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goodbye MR ライディ  作者: 富永 真一
25/27

ライディの最期

 オレは、まだ眠りから覚めない重い体を前に倒すようにして歩いていた。融資課に異動になって2週間が過ぎたが、慣れない仕事は予想以上にきつかった。

いつもと違う光景に足を止めた。商店街の入口にある交番に、多く警官が集まっている。何かあったのだろうか。


川で、金曜日の朝、ある老人の遺体が発見された。オレはロッカーでコートを脱いで鏡でネクタイを確かめながら隣のロッカールームから聞こえてくる声を聞いていた。

「聞いた?」

「え?」

「ライディさん」

「うん」

「かわいそうよね、この寒い中、冷たい川で見つかるなんて」

オレは女子ロッカーからの声を背にロッカーを出た。いつかは来ると覚悟していた日が来たという風に。

ライディは毎日のように、先立った妻の墓参りに行っていた。彼の遺体の周りには墓に供える花と線香がある。そんな情景がオレには浮かんだ。


ライディの死去の知らせは支店を賑わせたが、どうして彼が川で死んだのかは、まだ伝わってこなかった。事故なのか、何かの事件に巻き込まれたのか、それとも自ら選んだのか。オレは警察の捜査が進んでも、そのことについてはずっと知らないでいたかった。


ライディは自分でもよく分からないまま死んでしまった、ということにしておきたかった。あの人にはこの世への未練などあるはずもない。


あの人は死ぬ直前まで自分が死ぬなんて思わなかったはずだし、死の恐怖など彼には無縁だったのだ。奥さんの墓への坂を上っているつもりが、ふと我に返るとあの世への坂を上っている、そんな懸命で周囲から見ると滑稽な最期が彼には似合っている気がするのだ。


あの底抜けに無垢な笑顔やオレに向けた得意げな笑顔が交互に浮ぶ。


 天国への階段を、戸惑い、笑いながら、そして時々躓きながら上っている老人の後姿はある意味幸せそうだ。遺体と一緒に見つかったと言われるうちの銀行の名前入りの黄色いタオルは、オレが入社した頃に恭子からもらった物だろう。いつも決まってゴーンが見せる恭子への眼差しを思い出した。目やにで汚れた目尻と目頭の真ん中に浮かぶ白く濁った眼球が力なく恭子を見ていた。


 しかしその目には微かな力と、生への欲を光として放つ瞳があった。



               つづく




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