ライディの言葉
一年目の社員が大口の預金を獲得したことでその日の支店の話題は持ちきりだった。
ビーチサンダルに薄汚いハーフパンツ、よく焼けた顔、ハチマキ代わりに巻かれた白いタオル。学生かフリーターにしか見えない水曜正午の客は、自動ドアから真っ直ぐに
「ちょっとお金預けたいんですけど」
「申し訳ありませんが、番号札をお取りになって順番でお待ちください」
フリーター風の若い男はそう言う窓口係りの声を無視して、話を聞いてくれる職員を探している。
「こちらへどうぞ」
オレは自分の前の普段は使われていない窓口に男を案内し、『お隣の窓口へ』の立て札を脇によけた。ぞんざいに扱うと厄介なことになる気配をその若い男は体のどこからか発していた。懇切丁寧に丸覚えした預金商品のマニュアルを説明した。
説明の終わった後で、フリーター風情の客は
「ここにお金預けたいんですけど、五千万あるんだ」
「え?」
「どこに行っても、丁寧な説明をしてくんなくてさ」
「はぁ……」
「おにいさん、ちゃんと丁寧に説明してくれたじゃん。気に入ったよ」
フリーター風の男は歯並びの悪い歯で笑った。
「ありがとうございます」
自分は軽い冗談で騙されているのではないか、呆気にとられ半信半疑のままその時のオレは言った。
「はいよ!」
すぐには信用できないでいるオレに“論より証拠”とばかりに、客はそう言ってカウンターの上に、肩から提げているトートバックから一千万ずつの固まりになった万札の束を五つ気前よく並べた。
「明日他の銀行に預けてある五千万もここに移すよ」
オレは自分の心臓が血液を勢いよく全身に送っているのを感じた。日ごろ見慣れた札束もこの時ばかりは、具合が違った。オレは全身を棒のようにして立ち上がり礼を言った。
「ありがとうございます」自分の声が震えて聞こえた。
『必死でやれば何でもできますよ』オレの耳の奥でライディの声が聞こえた。
つづく




