2 洞窟②
洞窟の壁は氷山のように分厚いため感知したデカブツは影しか判別できないのだ。
これも侵略心を捨てた能力の退化が原因だろうな。
だからといってそう捨てた物でもない。
感知できたからこそ難なくここまで来れたのだから。
しかし、ここは前人未踏の洞窟なのだろうか。
扉や部屋のような人工物がこれまで見受けられなかったので、誰も立ち入ったことのない禁忌な場所のようにも感じるのだが。
しかし足場は変わらず緑色のコケが群生している。
これはどこかに陽の光が差し掛ける場所があるのだ。
幻想的かつ芸術的で荘厳。
いまにそんな場面に出くわすに違いない。
思わずそんな連想をしてしまって。
胸が躍るように一瞬高鳴りを覚えるのだ。
本当に封印説が濃厚になって来たな……奥のデカブツ。
俺の気配には気づきもしない。
封印説でないなら、とてつもない魔力の持ち主のはずだから侵入者を許すわけなどない。ここは慎重に、壁の形状は波打っていた。
そこのへこみに上手く姿を預け、隠れてそっと様子をうかがう。
「おぉ、やっぱり巨大な翼竜だ……!」
思い描いていた通り、居てくれたのはいいけど。
なんだか禍々しい暗黒竜みたいだな。
暗黒と表現したが闇の支配者的な存在に思えたからだ。
全身は獄炎のように真っ赤だ。
角も牙もご立派で目は赤く光る、長年生きて来た伝説の竜という出で立ちだ。
「なんだあれは──?」銀色の細い金属質の鎖に繋がれているようだ。
鎖は数本が身体に絡み合っているようで身動きが封じられている。
これはやはり封印説が濃厚になってきた。
息はあるのだろうか。
まさか息絶えているなんて言わないよな。
せっかくお目にかかれたのだから。
うん?
微かに心音を感じるぞ。
息はあるみたいでよかった。
いまは眠っているのかな。
魔物の言葉も世界共通語だといいんだけどな。
それより──。
「まさか……ちぎれないほど体力が衰えているのか……」
あんな細い鎖……人の手でもどうにかなりそうだぞ。
冬場に車のタイヤに巻くチェーンのようなやつだ。
身の丈は足元から頭部まで五メートルはある奴が獄に繋がれたように見える。
だが拘束されているというのにべつに苦しんでいる様子はない。
周囲のスライムと会話している様子もなかった。
スライムも奴も疎通言語は動物的なものなのかもしれないが、そこはまだわからない。
俺も人類のような知的生命体でなければ会話の経験がないからな。
だが突如、野太い声があがる。
それはまるで地響きのようだった。
「おいっ、お前ぇぇーーっ!!!」