一章 〜学園〜宮瀬蓮
一日目(月)〜学園〜
宮瀬蓮
僕は宮瀬蓮。高校ニ年生だ。
今日は学校の日。僕は早々と支度を済ませ家を出た。
あまり人と関わりたくなかったので人気のない道を通って学校に向かった。憂鬱な気分で歩いていると突然背後から声をかけられた。
「よう、蓮」
「兄さん」
僕より一つ年上の三年の先輩――宮瀬瑠衣は僕の兄だ。
「どうしたんだよ、浮かない顔して」
「いや、別に何も」
「ふ〜ん」
「兄さんこそ、どうしたの? 先行ってたんじゃないの?」
「いや、ちょっと気になってな」
「何が?」
「ほら、ストーカー。この前言ってたじゃん」
「あぁ、武?」
兄さんからストーカーと呼ばれている僕の幼馴染――小野武。さっきから電柱の影からこちらを見ている。少し前に兄さんから注意されたのに懲りていないみたいだ。
「別に良いよ。何か直接されたわけじゃないし」
「あのな、俺が言える事じゃないけどそうやって放置してると後々面倒な事になるんだぞ」
「本当に兄さんが言える事じゃないね」
「うっせ……ちょっと注意してくる」
「え、ちょ、兄さん? 待って」
僕の制止を無視して兄さんは武の元に歩み寄る。兄さんは武が持っていたスマートフォンを取り上げる。武は苛立った表情で兄さんからスマートフォンを取り返して去って行った。
「自分の事を心配した方がいいと思うけど」
僕はそう呟く。すると突然肩を叩かれる。
「蓮さん、おはようございます」
「……神崎、慧」
(こいつ、またか)
「僕の名前覚えていてくれたんですね」
神崎慧。一年の頃から、何故か登下校に突然話しかけてくる同級生。僕は関わりたく無かったので無視をしていた。それなのに懲りずに僕に話しかけてくる。嬉しそうな表情で微笑む彼に僕は戸惑った。
「なんで僕に話しかけて来るんだ?」
「別に良いでしょう? 挨拶する事は大事ですよ」
「僕といると不幸になるんだよ?」
少し強めに言ってみたが彼は怯まなかった。
「大丈夫です。僕、今まで面倒ごとに巻き込まれた事少ないので」
笑顔で自信満々に言う彼の態度とその表情に僕は調子を狂わされてしまった。
なんなんだ、コイツは。今まで会った奴とは違う。僕の立場をわかっているのか?
恐怖心がないにしてもこの明るさはおかしい気がする。冷や汗が頬を頬を伝った。僕は溜め息を吐く。
「蓮、友達か?」
気づくと兄さんが目の前にいた。
「あ、兄さん」
「あれ、神崎じゃん」
「おはようございます、蓮さん」
神崎は兄さんに丁寧な挨拶をする。
「待ち合わせしてたのか?」
「え、いやそういう訳じゃ」
「じゃ、俺はここで」
「ちょ、ちょっと兄さん」
「じゃな〜」
兄さんは走り去って行った。
僕は兄さんを追いかける様に少し早足で歩いた。しかし彼は僕にピッタリ歩調を合わせてきた。僕は彼から離れるように歩調を緩めて少し後ろを歩いた。
「君さ……変わってるよね」
僕は思わずそう言ってしまった。言ってから後悔した。それは彼の個性を傷つける可能性がある言葉だ。
それを僕は理解して言った。果たして彼は驚いた表情をした。それもそうだ。しかし彼は笑ってこう言った。
「よく言われます。でもいいんです。僕はそう言われても屈しません」
「……」
やっぱり変わってる。
「あ、そうだ。最近物騒な事件が多くないですか?」
「何、急に」
「僕、ニュースを見るのが趣味なんですけど。その中で1番多いのが殺人事件とか窃盗とかなんですよね」
「そうなんだ」
「はい。知らないんですか?」
「普段テレビ見ないから」
「そうなんですか。とにかく最近凄いんですよ」
「そうなんだ」
そう話している内に僕らは学園に着いた。明星学園。この辺りでは有名な学園だ。
校門を通り校舎に着く。僕は下駄箱の戸を開ける。僕の体は不意に止まる。中を見ると僕の上履きが無くなっていた。
「…………」
状況を察したのか神崎が声を掛けた。
「あの、一緒に探しましょうか? まだ朝礼には時間が有りますし」
「別に、いい」
「そんな事言わずに。僕も探します。このままじゃ蓮さんも困るでしょう?」
そう言って慧は探し始めた。それに釣られるように僕の体は機械的に動き始めた。
数分、校舎を探し回った。僕はふと柱の裏に目を移すと暗い影の中に物が落ちているのを見つけた。
手に取ってみるとそれは僕の上履きだった。
「見つけました? よかったです!」
彼は飛び跳ねまるで自分のことのように喜んでいる。その姿に僕は既視感を感じた。どこかで見たことがある。
「……ありがとう、手伝ってくれて」
「感謝するほどのことでもないですよ。当然の事ですから」
当然。そうなのだろうか?
