龍の掟
四月...
「なぁ、進路はどうするんだ?」机に座った少年が聞く。
「高校はもう決めたよ。青葉学院。」椅子に座っている少年が応えた。
「げ!?青葉!?そんなとこ行くのかー。俺はそんな学力ないぜ、、。」
「お前はもうちょっと勉強しろよ。」
「おまえには勝てねぇだろ」
後ろから肩に腕をかけ話しかける少女。
「ねぇねぇ!なんの話ししてるの!?」
それから十ヶ月後...
「よし、受かった!」
自分の部屋でそう小声をあげた少年が一人。
彼は竜頭空歩。15歳、中学生。
念願の高校に受かったところだ。
「母さん!受かったよ!」
部屋から顔を出して両親に伝えた。
「やったね!今日はご馳走ね!お父さーん」
下の階から慌ただしく声が聞こえる。
携帯で幼馴染に電話をかける。
「もしもし?どうだった?」
「……」
携帯の奥からはだんまりとした空気が漂う。
「ま、まさか…」
すると…
「た…」
「…た?」
「受かったよ!!空歩!」
携帯の中から大きな声が響いた。
空歩は大きな声に耳を遠ざけながら聞いた。
「そ、それはよかったね!」
「これで一緒の学校だね、空歩!」
「そうだね!」
空歩と話しているのは夜烏麗羅。ポニーテールが似合う女の子。空歩の幼馴染。
「これから楽しみだね!空歩!」
麗羅は少年に向かって言った。
「ああ、これからもよろしくね。」
気さくに返す空歩。
「んー、これから会わない?」
麗羅が空歩に聞いた。
「えっ!?い、いいよ?」
戸惑った様子の空歩。
「じゃあいつもの所に。」
「うーん、どこのこと?」
「いつもの!」
「ああ、わかった」
亥の刻…
「ドゴーン」
地鳴りのような音が響く。
炎が上がり煙が立ち込める中そこには刀を持った二人の姿があった。
「キーン!」
刀同士がぶつかり合い、後ろに飛ぶ。
そしてまた前に繰り出し刀をぶつけ合う。
麗羅が目に力を入れると二体の分身が現れた。
空歩は麗羅の刀を弾き、目にも止まらぬ速さでその分身を切り、分身を消滅させる。
その隙を見逃さず麗羅は後ろに飛び、手を上にあげた。その手には稲光が集中し、雷の槍を作った。その槍を投げると槍は大きないかづちに変わり襲いかかる。
空歩は大きく息を貯めると口から大きな炎を吹き出した。技は交差し合い爆発した。それに巻き込まれ吹き飛ばされた麗羅、体勢を整え、刀を構えた次の瞬間、
喉元に切っ先が止まる。
音が止んだ。
「俺の勝ちだね」
空歩が麗羅に言った。
「くっそー!」
悔しがる麗羅。
お互い譲らぬ強さだ。
こうして修行を繰り返し、互いを高め合っている。
二人それぞれ力を持っている。
竜頭空歩は龍人族の一人。その身に龍の力を宿している。
夜烏麗羅は忍者の家系だ。様々な忍術を巧みに使いこなす。
「ふー、疲れた。」
麗羅がペタンと座りながら言った。
「そうだねー!」
空歩も横でペタンと座りながら言い放った。
「にしてもよかった」
「なにが?」
「空歩と一緒の学校に行けるようになって」
「そうだね、これからも一緒だね」
「何よー、嫌だった?」
「いや!そんなことはないよ!ただ…」
「ただ?」
「…うれしいよ」
「ふふっ!」
だだっ広い回り真っ白な空間が二人を包む
ここは竜宮院トレーニングルーム。二人の修行の場として使われている。
竜宮院には他にもいろいろなものや場所があり、その一角を担っている。刀や銃、防具なども借りることができる。
「そろそろ帰ろうか。」
「うん!」
そう言うと二人は竜宮院を後にする。
帰り道…
「帰ったら明日の準備しなくちゃな」
「明日は日曜日だよ?何かあるの?」
「うん、明日も竜宮院に行くんだ。」
「あたしも行っていい?」
「いいよ。」
「やった!」
少し小躍りをしている。
その時
「キャー!」
女性の悲鳴が鳴り響く。
二人はその方向を見ると武装した集団がぞろぞろと現れた。街全体に千余りの集団が武装している。
リーダーのような男が手を上げると一斉に銃を構えた。
そして
「撃てー!」
手が振り下ろされそうになったその時、二つの影が群衆を縫うように集団へと突っ込んだ。
「分身」
宙に吹き飛ぶ武装集団、そこには大軍団とも思えるような麗羅の集団が現れ、瞬く間に武装集団を再起不能にしていく。
