3 洞窟③
よし、言語がわかるぞ。
さすが異世界だ。頼もしい限りだ。
地響きのような野太い声で、その竜が声を発した。
たぶん目の前に散らばっているスライムにだろうな。
いつもこんな風に上から命令口調なんだろうな。
スライムのやつら、なにか奴の機嫌を損ねる粗相をしでかしたのかな。
だって、そんな大きな声をわざわざ出さなくても弱者の彼らは聞く耳を持っているだろうに。
どいつだろう。
奴に呼ばれたスライムはどの個体だ?
しかし感動的だな。例の出会いの場面に出くわしたのか。
俺はなんともラッキーだな。
いったい、どいつが世界最強のスライムになるのか隠れて拝見してやる。
「おいっ、そこのお前だぁ──!!!」
鎖に繋がれながらも竜がさらに声を強めていった。
結構な数がいて、どいつかわからんが早く返事をしてやれ。
機嫌が悪くないのなら、きっと退屈してるんだよ。
「グおわああああぁぁ───ッッ!!!」
な、なんだ竜の咆哮ってやつか!
雄たけびを上げたぞ、随分とストレスが溜まっているみたいだな。
囚われの身になって長いのだろうか。
いったい誰が竜の奴をこんな目に合わせたんだ。
勇者的な存在だろうか。
それよりきっと話し相手が欲しいんだろう。
俺が話し相手になってやってもいいんだけど。
身動きは取れず、悪さができるとは思えないから恐怖心はない。
だが俺は人間の姿をしているから勇者らの仲間との誤解を受けたくはない。
なのですぐに姿を見せる訳にはいかないのよね。
スライムたちも各々が話しかけられた対象か戸惑っているのかもな。
目を細めて竜の足元に目をやると、すこし体格のいいスライムがいる。
どう考えてもお前だろ、気づいてやれよ。
お、そうだ!
竜の目の前にいるあの一匹のスライムだが。
ちょうどおあつらえ向きのスライムではないか。
すこし、でかいめのスライムの個体を見つめていて閃いたのだ。
あのスライムを介して俺が話しかけてみるか。
とりあえず、でかスライムを【スキャナー】してみるとしよう。
「むむ……」
言葉は通じる見たいだが怯え切っていて失神しているではないか。
ついでだ、周囲の奴らも【スキャナー】して見るか。
だめだ全滅してる。
でかスライムと同様に失神していやがった。
だれも返事を返さないのはそのためだったか。
この竜はすこし、お馬鹿なのかもな。
イラつくのは無理もないが、話したい相手を気絶させてどうするのだ。
俺は「でかスラ」の意識レベルを遠隔で回復させた。
そこに俺がさらに【シンクロ】する。
要は精神面に働きかけて乗り移るってことね。
スライムはしばらく俺が支配させてもらう。
悪く思わないでくれよ、あとで解放してやるからな。
さてさて、囚われた竜のご要望はいったい何かな。
わくわくするなぁ。