「それでは、また後で」
慧は教室へ向かっていった。僕も行かないと遅刻してしまう。
憂鬱な気持ちで僕は教室へ向かうのだった。
僕が教室へ入るとクラスメイトの冷たい視線が向けられた。
「お前、懲りないな。みんながお前を嫌ってるのに馬鹿か?」
そう嘲笑うように言ったのはクラスメイトの成瀬海だ。その瞬間クラス中に笑い声と非難の声が上がる。
僕が何をしたというのだろう。僕は彼等に吐き気を覚えた。自分の席を見つけて座ろうとするとそこであるものを見つけた。
よく見ると大量の画鋲が置かれている。それを取ろうとすると朝礼のチャイムが鳴り、担任が来てしまった。
「日直、号令」
日直担当が号令を掛けた。全員が立ち上がり礼をした。僕も慌てて礼をする。そして急いで画鋲を片付ける。
先生が出席をとっていく。しかし僕は飛ばされ次の人が呼ばれた。
「先生、宮瀬が呼ばれてません」
後ろの席の武が言ったが無視される。そしてそのまま出欠確認は終わってしまった。
一時間目は数学だった。担任の先藤隆道先生は数学と理科の担当だ。主に数学で理科は元々坂本先生だけど実験の際は先藤先生が担当している。
黒板に書かれた問題は√の分数の計算だ。これはすぐに分かったので手を挙げるが無視される。
いつもこんな感じで担任からは無視される。
手を挙げていても無駄という事を再認識したので授業中はノートを取ることに専念した。
ノートを取っていても試験の際に問題用紙も解答用紙も僕だけ配られないので意味はない。
(何かした覚えないけど)
そんなこんなで数学の授業は終わった。溜め息を吐いていると武が話しかけてきた。武がストーカーをして来ていることは知っているけど本人は気づかれていないと思っているらしい。
「お前大丈夫か? 先生に無視されてたけど」
「いつもの事だしもう慣れたよ」
「みんな感じ悪いよな。お前何もしてないだろ?」
「特に何かした覚えはないけど」
「許せねえな」
「別に良いよ。慣れたけど悪化するのは嫌だし」
「お前が良いなら良いけど」
武は小学校からの付き合いでいつも僕が困っていると直ぐに助けてくれる。ストーカーしていることを除けば大切な幼馴染だ。
「何か困ったことがあったら直ぐ言えよ。お前の頼みなら何でもやるし」
「うん。ありがとう」
「次は理科か。大丈夫か? またプリント渡されなかったら俺が言ってやるから」
「うん」
武がいるお陰で少しは楽だ。
次の授業の理科ではやはり僕だけプリントが渡されなかった。しかし武が先生に注意すると先生は舌打ちをしながらもプリントを僕に配った。内容は前日の実験結果のまとめ。単元は「生物基礎」。僕は前回の授業で実験に参加できずに隅で眺めているだけだったが幸い教科書を熟読した為、実験結果を知っている。
こうも結果がわかり切っている授業を眺めるのは暇だ。
あっという間に授業が終わってしまった。次は国語だ。国語の担任の矢吹先生は優しく僕にも周りの態度もお構いなしに話しかけてくれる唯一の先生だ。今日は文法をやるらしい。
黒板に次々と文を書いていく。
主語・述語、修飾語、補語、並立……様々な物が描かれる。別に国語は嫌いではないが文法はあまり好きではない。頭がこんがらがってわからなくなる。国語の授業が終わり先生に話しかけられる。