呆気にとられる男達
「なにをやっている!撃て!撃て!!」
麗羅に銃口が向けられる。
「龍進」
千人はいた大軍勢が宙に浮いている。
そこには空歩の姿が。
よろよろと体勢を何とか建て直しリーダーの男が空歩の方向に手を振り下ろす。
「撃てー!」
声を上げ、軍団は銃口を向け、銃を撃ち放った。
「ズダダダダダダダダダ」
辺りに煙が立ち込める。
銃弾が止まった。煙の立ちこめる中囁いた。
「龍鱗」
すると、空歩の身体は銀色に輝いた鱗で覆われていた。
「なんなんだコイツ!」
そして空歩は深く息を吸う。
「龍火」
「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
地鳴り音のような音が轟く。
真っ赤に燃え上がった炎が武装集団を燃やした。
炎が消えるとプスプスと焦げ焦げになった集団の姿があった。
まるでヒーローだ。
「うおぉぉぉ!!」
歓声をあげる人々。しかし、二人の姿はなく、あれだけ居た分身の姿も一瞬で消えていた。
二人はその場を去っていた。
家周辺…
「それじゃあ明日家の前に来てね」
空歩が麗羅に向かい言った
「うん、わかった。」
麗羅は空歩に向かって言い、二人は帰った。
次の日の朝、日曜日
「次のニュースです。」
昨日のことがニュースで報道されていた。
武装集団は全員刑務所に入れられたようだ。
空歩がテレビを見ていると、
「あなた宛になにか届いてたわよ。」
母から小包を渡された。その中には布の包みと手紙が入っていた。
空歩は包みと手紙をポケットに入れた。
「それからこれ。」
何やら紫の風呂敷に包まれたある物を渡された。
「いってきまーす」
風呂敷を持ち玄関を出る、と
「おはよう。空歩。」
玄関前で麗羅が待っていた。
「よし、行こうか。」
竜宮院修練場
「ここで何をするの?修行?」
「違うよ、これを使うんだ。」
手に持っていた紫の風呂敷を開いた。中には木刀が入っていた。
「?」
「これを振るんだ」
そう言うと空歩は木刀を両手で持ち、目を閉じた。神経を集中させる。
大きく振り下ろした。すると木刀は炎を纏い、煙が巻き上がった。
纏っていた炎と巻き上がった煙は木刀に収束していった。煙が晴れ、炎が消えると木刀は刀に姿を変えていた。刃文は炎のような模様をしていて、刀身は赫く、刃は白く耀いている。
「廻木だよ。」
廻木「めぐりぎ」、様々な形に変え、振ることで形状を変化させる。
廻木は各地に自生している。
「その木刀を使って一閃を作ることが目的だったんだ」
麗羅は口に出した。
一閃、一閃シリーズとも呼ばれ廻木を使って作った物の総称。廻木の性質上ありとあらゆる形、材質のものがある。
廻木で作った刀の刀身には「龍火」の文字が刻まれていた。
「龍火一閃」
空歩はそう名付けたのであった。
空歩はポケットの中に入っていた包みと手紙を取り出した。
包みは竜宮院本家から入学祝いに送られてきた異次元ボックスという代物だ。竜宮院が保有する龍の宝玉と異次元の秘術を組み合わせることで造られた異次元拡張型簡易保管領域だ。
これを使うと、物などを異次元に入れることができる。いわば何でも入っちゃう優れものだ。
空歩は玉の入った包みに向かって指を広げた。すると異空間が現れた。そこに出来上がった龍火一閃を入れた。そしてその包みをポケットにしまった。
「今日の用事は終わったよ。どこか行く?」
空歩は麗羅に向かって言った。
「じゃあ、ショッピングに付き合ってよ!」
「いいよ。」
「よし!じゃあレッツゴー!」
二人はショッピングモールに行くことにした。
二人は…ショッピングを…楽しんだ……
ショッピング中、空歩はあるものに目を止めた。肩掛けのバッグだ。質もよく値段もお手ごろだ。これを買うことにした。
その後もショッピングを楽しんだ。
帰り道…
「今日はありがとう」
麗羅は嬉しそうにそう言った。
「こちらこそありがとう、お陰でいいものに出会えた」
空歩は笑顔で応えた。
「じゃあ明日学校でね!」
麗羅は笑顔でそう言った。
「ああ!」
空歩も笑顔で返した。
二人は家に帰った。
次の日の朝、月曜日
交差点のつき当たりで麗羅がニコニコしながらこちらを待っていた。
