぬいぐるみを……?

あんな下衆から……。兄さんは優しすぎるよ。それに、鈍感なんだな……)

 僕は暗い感情を胸に抱きながら部屋に戻る。僕はその「不自然に重い」ぬいぐるみを壁に押し付けてナイフで切り裂いた。

「本当……僕はお前が嫌いだよ」

 僕はぬいぐるみを切り裂きながら言った。

「こんな悪趣味な奴、他にいないよ。それに僕、言ったよね。仕事以外で兄さんに近づくなって。バラさなきゃ、分かんない?」

 ぬいぐるみの中から盗聴器とぬいぐるみの目に取り付けられていた監視カメラを取り出した。

「聞こえてるでしょ、クズ。兄さんが気づかなくても、僕は分かるから」

 僕はそれをバットで叩き壊した。

「教師の癖に、本当気持ち悪い。それに、やるならバレない様にやらなきゃ、ダメでしょ」

 僕は引き出しからヘッドホンを取り出して付けた。

「勉強面倒だな。て言うか何? 物質の三態って役に立つのか? 本当やりたくないな〜」

「やっぱり兄さんは独り言多いな〜。そこが可愛いんだけど」

「大丈夫だよ、あいつに何されてても僕が守るから」

そうして、僕は呟いた。

「大好きだよ。だから……離さないようにしなきゃね」

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