「宮瀬さん、学校は楽しいかな?」
「はい、まぁ」
「そうか、なら良かったよ」
「四時間目が終わったら昼ご飯だし、頑張ろうね」
「はい」
次の授業は社会だ。社会では今、日本史をしている。社会では基本板書をするだけなので何がされる事も無い。
これも何度も教科書を熟読したおかげで内容は全て分かっている。
社会科の担当の先生は教育実習の柏原先生だ。
柏原先生は優しく皆からも好印象で若い先生だ。柏原先生は緊張しているのか少しつっかえながらも要点をまとめて解説をした。
授業が終わり昼飯を食べる時間になった。
教室で食べていると成瀬に呼ばれた。
「ちょっと来い」
「え、いや」
「文句ある?」
「……」
(取り敢えず屋上に行くか)
仕方なくついて行くことにした。言われなくともされることはわかっている。
屋上に着く。その瞬間、殴られる。何度も何度も。そのうちの一撃が鳩尾に当たり倒れ込んだ。
「なぁ、反撃しないの?」
そう問われる。でも喉が焼けるように熱く、体が痛いせいで声が出ない。
「ねぇ、聞いてる?」
更に蹴られた。もう辞めて欲しい。けど逆らえばきっと更に殴り蹴りされるだろう。
「つまんない」
そう呟いたかと思えば海は屋上から立ち去っていった。これが毎日繰り返される。死んでしまいたい。そう思っても生憎僕には死ぬ理由はない。
何故なら僕には生きる理由のほうが死ぬ理由よりも遥かに上回るからだ。
痛む体を無理矢理起こして教室に戻る。
授業には当然、集中出来ず、何も話が頭に入らなかった。やがて下校時間になる。
気晴らしに屋上に行くと先客がいた。
(誰だろう)
そっと扉を開き前方を見るとそこには兄さんがいた。
(兄さん? 誰かといる)
よく見ると兄さんはクラスメイトの誰かといる様だった。しかし遠くてよく見えない。
「先輩、最近調子乗ってません? いつも宮瀬といるけどあんな陰気な奴といて楽しい?」
そう嘲笑うように言っているのは僕のクラスメイト――成瀬だった。
(なんで兄さんが成瀬に?)
分からない。分からない分からない分からない。
兄さんが成瀬に何かしたのか?
でも兄さんが成瀬に何かしていたところを僕は見ていない。兄さんの事はいつも見ているから何かしていたら分かる。
とにかく状況は最悪だという事だけは分かる。あんな下種で汚れた奴が兄さんに近づくなんて許せない。あってはならない事だ。
(最近兄さんが暗いのはそのせいか)
「………あいつ邪魔だな……」
僕はそう呟く。放っておくこともできずそのまま話を聞き続ける事にした。
「別に俺が誰といようが勝手だろ」
「そうだけど、なんか癪なんですよね」
「だからなんだ」
「あいつと離れてくれません?」
「嫌に決まってるだろ」
「えぇ〜。ノリ悪いですね、先輩」
「……」
「あ、そうだ。先輩、折角ですし一緒にゲームしませんか?」
「は? ゲーム?」
「最近、宮瀬ウザいし、一緒に虐めません?」
「何言ってんだ? 冗談だろ?」
「な訳ないでしょ。俺が今まで冗談言ったことあります? 取り敢えず一緒にしましょうよ」
「するわけないだろ」
兄さんは成瀬の言葉を遮るように口を挟んだ。
「虐めなんかするわけない。そんなのクズがする事だ。大体蓮は……」
そこで兄さんは言葉を止めた。
(何で止めたんだ?)