「おはよう!空歩!」
空歩も返す
「おはよう」
二人の足は学校の方向を向いている。
学校に着いた。学校の同級生達が挨拶をする。
鹿悦中学校
空歩たちが通う中学校だ。ごくごく普通の中学校である。
空歩と麗羅は同じクラスだ。学力は麗羅と空歩が1位2位を独占してる。スポーツでも二人は抜きん出ている。麗羅は女子の中でも空歩を除いた男子の中でも一目置かれている。空歩はスポーツではトップクラスに凄かった。
歌は…麗羅はものすごく上手く歌っている。
空歩は…ほぼ口パクだ。なんでも音を出すと皆が音程を忘れ、パニックになるらしい。まったくの脅威だ。
席は隣同士だ。いつも他愛もない話をして笑っている。
二人とも部活には入っていない。その代わり助っ人メンバーとして活躍している。部活の中ではどこにでも引っ張りだこだ。ほぼ毎日助っ人に呼ばれている。
帰り道は一緒に帰っている。学校の日常はこんな感じだ。
学校の帰り道
「今日は寄ってくの?」
麗羅は空歩に聞く。
「今日もお邪魔しようかな」
空歩はどこかに行くようだ。
「飲み物持っていくよ」
「ありがと!」
そういうと二人は家に帰った。そして空歩が向かったのは…
「よお空歩」
元気な声で出迎えてくれたのは麗羅のお父さんだった。
「お邪魔します」
「いらっしゃい!」
麗羅がひょこっと顔を出した。
ここは道場、麗羅の家の離れにある忍術道場。門下生を多数輩出している。
「これ!皆さんで召し上がってください!」
そういうと袋を麗羅のお父さんに渡した。
「よお空歩!今日も稽古していくかぁ!」
道場の中からたくさんの門下生が空歩に向かって溢れた。
「あぁ!今日もよろしく頼むよ!」
空歩も負けじと言った。
その熱気の中ひゅぅと冷たい風が流れる。
「竜頭空歩、お姉さまに付着するゴミが!」
「ら、雷夢」
彼女は烏間雷夢、小学六年生で麗羅とは従姉妹にあたる。
「ま、待て雷夢」
「殺す」
手刀で喉元を掻っ切ろうと言うように腕を伸ばす雷夢。
それを間一髪でかわす空歩
「はい、終わり」
雷夢をひょいっとつまみ上げる麗羅。
「助かった…」
「お姉様、ゴミを排除しようとしただけです」
(ご、ゴミ扱い…)
「コラ!ゴミなんて言っちゃいけません!」
「むぅ」
ほっぺをぷくぅと膨らませる雷夢。
「良いでしょう、今日は私が稽古の相手です。」
そういうと雷夢は構えた。
「さあ!構えなさい!」
「えーっと…」
「もぉ!空歩困ってるでしょ!」
麗羅はちょっとむすっとしている。
「いいよ、今日は雷夢が稽古相手だ。」
そういうとわらわらと稽古が始まった。
夜も更け、玄関先で麗羅と空歩が話している。
「今日はありがとう、雷夢も嬉しそうに寝ちゃったよ」
「こちらこそありがとう。」
「これ持ってって、うちで作った肉じゃが。」
袋を貰い家路に向かう
「ありがとう、じゃあまた明日学校で、」
麗羅は帰る後ろ姿に手を振った。
朝
ドタドタと騒がしい
「寝坊したー!」
空歩は寝坊した。
服を着替え、バックを持つと一目散に玄関に飛び出した。玄関を出ると麗羅が待っていた。
走りながら麗羅が言った。
「あと十分で門閉まっちゃうよ!」
二人は走った、そして学校まで直線、あと五分。
「行くぞ!」
そう言うと空歩は足に力を溜めた。
「龍進」
「烏間雷迅足!」
二人は一直線に門に向かって飛ぶように走った、そしてなんとか間に合った。
「ふー、着いた」
二人は手で汗を拭いた。
「にしても先に行ってくれてよかったのに」
上履きに履き替えながら空歩は言った。
「あと味悪いじゃない」
麗羅は空歩にそう言った。
午後
今日の授業も終わり、空歩達は帰る準備をしている。
「今日は一人で帰るよ。」
麗羅にそう言うと空歩はそそくさと帰っていった。
帰ると空歩は着替えをしていた。
「空歩、行くよ、」
カバンを持って準備万端。
向かったのはショッピングモール。
ここで文房具を買うようだ。
入学準備に文房具を揃えることにしたらしい。
空歩は色々なものを見て回った。
次の日、空歩は麗羅の家の道場に行っていた。
空歩が道場の端で座っていると
「竜頭空歩」
雷夢がちょこんと隣に座ってきた。
「どうした雷夢」
