〜ライバル〜宮瀬蓮
二日目(火)〜ライバル〜
宮瀬蓮
僕が次の日、目を覚ますと兄さんが朝食の準備をしていた。
(凄いいい匂い)
「兄さん、おはよう」
僕はリビングに入ると同時に言う。
「蓮、おはよう。随分早いな。まだ6時半だぞ」
「そんな早いかな。兄さんこそ早くない? こんな豪華な朝食作れるくらい早く起きてるんだし」
「こんなもん簡単だよ」
兄さんはそう言いながら朝食を机に並べる。
「ほら、出来たぞ」
「頂きます」
眠い目を擦りながら僕は朝食を口に運ぶ。
「……美味しい」
「そうか。ありがとな」
「僕も料理の練習しようかな」
「え、本当か?」
「うん。いつも兄さんに任せてるし僕も少し出来る様になりたいから」
「じゃあ、時間がある時教えてやるよ」
「え、本当?」
「あぁ、勿論」
「ありがとう」
「いつでも言ってこい」
「うん!」
「あ、俺委員会あるからもう行くな」
「あ、いってらっしゃい」
「うん、蓮も平気だろうけど遅刻しないようにしろよ」
兄さんはそう言って家を出て行った。
(僕ももう行こうかな)
食べ終えた皿を片付けて僕はリュックを背負い家を出た。暫く進んだ所で違和感に気づく。
(足音……近づいてきてる?)
僕は後ろを見る。しかし誰もいない。
(何だ?)
僕は近くにあるカーブミラーを見る。その奥には電柱の影に隠れている人影が見えた。
(やっぱりだ……誰か付けてきてる)
ちらりと背後を見る。そこには見覚えのある人物がいた。
(あれ、武か。昨日に続いて付けてきてるな)
武は僕が見ていることに気づいたのか影に隠れた。
(怖……早く学校行こ)
僕は学校まで走って向かうことにした。
学校に着き、教室に行こうとすると兄さんが踊り場にいるのが見えた。
(兄さん? 何してるんだろ)
「見守らなきゃ」
そう呟き影から見ているとやがてスマートフォンを取り出した。誰かに電話をかけている様だった。
少し近づき耳を澄ませる。すると小さい声だったが相手の名前が聞き取れた。
もう少し近づいて話の内容を聞こうとすると先藤先生に呼び止められた。
「来い」
「……はい」
(――チッ)
苛立ちを隠しながら先生に着いて行った。
廊下の突き当たりの隅に連れていかれる。
「宮瀬、お前カンニングしてないか?」
「カンニング?」
「テストの点、お前はいつも上位だよな」
「そうらしいですね」
「カンニングしてるだろ。お前みたいな奴が頭がいい訳ないからな」
「何を言っているんですか? 僕の席は一番前の端の方。僕は視力が悪いし壁の陰で隠れるからカンニングをする事なんて出来ません」
僕はそう反論したが返って先生の神経を逆撫でしたらしい。
「うるせぇ! 俺に反論なんかするんじゃねぇ! 嘘吐きにはお仕置きが必要だよな?」
そう言いながら距離を詰める。
「…………」
僕は少し後退る。しかし直ぐに背が壁に当たり動けなくなる。
「暴力は犯罪ですよ」
そう言うが先生は余裕のある笑みを浮かべる。
「お前が訴えても誰も話なんか聞かねぇよ」
(……成る程)
恐らく先生はカンニングをでっち上げ、僕が抵抗してきたと嘘を吐き教室で晒し上げるつもりだろう。そして暴力を振るい欲を満たすつもりだ。虐められっ子だと言うことを利用した犯行だ。虐めを受けていれば痣くらい出来る。
「さぁ、覚悟しろよ?」
(この場合……抵抗しない方が良いだろうな)
僕は抵抗せずに受け入れた。腕、足、腹など様々な場所を殴られる事となった。
ホームルーム10分前までたっぷり殴られやっと解放された。
(無駄な時間喰ったな)
僕は踊り場に行くと兄さんはまだ通話していた。近づくと直ぐに通話を切った。僕は兄さんに話しかける。
「兄さん」
「蓮、どうした?」
「武と電話してたみたいだけど何話してたの?」
「あ、えっと、まぁ……」
(何だ? 曖昧な返事だな)
「何かの相談?」
そういうと兄さんが一瞬動揺した様に目を逸らした。
「えっと……昨日、借りてた本があったから返そうと思って取りに来てもらおうと」
(兄さん、手ぶらだったよな……。多分本を返すっていうのは嘘だな。それに、それだけで数十分も話すか?)
