8 チャンス
転生者に理解のある世界か。
分かりやすくていいや。
スライムじゃないことを見破られたので元の姿で前に出ていた。
俺の能力は流星人としての俺のものだけだ。
女神に出会いはしたが、スキル付与は受けていないのだ。
女神曰く、俺はスキル付与に値しない存在だと言われた。
彼女が授けるスキルはもともとレベルが低い。
俺は能力減退の身である。
だから新しく付与してもすぐに消滅してしまうだろうと。
この身は死に絶え滅んだが、スキルに関しては過去の状態を維持か、新しく能力を受ければ減退もしなくなるが、基本的に付与スキルは一つということだったので選ぶように選択を迫られたのだ。
俺の選択肢はひとつだ。
元の状態維持しかない。
能力が一個になるなんて不自由でしかない。
だからここでは。
女神から授かったことにしとけば説明が楽だろうと思ってそう言っただけだ。
神域のバハムートとは異名のようだ。
奴の名はヴェギラゴ。
「ねえ、ヴェギラゴ?」
「なんだ?」
「その逞しい竜の尻尾の先をちょっと俺に分けてくれないか」
「分けるとはどういうことだ?」
「先っちょでいいんだよ。ちょこっと切断させてよ。戦利品がほしいんだ」
さすがに無断で取ると遺恨が残るだろう。
俺の良心が咎めるんだ。
話し合いで同意を得たいと思ってね。
ヴェギラゴは野太い声で凄んで来た。
「神域のわれを舐めてはいないか?」
「いえいえ。舐めるだなんて決して!」
全力で首を横に振る。
無礼を働いて怒らせてはマズイ。
転生者を嫌いになったわけではないみたいだけど。
嫌いなやつも多いんだろうな。
その中の一人に俺が加えられるのは嫌だ。
ヴェギラゴのブラックリストに乗りたくはないよ。
だが──。
「俺だって女神のスキルもらったんだよ、ある意味神域じゃん!」
「ふん! どうせ初歩的なスキルに目覚めたばかりだろう……」
鼻で笑いやがって。
けど、そう思いたいよね。
思われている以上はひとつ披露して、認めて頂かねばならないようだね。
女神から受けたスキルはひとつもないので、そこそこのクラスだと思うで。
俺の流星人としての能力は。
よし。
彼に背を向けて後ろ手を振った。
「ここまで来て、何にも獲得できないのなら、もう用はないですね──」
俺があっさり帰ろうとすると。
まあ待て、と引き止めるように言うのだ。
そういや用件もあったみたいだったしな。
ちょいと鎌をかけてみたんだ。
案の定、呼び止めてきた。
ウシシ。
一応、聞いておいてもいいだろう。
竜に振りかえり「どうぞお話しください」といった。
「そうまで言うのであれば、チャンスをくれてやろう」
「ほっ?俺、何すればいいの?」
「われの尻尾をたやすく切れるぐらいが「神域」だ! そこでだ──」
「はい……」
「それは、この因縁の鎖を切断できるクラスということでもある。だから見事に鎖の一本でも切って見せたら尻尾の件は考えてやろう」
なんと俺に鎖と格闘しろってか。
くうっ、言うてくれるねぇ。
まあ、そういう話になるだろうな。
一千年ぶりの人間との対面で、勇者側ではない。
それも己がよく知る転生者とくれば、尚更持ち掛けたい条件だよな。
さっきのスライムに潜る能力じゃ、鎖はどうにも出来ないからな。