【四話目】お風呂をみつけました!
夕食を済ませたフェローリアは、強く思った。
― お風呂に入りたい ―
埃っぽいカビっぽい遺跡の中を探索したのだから、さっぱりしたい。
「泉でもあればそこで水浴びができるんだけど…」
普通の女の子なら水浴びだけでは風邪を引いてしまうところだが、フェローリアは妖精王の神殿に仕える巫女である。滝修行で鍛えてあるから行水はお手のものだ。
この広い広い森の中に泉などいくらでも湧いるだろうが、もう遅い時間だし探索は止めておいた。
「しかたない、お鍋にウォーターの魔法で水を張って、それを浴びよう…」
そこへチャコが言う
「遺跡の中に泉の小部屋があるじぇ!」
「えっ!ほんと!?どのフロアのあたりに!?」
「一階の奥のほう お前が拠点にする部屋の近くだじぇ」
持つべきものは有益情報をくれる仲間だ。
人は誰かと繋がり情報を得ることで新たな道ができる。
それを繰り返し少しずつ道を進んでゆけば、ふと振り返ったときにずいぶん長い道を歩んできて強くなったと実感するものだ。
…冒険者ならば。
しかしフェローリアはこの遺跡一帯から外には出ないので、そのような成長とは無縁なのであった。
ともあれ、フェローリアはさっそく泉の小部屋へ向かった。
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そこは、他のフロアと同じように石造りの間だったが、床には円形の窪みがあり、そこに透明の美しい湧き水がたまり泉となっていた。
泉を囲むように石の柱が何本か立っているため、殺風景な他のフロアとは違って、少し特別な雰囲気がある。
もしかしたら、古代のみそぎの間とかだったのかもしれない…とフェローリアは聖女の直感でわかった。
白い絹の服をスルスルと脱ぎ真っ白な肌が露になる。
産まれたままの姿になって、そ―…っと足の爪先から泉に入る。
長い金色の髪が流水模様のように水に浮き、
その光景は神話の絵画にある精霊のように清らかで美しかった。
みそぎの間として聖女を受け入れていた泉は、いつしか誰も訪れなくなってからも健気に水を湧かし続けている。
そして今、聖女フェローリアが泉に深々と浸かり、待ちわびたと言わんばかりに泉はその本領を発した。
泉に聖なる力が宿ったのだ。
「ピャー! 聖なる力で水が飲めねぇ!」
そう言ったのは、泉の水を飲もうとしたチャコだった。
泉の水を口に含むと、舌がピリピリとしびれてしまうらしい。
試しにフェローリアも泉の水を飲むが、何も影響はない。
「お前の聖女エキスが泉に溶け出してるんだじぇ」
「モンスターはもう、この水飲めねーや」
なんだか悪いことをしてしまったようで申し訳ない気持ちになる。
しかしその罪悪感もむなしく
フェローリアが泉で行水する度に聖女エキスは流れ込み、聖なる力は強くなる。
最終的にはこの泉の小部屋に聖なる力が充満し、モンスターはこの小部屋に入ることさえできなくなってしまうのだった。
更にはこの水を人間が飲むと、HPとMPが全回復する効能も付与された。
そしていつの日にか訪れる勇者は、この小部屋を拠点にして暫しレベルアップに励むのであった。
『HPとMPが全快するなんてラッキー』などと言いながら、聖女の行水用の泉だと知らずに。。。
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「…ところで、聖女エキスって言い方、ちょっと嫌かも……」
フェローリアはなんとなく気まずさを覚えた。