「それ、僕じゃダメだったの?」
「え?」
「武じゃなくて僕じゃいけなかったの?」
「それは……そんな事ないけど」
「じゃあ何で僕に言わなかったの?」
「蓮、何でそんなに怒ってるんだよ?」
「別に、怒ってないよ」
「本当?」
「うん」
「その、悪い」
「良いよ。でも、僕も頼ってよ。僕だって並程度には役に立てるし」
「分かった。ごめん」
兄さんがそう言った時、予鈴が鳴った。
「僕もう教室行くね」
「あぁ、分かった」
僕は教室に戻った。微かに痛む腕に触れながら思う。
(兄さんは何か隠してる。突き止めなきゃ。武に兄さんは渡さない。何があっても絶対に兄さんは守るんだ)
僕は片腕を押さえつけながらそう決意した。
やがてチャイムが鳴る。鳴り終わった頃――僕たちなら遅刻だと怒鳴られるほどの時間に先生がやって来た。顔を見るとさっきと全く違う顔をしていた。何故か青ざめている。
「ホームルームを始める前にみんなに言わなければいけない事がある」
そう言葉を発する。
(なんだろう)
「今朝、成瀬海が亡くなった」
教室中が騒然とした。
(成瀬が……)
不思議と何も思わなかった。普通、クラスメイトが亡くなれば悲しみもするのだろうが理不尽に虐められていたからかむしろせいせいする。
クラスメイトの何人かは顔を伏せて泣いたり青ざめている。
(そりゃそうだろうな)
リーダー的な存在だった成瀬が死んだんだし当然だろう。
いい気味だ、そう思った。
率先して虐めをしていた成瀬が死んだのなら虐めも無くなるだろう。
暗い雰囲気の中、ホームルームは終了した。
僕が教科書を取りに行こうとすると先生にに突き飛ばされた。
僕はなんとか体勢を立て直した。
「お前だろ!」
「何が」
「お前、成瀬殺したんだろ!」
「……え?」
その全く根拠のない発言に思わず呆けた声が出た。
「そうだろ!」
「そんな訳ないじゃん。後何で殺されたって分かるの? 先生は『亡くなった』としか言ってないのに」
そう言うと、高橋は焦ったような声で言った。
「そ、それは普通殺されたって思うだろ? それにお前は虐められてたから仕返しにやったのかと……」
「別に僕は成瀬を恨んでなんてないしやり返そうなんて思ってない」
「え?」
「なんで僕が疑われてるのか分からないけど人を勝手に犯人扱いしないで」
「……」
「じゃあ」
僕は教室を出た。こっそり視線を後ろに向けるとクラスメイトのみんなが呆然としていた。
僕が言い返すと思っていなかったのだろう。
先生は立ち尽くしていた。
その様子を武が睨んでいるのが見えた。
(別にそんなに気にしなくても良いのに)
いつになっても武の心配性は治らない。
(まぁ、別に良いんだけど)
視界の端に兄さんが中庭に向かうのが見えた。
(あぁ、そういえば兄さんは美化委員に入ってるのか。凄いな。委員会とか面倒で入ってないや)
――しかし、あの噂は本当なのか?
数日前から幾つか噂が流れている。
それは先藤が兄さんを気に入っているという噂、先藤が成瀬の父親という噂。そして、僕への虐めが先藤の指示だという噂。
もしそれが本当なら色々とまずい事になる。廊下を歩くとクラスメイトの話し声が聞こえた。
「ねぇ、知ってる? 三年の瑠衣先輩って武が好きらしいよ」
「え〜? 流石に嘘でしょ。だって瑠衣先輩っていつも蓮といるじゃん?」
「でもでも、武は蓮が好きらしくて盗撮とか尾行とかもした事あるらしいよ」
「え〜、三角関係じゃん。やば。」
「ね〜」
(――は?)
なんだ、その話は。兄さんが、武を好き?
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。
本当なのか? そうなのか? 有り得ない。それが本当なら、武がライバルだという事になる。
「武ばっかりずるいなぁ。何で僕じゃなくて武なんだよ………」
――どうしよう。
(話をつけるしかないか)
僕は憂鬱な気分で屋上に向かった。
(大丈夫。警告すれば過度な干渉はなくなるはずだ)
……大丈夫。僕は屋上から中庭を見下ろし花壇の水やりをしている兄さんを見た。
「兄さんが武に興味を持つのは最悪のシナリオだな……」
兄さんを見続けていると花壇に近づく人影があった。よく見るとそれは先藤先生だった。何かを話している様子だった。
(最近先藤と兄さん話す事多いな。まさか、本当に先藤が兄さんを好きとか? 教師が生徒に興味を持つのは流石に……。いや、噂になるぐらいだもんな)
「そろそろ潰すか……」
授業開始のチャイムが鳴った。
(利用価値があるかと思ったけど。全く無かったな……。早めに殺しておけばよかった)
僕は急いで教室に向かった。
授業中、僕は噂のことばかり考えていた。
(兄さんが武を好き……信じられないけど本当なのかな。今朝何か話していたし関わりがあるのはわかるけど)
早めに武を潰しておいた方がいいかも知れない。そう考えた時、ある考えが浮かんだ。
(最近の兄さんのストーカー。武は大柄な体という事が特徴。そして兄さんのストーカーも大柄な体。武が僕を好きならストーカーをする理由も納得できる。兄さんをストーカーする理由も兄さんへの嫌がらせだとすれば……)
兄さんのストーカーは武で間違いない。早めに潰して兄さんに知られない様にしないと、武が兄さんをストーカーしているなんて知られたら逆効果だ。
(後は先藤か。あいつはただのクズ野郎だし潰した方がいいよね。兄さんに影響したら大変だし)
色々と考えているうちに昼休憩になった。
(二人の関係を切るしか無い)
今はまだあまり関わらない方がいい。先ずは先藤だ。放課後決行しよう。彼奴は使えないし。
「兄さんは僕のものだから……ね」