「四月から高校生なのだろう?」
「ああ、そうだな」
「お姉さまと同じの学校、羨ましい」
ちょっと妬んでいる。
「実を言うと頼みがあるのだ」
片手で口を防ぎ内緒話をしようとしている。
空歩は片耳を傾けた。
「スライムを捕まえてきてほしいのだ」
スライム、別名水魔。洞窟や森林などに生息してる生物。魔物とも呼ばれ気性はおとなしく、獰猛性はない。スライムがいる場所には色々な生き物、富や財宝などが眠っていると言われている。
「この東にある・何呪の窟・という洞窟がある。そこに行ってスライムを取ってきてほしいのだ」
「ん〜」
「そこは色々な遺物や採掘物、生態系があるとされている。」
「なるほど」
「それとそこは様々な呪いがあるとされて近づけんのだ」
「それって俺も危ないんじゃ…」
「そこは心配するな、これを持って行ってもらう」
そう言うとポケットから御守りを取りだした。
「これは?」
「呪祓のお守り、これはどんな呪いも寄せ付けない烏間家の法術が練り込まれたお守り、これがあれば入れるだろう」
「うーん」
「そこには様々な魔物が住んでいて私は入れないのだ、頼む」
ここぞとばかりに甘えた目を向けてきた。
「よし、わかった」
「本当か!?よし!善は急げだな」
「ま、待て待て。今日行くとは言ってないぞ?日を改めて明日の学校が終わった…午後だな」
「よし、決まりだな。あ、お姉さまには内緒だぞ」
「わかったわかった」
そう言うと御守りを貰った。
次の日、学校が終わり下校時刻になると麗羅が駆け寄ってきた。
「空歩!一緒に帰ろ!」
空歩はビクッとなった。
「い、いや!今日は一人で帰ることにしたんだ、予定があってさ、それじゃね!バイバイ!」
ありえない早口とありえない速さでその場を後にした。
「…?」
そして、何呪の窟に着いた。
胸ポケットに入ったお守りをポンと叩いて確認した。
(よし、行くか)
何呪の窟に入った。洞窟は坂道になって下に進んでいた。
空歩は考えながら足を進めていた。
(この先にスライムがいるのか。でも他の魔物もいると言っていたな、注意して進むとしよう)
空歩はポケットに忍ばせた異次元ボックスを確認した。
(異次元ボックスに服や食料もある)
そう言うと拳を握り締めた。
(あまり一閃に頼らずに乗り越えてみよう)
坂を下ると道が続いていた。
そこをうねうねと進行していく。
すると緑の肌の耳の長い生き物が現れた。ゴブリンだ。奇声を上げ、突撃してきた。
そこに空歩の姿はなかった。
キョロキョロするゴブリン。
空歩はゴブリンの後ろを素通りして行った。
(スライムは異次元ボックスに入れて持っていけばいいか)
道を進むとまた坂道になっていた。
空歩は坂を下っていく。坂を下ると大きな広場になっていた。
(なんだ?ここは、デカめの広場に出たな)
空歩は広場を見渡しながら歩いた。
「ヴォォォ!」
威勢をあげながらコボルトがわんさか出てきた。
その土埃で鼻がむずむずした空歩はくしゃみをした。
「ヘックション!」
くしゃみの音とデカさでコボルトよ耳の鼓膜が割れ、吹き飛んだコボルト達、倒れたコボルト達をよけながら空歩は先に進んだ。
奥に進むとまた坂道が続いていた。
「また坂ぁ?」
愚痴を垂れながら進む。
今度はさっきの坂道よりも長さがあった。
ようやく下にたどり着くとそこは大きな森になっていた。地下なのに上から白い光が差しており辺りは緑色に光っていた。
不思議そうに辺りを見回しながら先に進むとさっきたぶん出くわしたゴブリンと、くしゃみで吹き飛ばしたコボルト達の集落があった。ゴブリン達は空歩を見ると一目散に集落の中に逃げていった。コボルトも同様だ。
そして池のような場所に出た。そこにはスライムの姿があった。
「お、居た」
異次元ボックスに入った網を使ってスライムをすくい上げた。
それを異次元ボックスに入れた。これで任務完了だ。なんとも呆気ない終幕だ。
池の大きな石の上に胡座をかいて座る空歩。異次元ボックスに忍ばせておいたおにぎりとお茶を取り出した。
周囲にゴブリンとコボルトが群れ始めてきた。ゴブリンがおにぎりをじーっと見つめている。それを見て空歩は異次元ボックスに入っていたポテチとサンドイッチお取り出しゴブリンとコボルトに分け与えた。
