2話
目を覚ますと、木漏れ日が揺れる森の中だった。
周囲を見渡すと、あの白い空間は消え、どうやら木の根元に座り込んでいたようだ。
――なるほど、本当に異世界に転生したらしい。
とりあえず、街を探さないといけないな。
改めて周囲を見渡すと、木々が生い茂っていて視界は悪い。だが、少し傾斜があり、その先にはわずかに開けた場所があるのか、光が差し込んでいるのが見えた。
一旦、高いところに登って周囲の様子を確認してみよう。
そう思い、立ち上がって歩き始める。
坂を上り、木々の切れ間から覗くと、そこは急な下り坂になっていた。そのため、道が途切れたようになり、光が差し込んでいるのがわかる。
視界が開けた先には、森が広がっていた。ただ、一面が深い森というわけではなく、ところどころ木々がまばらになっている場所もある。その中に、小さな集落のようなものが見えた。
森に囲まれてはいるものの、わずかに開けた土地にあり、建物の数は少ない。このあたりが未開拓地であることは明らかだった。
そういえば、パートナーの呼び出しはできるのだろうか?
以前プレイしていたゲームにはパートナーシステムがあり、ソロでも冒険をスムーズに進められるよう、パートナーキャラや護衛用の動物が課金アイテムとして販売されていた。
――下は坂になっているし、試してみるか。
召喚する動物のことを考えながら、脳裏に過去の旅をともにしたパートナーたちの姿を思い浮かべる。その中から馬を選ぶようにイメージすると、目の前に馬が現れた。
――なるほど。選択画面を操作するのではなく、イメージで召喚する感じか。これなら練習次第で、戦いながらでも召喚できそうだ。
「久しぶりだな、ハヤテ。あの村まで頼めるか?」
そう声をかけると、ハヤテは甘えるように体を寄せてきた。一通りスキンシップを取ると、「任せろ」と言わんばかりに背中を向ける。
ハヤテは、オンラインゲームでよくある、リリース当初から実装されている普通の馬だ。何年も続いたゲームの中で、インフレの波に押され、最近ではすっかり使わなくなっていた。
トオルはハヤテの背に飛び乗ると、村へ向かい駆け出した。
オンラインゲームの時は気にしなかったが、パートナーにはまるで実際の動物のように自我があり、召喚者である自分に対して友好的なようだ。
ハヤテは賢く、指示を与えなくても坂を下り、森の中を迷うことなく進んでいく。
「村への移動がてら、できることを確認するか」
ステータス。
そう口に出してみる。さらに、念じるように意識してみる。だが、特に情報画面が表示されることはなかった。
異世界モノでよくあるステータスの表記は、本当にないんだな。
インベントリや装備の変更、入れ替えは、ハヤテを召喚したときと同じように、イメージすることで使えるようだ。
また、魔法については騎乗していても使用できるらしく、オンラインゲームでは不可能だったことができるようになっている。
キャラクターやインベントリ内のアイテムはそのままだが、パートナー画面やステータス画面のようなものは存在せず、自分の行動に余裕があれば装備の変更やアイテムの使用ができる、といった形になっているようだ。戦闘中など、余裕のない状況ではうまく扱えない可能性がある。
いろいろと確認しているうちに、森が開け、村が見え始めた。
「……何か騒がしいな」
村の方から騒ぎ声が聞こえ、人だかりができているのが見える。
「何だかおかしい。少し急いで行ってみよう」
村に着いてみると、入り口付近に軽鎧を身に着けた武装集団が陣取っており、村人たちは遠巻きに様子をうかがっていた。誰も武器を構えてはいないが、張り詰めた空気が漂い、まるで一触即発のような雰囲気がある。
――どうやら、ただの客ではなさそうだな。