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【二話目】遺跡の先住民に会いました!


「少し休んだら、魔法のオーブの間へ行かないと」

キラキラとした光を浴びて、フェローリアの澄んだ翠の瞳と、稲穂のような黄金の髪は一層に輝きを帯び、壁の穴から吹き込むそよ風が長い睫を撫で、少しくすぐったさを覚える。



フェローリアが木の根に座ってしばしの休息をしていると、背後から黒い影が素早く横切った。


「!?」

フェローリアはビクンと体をすくませて身構える。


ささっ

さささっ


黒い影はフェローリアを翻弄するように部屋のあちこちを縦横無尽に駆け回る。


「な、なに?なんなの!?」


それは一瞬の出来事だった。

その影はフェローリアの荷物を奪って、小部屋からでていってしまったのだ。



「嘘!?やだ、返してー!」

フェローリアは慌てて追いかける。

「止まって!止まらなきゃ魔法を打つわよ!」


しかし止まれと言われて素直に止まる者はなかなかいはい。あの影も全く止まる気配はなかった。


「仕方ない…アイスフローズ!」

フェローリアは影に向かって氷魔法を唱えた。

しかし何度か唱えてもすばしっこい影には当たらず、ただイタズラに遺跡の壁を凍らせるだけに終わった。



影を追いかけると、やがて吹き抜けの大広間へ辿り着いた。

そこはフェローリアが拠点とした小部屋のように、光が差し込み、木や花や草で小さなジャングルと化していたが、言葉では言い表せないような不思議で神聖な印象を受けた。



「マナが…満ち溢れている…」

万物の力の源となるのがマナとよばれるエネルギーである。



空間の中央には蔦が絡まった台座があり、その台の上には赤い卵のような結晶が輝いていた。


「これは…魔法のオーブ…!」


“時の鐘が響く大地で魔法のオーブを掲げよ

さすればマナの架け橋が かの地へ勇者をいざなわん”


古くから伝えられる伝承を、フェローリアは独り言のように復唱した。


小さな小さなマナの結晶をたまに見ることがある。そのマナが悠久の時を経て、ここまで大きく育つことに神秘の念を抱かずにはいられなかった。恐らく同じものは二つとしてこの世に存在しないであろう。


フェローリアは改めて、守護者としての自分の役割の重大さを再確認したのだった。



魔法のオーブに手を伸ばすと…


「ドロボー!!」

どこからともなく、そう叫ばれてドンッと何かを投げつけられ、フェローリアはドサッと尻餅をつく。


「いてて…」見るとフェローリアの荷物がそこに落ちている。どうやらさっき投げつけられたのは自分の荷物だったようだ。


それを投げつけた張本人がフェローリアに前に仁王立ちで立っている。


それはリンゴ4つ分ほどの、黒くて小さな猫のような動物だった。しかし額には三日月の模様があり、背中に黒い羽が生え、耳と尻尾の先っちょに蒼い炎が燃えているから、猫では無いことは確実だ。

そもそも先程の「ドロボー」はこの生物から発せられたのだから、人語を解すモンスターなのだろう。



「か、かわいいっ!!」

フェローリアの咄嗟に出た言葉だった。

だが、頭を振り…

「違う違う…ドロボーって何よ? それを言うならドロボーはそっちでしょ?」

この黒猫悪魔妖精をナデナデしたい気持ちをグッとこらえながら言った。


黒猫悪魔妖精は丸っこい指でフェローリアを指しながら言う

「俺ちゃまのオーブ、盗ろうとしたじぇ!」


「俺ちゃま!!じぇ!!」

フェローリアはつい相手の可愛い一人称と語尾を復唱し可愛さに悶えたが、我を取り戻し…


「盗ろうとしたんじゃないの、守りに来たの」


実はかくかくしかじかで……



「にゃるほろ、守護者…つまりオマエ、ここの管理人になるってことかよ?」


「うん、そんな感じだね。…でね、オーブは勇者が来たら渡しちゃうんだけど…」


「ダメだじぇ、あれは俺ちゃまのお気に入りだじぇ!やらねーっつーの!」ぷううっとほっぺを膨らませる。



フェローリアは困る。

先住民(?)の黒猫悪魔妖精を押し退けて、後から来た自分が勝手に勇者に渡してしまうのは具合が悪い。


「どうすれば魔法のオーブを私に譲ってくれる…?」


黒猫悪魔妖精は顎に手を当ててうーんと考え…何かを思い出したように目をくりっと見開いて、こう言った。


「俺ちゃまが失くしたお宝を探してくれたら、そのオーブはお前にやるじぇ。管理人なら探しだしてくれるよなぁ?」


どうやらこの広大な遺跡の中のどこかに、彼はお宝を落としてしまったらしいのだ。


「うん!わかったよ!…で、そのお宝って何かな?どの辺りで失くしたかわかる?」


「秘密だじぇ」


「え」


「それっぽいもん見つけたら、その都度、俺ちゃまに見せにこい!」


「えええそんな、何もヒントなくこの広い場所を探すなんて…」


「嫌ならオーブはあげないじぇ」プイッとそっぽを向く


「んんん…もう…わかったわよ…」可愛い動物にはついつい甘くなってしまうフェローリアだった。


「ところでキミの名前は何て言うの?」

「名前?種族はグレムニャンだじぇ。」


どうやらこのモンスターに固有名詞は付いていないようだ。種族名のまま呼ぶのはどうも味気ない。何かニックネームをつけようと考える。


「炭みたいに真っ黒だから…チャコ!」


「チャコってなんだじぇ?」


「異世界神話に出てくる国の言葉で、炭はチャコールっていうらしいの。だから、チャコ!」


「ふぅん…お前、物知りなんだな。良いじぇ

、チャコって呼ばれてやんよ!」



チャコの要求を飲んだは良いけれど、もしチャコの失くしものを見つける前に勇者が来たらどうしようと、内心はらはらしていたフェローリアだったが、その心配はある意味杞憂だった。

何故なら、勇者がやってくるまで、まだ暫く時間がかかるのだから……






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