ゴブリンとコボルトは大喜びだ。むしゃぼりつくゴブリン達。
そうすると空歩は立ち上がりながら砂を払った。
空歩はある所に目がいった。
明らかにあやしい場違いなドアがあった。
それをじっと見終わると、振り返って洞窟を後にした。
洞窟から出ると空歩は家に帰った。
時間は昼過ぎになっていた。
帰ってから支度をして麗羅の道場に向かった。
道場の前にはそわそわした雷夢がいた。
空歩を見つけるとタタタッとそばに駆け寄ってきた。
「空歩!見つかったのか!?」
雷夢は目をキラキラさせながら言った。
「ああ、どこに置く?」
「うむ、一旦持っていてくれ」
「あ、それとこれも返しておくよ」
そう言うと御守りを取り出す。
「それはあげる。大切にするのだぞ。」
首を傾げながらお守りを胸ポケットにしまった。
「あれ?空歩」
麗羅が玄関から顔を出した。
二人はビクッとした
「予定があるんじゃなかったの?」
「いや、終わらせてきたんだよ」
「そ!今日も寄ってく?」
「ああ!」
そう言うと三人は道場に入る。
雷夢が道場に入りながら言った
「お姉様には内緒だよ☆」
可愛く言い放った。
そして空歩は道場から帰ると部屋でふと思った。
(あの咋に怪しいドアはなんだったんだろう?)
それは明らかに人為的に作られたドアだった。
次の日
空歩はスライムを部屋で放し飼いしてみた。
スライムはなんでも食うらしく放しておくとホコリを食べ、部屋が綺麗になっていた。
触るとプルプルしてひんやりしている。空歩はスライムにベッタリ引っ付いている。
と、ふと雷夢に言われて取ってきたのだった、と思い返し、雷夢に渡しに行くことにした。
まずは麗羅の家に行くことにした。
麗羅の家に行くと雷夢は家にいるらしい。
雷夢の家の場所を聞くとそこに向かった。
家に着くと大きな大豪邸が広がっていた。インターホンを鳴らすと大きな門の小さなドアが開き雷夢がひょこっと出てきた。
「何か用か竜頭空歩」
いつもの調子で聞いてきた
「やっほー雷夢!」
空歩の後ろからひょこっと麗羅が顔を出した
「お、お姉さま!」
「本家の様子見に来たよ!空歩が用あるって言うから次いでにね」
たじろぐ雷夢。
「お姉様立ち話もなんですし、さささ!どうぞ!…で、貴様はなんだ?竜頭空歩」
「本とあれを持ってきた」
「あぁ!あれか!」
二人は雷夢の家に上がった。
「おはようございます、お嬢様」
皆が各々雷夢に対して挨拶をした。
ここは麗羅と雷夢の一族の本家に当たる場所、本家と言うだけあってすごく大きく様々な部屋があるようだ。
「ささ、こちらへお姉様」
デカめの部屋に案内された。
どうやら雷夢の部屋らしい。
「お前はこっちだ竜頭空歩」
空歩は同じくらい大きな部屋に案内された。どっちがどっちかわからないほどだ。
「渡してくれるか?」
そう言うと雷夢は両手をパァっと広げた。
「はい」
空歩は異次元ボックスから網に入ったスライムを取り出した。
「そういえばお主に褒美を渡してなかったな」
「褒美なんていいよ」
「そうか」
ちょっと寂しそうに下を向く。
「わかった、じゃあ貰おうかな。で、何が貰えるのかな?」
「本当か!じゃあ耳を近こう寄れ」
空歩は耳を傾けた。
すると
右頬にキスをした。
「キャー!!」
どこからともなく聞こえる叫び声。
麗羅だった。
「ふふふ、ふ、二人共!ななな何してるのよ!」
「何ってお姉様」
「だって今ほっぺにきききき、きき、き、き!」
それ以上は言えなかった、恥ずかしくて。
「もう意味わかんない」
麗羅は泣き出した。
「れ、麗羅!これは違うんだ!」
「何が違うって言うのよ!」
空歩は事の顛末を淡々と話した。
「すらいむ?ほうび?」
「なんだってさ」
なんかむずむずしてきた麗羅
「ああ!もうわかった!空歩!目閉じて!」
「れ、麗羅?」
「いいから早く!」
パチッと言われるがまま目を閉じた。
麗羅は左のほっぺにキスをした。
とっさに目を開ける空歩、
時間は十秒は続いた
パッと離す麗羅。
「こ、これでおあいこ…」
ぜぇぜぇと息を漏らす麗羅。
雷夢は目を背けていた。
(何がおあいこなのだろう?)
