6 転生者リヒト
「特別に呼ぶことを許可してやろう。そちの名を教えよ」
「おじさん」そんな気軽じゃ失礼だと思ったからこそ、そう呼んだのだ。
おじさんどころか、アンタはお爺さんなんだけど。
まあ嫌なんだろうな。
俺だっていやだわ、初対面の若造にそれを気安く言われるのは内心傷つく。
千年の間にできたことは無駄に歳を取ることだけだ。
気持ちは若者で居たいのだな。
「俺は、空那加リヒト。」
「リヒト…………転生者らしい名だな」
「あは、そうですか。転生者を知っているのですか?」
「ああ、もちろん知っているとも…」
「おお!すごい」
周知されている存在なのだな。
わりと生きやすい世界なのかもな。
「転生者だけではない、転移や召喚を受けた者もいる」
「お付き合いがあったかのように仰いますが……」
「われをこの目に遭わせた七勇者の一人がそれに該当する」
「あ……」
急に気まずい空気になってもうた。
うわぁ、さぞや転生スキル屋の女神を恨んでおいででしょうね。
でも──
「俺は、あんまり馴れ合いとか好きじゃないから。群れたくないんだ」
「そうか…………」
彼のその一言は何だか優しくて、安堵の表情が灯ったように感じた。
そして、
「リヒト。お前も何かスキルを受けたのか?」
質問で返すようで恐縮ですが、と加えた上で。
「それ、転生者にとって日常的なことだったりします?」
「大抵の輩はそうだ。でなければこの世界の者と釣り合いがとれぬ」
わあ、やっぱりそうなんだな。
魔物がいるから魔法とか絶対あるよね。
ヴェギラゴは転生者のスキルが気になるのか。
手痛い仕打ちを受けてるからね。
「女神に沢山のスキルをもらったんだ。でも金がないんだよ」
「金? スキルを持っておるのなら持ってる奴から強奪するがいいだろ」
はあ?
所詮、悪竜かよ。
「いやだよ!俺は善人の人気者で生きてきたの、だから悪党みたいな生き方はぜったい嫌なの!」
「はは~ん。つまり冒険者みたいなのをやるつもりか?」
「そういうのは、ちまちま面倒だから面白いとは思っていないんだ」
「ほう、ちがうと申すか。では何がやりたいのだ?」
「つまりね。俺、死んだからここに飛ばされたんだよね。はっきり言ってもう死にたくない!だから回復スキルを爆上げしたいんだよ」
ヴェギラゴは一泊置いてこう言った。
「スキルを向上させたいなら、使用すればいい。熟練させればいいだけだが……」
「だが……、なんですか?」
「回復スキルは誰かの傷を回復させて初めて熟練に向かうのだ」
なんだか急に好意的になった気がするな。
大体知ってるんだけど。
熟練度タイプなのね、ここ。
「それって他のスキルも一緒じゃないんですか?」
「それ、ちがうぞ。ものにもよるが、攻撃魔力は対象に炸裂せんでも上がる」
はあ?
そっちはクソ便利システムじゃねぇか!
「まじか! 放った分だけ。使ったもん勝ち? 回復はなんで?」
「回復してやって効果がでたら回復として成立するが、効果が得られないなら成したことには成らんだろう」
それって、ヒーラー系が育たねえじゃんか。
いつか見たMMOゲームの僧侶不足の回復過疎列伝かよ。
食い物とかポーションでひたすら援護だけするのか?
急場で間に合うんか、それ。
エリクサーの生る木が一般家庭の畑で採れる仕様でもあるんか、ここ。
「負傷してる者がいなければ回復は力の無駄遣いになるってこと?」
「さよう……」
「勇者を育てるのはヒーラーでしょ?そのヒーラーが育ちにくいんじゃ……」
「おぬし甘いなっ!」
それを問う俺の言葉を遮るようにヴェギラゴは主張する。
また考えが甘いと言ってるようだ。俺はじっと彼を見つめた。
ヴェギラゴが言葉を続ける。
「勇者が立派に育つ頃には、ヒーラーなど必要なくなっている。ヒーラーが気を失うまで戦士が戦いで傷ついて回復させ続けるだけだ、幾度もな。そこで死ぬ奴はその場に死体遺棄されていき、勇者たちがいっぱしになれば彼らは用済みだ」
「なにその過酷なレベルあげ……」
「回復役のような輩は代用品のような扱いだ。彼らの回復を優先させてもいけない、強者たちが作り上げた世界の掟だ」
それじゃ、一般人は誰が治療しているのだ。
そこを問うと、「まだ甘いな」と言ってきた。