1話
ユグドオンライン。
自由度の高さが売りのMMORPGで、職業の概念はなく、レベルアップやクエストで獲得するスキルポイントを割り振ることでキャラクターを強化するシステムになっている。
スキルの割り振り次第で、剣・弓・魔法・錬金術など多彩な戦闘スタイルが可能となるほか、裁縫・鍛冶・料理・交易・発掘・音楽など、プレイヤーごとの無限のプレイスタイルが楽しめる。
このゲームもリリースから十年が経過し、古参ユーザーたちはスキルを最大まで極めていた。
「高く売れるレアアイテムを探して徹夜してしまったが、ぜんぜん出なかった……」とトオルはため息をついた。
「ゲーム内通貨はいくらあっても困らないし、もう一周ダンジョンに入ろうか。な、……zzz」最後まで言い終わる前に、彼はそのまま眠りに落ちた。
徹夜の眠気も手伝い、トオルはそのまま眠ってしまった。
目を覚ますと、白い空間にぽつんと一人。夢かと思ったが、目の前を白いローブを着た人物が通りかかる。
「すみません、ここはどこですか?」トオルは思わず声をかけた。
「んん? 地球の者か……」ローブの人物は足を止め、じっとこちらを見つめる。「ワシは生物の輪廻転生を司っている神様じゃ。お主は集団転生としてここに呼ばれたんじゃが……」
神様は何やら手元の一覧を確認していたが、首をかしげる。
「……一覧に無いのう。どうやら先の集団転生に巻き込んでしもうたようじゃ」
パンパン。
神と名乗る老人が手を叩くと、羽の生えた――いわゆる天使のような姿をした人物が現れた。
「はい、何でしょう、神様」
「どうやら先の転生に巻き込まれてしまったようじゃ。ワシは先ほどの転生者の対応をせねばならんので、こちらの対応を頼む」
「承知いたしました」
「ではの」
そう言い残し、神様はパッと消えてしまった。
「改めまして対応します、ウニと申します」天使が丁寧に一礼する。
「私は神様の代行を務める者です。神様ほどの権限はありませんが、あなたにはいくつかの特典を選んで転生していただけますよ」
「全知全能」「不老不死」「傷のつかない体」――そういったものは聞いたことがあるが、どうやら代行者の権限では付与できないらしい。
また、「ドラゴンやフェニックスを一撃で屠る強さ」といった、具体性のない強大な力も却下されてしまった。
そんなとき、ふと、自分が長年プレイしてきたオンラインゲームのキャラクターを思い出した。
何年も使い続けてきたキャラクターなら、誰よりも詳しく扱える。
「自分が長年やってきたオンラインゲームのキャラクター、使えますか? かなり強いんですけど」
ウニは少し考えた後、微笑んだ。
「使用していたゲームキャラクターのコンバートですね。そのくらいの権限はありますので、特典として選択するキャラクターを教えてください」
ウニが手元の情報を確認しながら続ける。
「えーと……ユグドオンラインの……なるほど、結構昔からプレイされているのですね。転生先の世界ではかなりの実力者になりますが、権限内での転生は問題なくできますよ」
「転生先の世界は冒険者や魔法が存在する世界で、あなたの世界では“中世ファンタジー”と呼ばれるものに近いですね。過去には魔王などと人間が戦った時代もありましたが、今は安定して人間が統治する社会になっています」
ウニはふと何かを思い出したように、念を押すように言葉を続けた。
「それと……いきなり目立つ装備で現れるのは本当に大丈夫ですか? 辺境の村にいる形で転生させますので、慎重に行動することをおすすめします」
特典が決まると、ウニは素早く動き出した。テキパキとパネルを操作しながら、最後にもう一度確認するように頷く。
足元に魔法陣が現れた。
――なるほど、これが転生か。
魔法陣が眩い光を放ち、意識が遠のいていく。その中で、ウニの声が聞こえた。
「スキルがカンストしていてかなり強いですが、あなたは基本的に死ぬことがない仕様になっています。とはいえ、だからといって無茶はしすぎないでくださいね。それと、現地の人に無理を押しつけたり、力を誇示しすぎたりしないよう気をつけてください。楽しい異世界ライフを!」