空歩はそう思いながらも、
「じゃあ帰るか」
プンスカしている麗羅をなだめながら、空歩達は雷夢の家を後にした。
竜宮院トレーニングルーム
「なぁ、機嫌直せよ麗羅」
まだちょっとぷんぷん怒っている。
「だってあんなことするなんて」
ぷりぷり怒り出した。
「それと、本家に行ったのは他にも理由があったんだ」
そう言うと鞘付きの刀を突き出した。
「『烏間一閃』、うちの業物だよ」
麗羅は落ち込みながらも淡々と言った
「…気が変わった。これを使って真意を確かめてやる」
「……」
空歩はちょっと呆れている
「わかった、じゃあこっちもこれを使うよ、」
そう言って異次元ボックスからある物を取り出した。
刀身に『龍火』の文字、龍火一閃、だ。
「こっちもこれを使って何もなかったって事、証明する」
麗羅は背筋に電流が走る。
刀を握りしめて空歩が言った
「龍火一閃はこれが初試合みたいなもんだ、気合い入れないとな」
「やっぱり空歩だな」
麗羅がポロッと言った。
そしていつもの二人だけの稽古が始まった。
…
「俺の勝ちだね」
烏間一閃が宙に舞い、床に刺さり、龍火一閃が麗羅の喉元に止まった。決着が着いた。
「むうう!」
なかなかの一戦だった。
「にしても烏間一閃、かなり凄い代物だな」
「それは、中一の頃私が作った一閃だよ」
烏間一閃は烏間本家の道場で作り出した麗羅の傑作で烏間一門の家宝だ。
烏間一閃へと歩いて刀を取ると麗羅はこう言った。
「これを空歩にあげようと思ってさ」
「!?」
一閃シリーズは売れば高値で買い取られる高級品だ、烏間一閃ともなれば名が知れているのもあり高級どころの騒ぎではない代物になる。その烏間一門の家宝を譲るとなると余程のことだ。
「いっ、いいのか、本当に?それ烏間の家宝だろ?」
「いいの!ウチが作ったんだし持ち主が譲渡するって言ってるんだし」
一閃シリーズはある特徴がある。
一閃は一つ一つ意志を持っている。その意思で一閃の持ち主、つまり主を一閃が決める。そしてもうひとつ、一閃は基本奪うか譲渡でしか持ち主を変えることが出来ない。その二つのどちらかをしないとその真価を発揮することが出来ず、鈍にもなり変わる。
「じゃあ、いいのか」
「そうよ、本当はこれを渡そうと思って本家に行ったのにあんなことに…」
泣きながら刀を見つめる。
「ホントに何もないのね!?」
「ああ!何にでも誓ってやるさ!」
空歩は思いっきり拳で胸を叩いた
「わかった!じゃあはい!」
そう言うと両手で刀、一閃を差し出した。
それを受け取ると刀は黒く光った。
烏間一閃は空歩を主と認めたのだ
「ふぁあ、今日は疲れたな」
空歩は思わず欠伸が出た。
空歩は麗羅に言った
「帰ろっか」
「帰ろ」
二人は目を擦りながらその場を出て行くのであった。
一週間後
竜頭家に手紙と一緒にある物が届いた。手紙にはこう書いてあった。
『竜頭空歩殿、今回折り入って頼みたい事がある。君の持っている龍火一閃と同等のもの、一閃を、全国を周り、回収してもらいたい。先週の稽古の模様見させていただいた。実に見事だった。その活躍を是非とも一族の未来に使って頂きたい。今後の活躍を期待している。竜宮院本家共々よろしく頼む。追伸、また気兼ねなくトレーニングルームを使ってくれ、あそこの院のもの達にもいい刺激になる。』
その手紙と同じ包みに入っていた荷物を開けた。中身は古びた巻物だった。
そこにはこう書いてあった。
龍の掟