「何?」
「あいつは……俺の大事な人だから」
「だから何ですか? やっぱりノリ悪いですね。嫌われますよ」
「そんなの関係ない。俺はやらない」
「――分かりました。先輩誘った俺が馬鹿でした」
そう言って成瀬は去って行った。
「何なんだ……あいつ」
そう呟きながら兄さんは去って行った。
(……)
僕はその場を後にした。そして踊り場に座り暫く考える。
(どうしてやろうか)
兄さんに近づくという大罪を犯したあいつを放っておけない。僕の心の中でどす黒い感情が渦巻いていた。
(兄さんを助けなきゃ)
校舎に行くとクラスメイトがギョッとした表情で見て来るのを感じる。僕は今そんなに酷い顔をしているのだろうか。
でも、今はそんな事は関係ない。僕はずっと兄さんと成瀬がしていた会話の事ばかり考えていた。
兄さんの為なら何でもする。兄さんは僕のものだ。誰にも渡さない。2人の会話を思い返す度にどうしようもない怒りに駆られる。僕を貶すだけならまだ良い。僕自身はどうでもいい。
問題は兄さんだ。兄さんを貶す事だけは許さない。許せない。あって良いはずがない。あってはいけないんだ。
僕はこの怒りを抑えようと少し冷静になる事にした。2人は一体どういう関係なのか。先ずそれを突き止めよう。そう、思った。そうすればきっと2人と話もできる。
そして何よりも――。
(兄さんを傷つけさせない)
それが一番大事だ。
僕の生きる意味は兄さんを守る事。
兄さんを傷つける奴はこの世にいらない。
兄さんは僕だけのものであり、兄さんだけが僕の世界だ。
兄さんを傷つける奴は僕が消してやる。
あの時兄さんの温もりの中僕はそう誓ったんだ。まだ、体は痛むが家に着けば兄さんがいる。
ふと目の前を見ると兄さんが歩いているのが見えた。
(え。兄さんがいる――。可愛い)
僕は陰から見守ることにした。そうしていると兄さんが小走りになった。
(どうしたんだろう)
何かあったのか? もしかして変なやつに追われてるとか?
「……見守らなきゃ」
僕はこっそり後を追う事にした。少し近づこうとすると、肩に手が掛かる。
「蓮さん?」
振り向くとそこにいたのは神崎だった。
「神崎……」
「ストーカーですか?」
突然そう言ってきた。神崎はニコニコと笑顔を崩さずに歩み寄ってくる。
(お前に言われたく無いな)
「は?」
「瑠衣さんの事、つけてますよね?」
「……何だよ、お前」
「そういうのは、迷惑だと思いますよ」
そう言って僕の携帯を親が子供の携帯を取り上げる時のようにひったくり僕の鞄に入れた。
思わず声を出しそうになったが押し殺した。
「……うるせぇよ」
「なんか不機嫌ですね。どうしたんですか?」
「お前に邪魔されたからだよ」
「お前じゃないです。神崎慧ですよ、忘れたんですか? 今朝はちゃんと名前で言ってくれたのに」
「そんな事どうでもいいだろ」
「どうでも良く無いですよ」
そう言って僕の肩に触れようとした神崎を押し退ける。
「黙れよ。邪魔すんな、退け!」
「ちょっと、蓮さん!」
僕は急いで瑠衣の向かった方向に走る。角を曲がり辺りを見渡すが兄さんは既に居なかった。
「くっそ、見失った……」
僕は深くため息を吐く。
「あいつさえ来なければ……」
あいつさえ邪魔してこなければ兄さんを見失うこともなかった。大体勝手に他人のすることに意見するとか頭おかしいんじゃ無いのか?
(最悪最悪最悪最悪最悪………あいつ本っ当に邪魔……!)
僕は苛立ちを隠す程の余裕もなくなっていた。
(兄さんに近づく上に僕の邪魔をする……害悪でしか無い)
「何のつもりか知らないけど……早く兄さんの前から消えてくれないかなぁ……!」
僕は溜め息混じりに呟いた。そこで違和感に気づいた。
(誰か……いる?)
