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goodbye MR ライディ  作者: 富永 真一
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新たな出会い

オレは、曳く人のいなくなったらくだに乗せられた女を白い砂の上に見つける。そこから遠い白い砂の向こうには、空高く続く螺旋階段が細長くそびえて見える。

女の歳はちょうどオレと同じくらいだろうか、彼女は斜め上から見下ろしながら漂うように浮ぶオレにさっと手を伸ばす。

美しい手。動きに迷いがない。

「遊びましょ」

「しないよ」


「……永遠なんて、信じちゃだめよ」

 そう一言呟いて、その女はオレを試すように笑う。

 

 不意に女は話し出す。

 あの人が戦地に連れ出された頃、うちに時々お米を届けてくれてた人がいたの。

 バラックの掘っ立て小屋が立ち並ぶ光景がオレの前に広がっている。身体の芯まで及ぶ寒さを覚えた。木枯らしがバラック小屋の間を吹き通す。

 そこではトタン屋根が頑丈な家のようだった。大半の家は屋根も木の板だ。家々の向こう側から、水の流れる音が聞こえる。向こう側は川なんだ。オレはその場所の見当がついた。あの川がすぐ近くに流れている。

 何も起きない。しばらく待つ。すると板葺きの小屋を訪ねる人影がある。小柄な男だ。腕に紙袋を抱えている。声に応えて扉を中から開いた。

「いらっしゃい」

彼女が顔を出す。

「いや、ここでいいんです」

「少しで良いから中に入っていって」

オレは二人に近付いた。やはり、女はあの女だ。黒い髪を後ろで一つに束ねている。色の白い肌と藍く見えるほど黒い目は、彼女のそれとすぐに分かる。

 次の瞬間、オレと彼女は、また二人で向かい合っていた。いや、向かい合うというより、含みあっていると言った方が近い。

 二人に下心なんてないわ。

あの人も、わたしに主人がいて、戦地にいることも知っていた。ただあの人は純粋にわたしを助けてくれた。わたしもありがたかった。お礼に出すものなんて、何も無いの。お茶も出せない。お菓子なんてもちろんないわ。そのうちに、わたしに赤ちゃんができたの。自然な流れよ。驚くことなんて何もないわ。少しずつ大きくなるお腹に、愛を覚えたの。湧いてくるこんな感情、覚えたことはなかったもの。


 斜向かいの妙子さんって言うお産婆さんにお願いして産ませてもらった。でも、一度だけよ、その子の顔を見たのは。どうだったって? 大人の男の人は、そんな野暮なこと聞かないものよ。あの子は妙子さんの紹介で、遠い街のお金持ちに貰われていった。いいえ、心配ないわ。とてもいいご夫婦で、お子さんがいない方々だったの。きっと大切に育ててもらってるわ。


 そうね、戦争が終ってあの人が戻ってきてからは、何も不自由なく暮らしたわ。亭主が真面目に働いてくれたからね。でもそのうち、退屈になってしまったのかも知れないわ。理由?大人の男の人は、そんな野暮なことは聞かないものよ。人の生き死になんて、賽の目のようなもの。生きるも死ぬもめぐり合わせ次第って思ってる。そう言って、女は誘うようにオレの首に腕を回す。オレはその腕を払いのける。彼女が笑うと左の八重歯がオレの心のどこかをくすぐるのが分かる。

「行こうか・・・・・・」

 オレは彼女を抱き上げて、白い空に上がっていく。


                つづく


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