僕の背後にある電柱の後ろ辺りから誰かの気配がした。ちらりと後ろを見る。大柄な体の様だった。
(神崎じゃ、無いな)
あの様子だと確実に僕を狙っている。
背後に注意しながら家まで向かう。すると後ろの人影も僕に合わせて動く。間違いなく、ストーカーだ。
(……武か? 勘弁してくれ)
武からのストーカーに加えて神崎の妨害。そのせいで余計に苛立ちが収まらない。せめて兄さんに会うまでにはどうにかしたい。
(写真眺めたら収まるかな)
数日前に兄さんから送られた外出の際に2人で撮った写真を眺める。どの写真も兄さんは笑顔で可愛いものばかりだ。
(可愛い可愛い本当可愛い一生見てられる)
兄さんは男なのに女らしい顔でそれを揶揄うと 怒るところも可愛くて辞められない。
(取り敢えず帰るか。兄さんを心配させる訳にはいかないし)
僕は写真を眺めながら家に帰った。
家家に着き玄関の扉を開ける。
「ただいま」
「おかえり、蓮」
「なんか凄い良い匂いする」
「今日はカレー作っておいた」
「カレーって、あの……」
「調理実習で作らなかったか?」
「……あぁ、あれか」
思い出した。作った記憶がある。
「本当に兄さんが居てくれてよかったな。こんなに美味しい料理も食べれるし。兄さんがいなかったら僕はとっくに死んでたな」
「もう、あれから6年くらいかな」
「そうだね。兄さんがいなかったらどうなってたか」
「誰だって助けるよ」
「そんなものかな」
僕がそういうと兄さんはふっと笑みが消え、目を伏せた。
僕の両親は数年前に殺人事件の被害に遭い亡くなっている。
先ず母親が被害に遭った。その後父親も死に二人暮らしとなった。もう一人弟がいたが親戚の所に預けられた。
僕の両親は共働きでそこまで余裕が無かった為、まともな生活が出来ていなかった。
だけど両親の死後、兄さんがバイトでお金を集めてくれた。普通の暮らしが出来るようになってカレーや寿司、すき焼きなど色々な事を知った。
その度に兄さんは分かりやすく作って教えてくれた。その全てが僕には新しいものでとても楽しかった。
何より兄さんが教えてくれている。兄さんが僕に知識を与えてくれていることが一番の幸せであり全てが僕へのギフトだった。
「蓮、悩みとかあるか?」
突然、兄さんは真面目な顔で問いかけてきた。
「え、どうしたの? 急に」
「いや、ほら、蓮さ、色々溜め込んじゃうタイプだから気になって」
「悩み、か。……無いよ」
「え、何?」
「本当か?」
「うん。兄さんに嘘なんか付かないよ」
「無いなら良いんだけど」
「兄さんは何か悩みはある?」
「実は俺もストーカーされてるみたいなんだよね」
「え? 兄さんも?」
「うん、なんか……そんな気がするんだ」
「そんなの許せない! 兄さんが危ない目に遭ったら大変だし僕がストーカーから兄さんを守るよ」
「嬉しいけど、蓮が傷付いたら嫌だし気持ちだけもらっておくよ」
「でも、もし兄さんに何かあったら嫌だよ」
「俺だって蓮が傷付いたら……」
「じゃあ、何かあったら直ぐに兄さんに言うよ。それで良い?」
「うん。ありがとう、蓮」
「そのストーカーどんな人?」
「大柄な体だって事は分かる」
「大柄な人か……」
「そう」
「前に相談してくれたストーカーとは違うんだよね?」
「うん。多分」
前に兄さんに相談をしたストーカーは僕とよく似た姿だったらしく、僕が兄さんの側で日々付き添っているとストーカー行為は無くなったが足取りが掴めなくなった。
「で、その新しいストーカーに注意はしたの?」
「まだしてない」
「大丈夫なの?」
「今の所は大丈夫。何かされた訳でもないし」
「そっか。でも今朝兄さんが言ってた通り放ってると危ないんじゃない?」
「そういえば自分で言ってたな。蓮、本当にやるのか?」
「うん。だって僕は……兄さんが好きだから」
「それ、いつも言ってる」
「だって本当だから」
「絶対、兄さんは僕が守るから。だから、もう離れないでね」
「分かってるよ。絶対、離れないよ」
「僕だけの兄さんだから」
僕は小さな声で呟くように言って兄さんに抱きついた。兄さんは優しく僕を抱き寄せる。
そうしているうちに段々と安心感が湧いてくる。段々と意識が遠のいて行く。
大丈夫だよ、兄さん。
虐めっ子も、ストーカーも、兄さんには近づかせない。兄さんは僕が守る。ずっと、側にいるから。




