20 特別な希望
ダラダラと説明をくりかえして来た。
だけど相手はこの異世界で七英雄とまで呼ばれていて、千年以上もその継承を絶やさない連中だしな。油断は禁物ということだ。
「説明した通りなので、ここにあまり長居はできない。勇者のだれかに俺の存在を知られるのはマズイと思うんだ。なにせヴェギラゴを捕えたやつらじゃない?」
「ううむ……」
「見つかって竜を逃がそうとした容疑で俺まで拘束されちゃうと困るから」
「まあ確かにリヒトの言うとおりだ。だから、われは「もう帰っていい」といったはずだ。その判断は自分でしろ。われは長居することを求めてはいないぞ」
「──それで戦利品はくれるの、くれないの、どっち?」
確かにそう言っていたな。
だがそれだと、むしろはやく消えろと言われている気がする。
待ってよ!
なんか忘れていませんか。
戦利品をもらうために俺の判断で長居しているんだ。
返事だけでも聞かせてよ。
「約束じゃん! 俺、鎖を一本切って見せたよ? わりと危ない橋渡ったよね?」
こういう風に詰めよるために時間ごと戻して鎖をつないだとは説明しなかった。
切断する能力と繋ぐ能力は同じスキルでワンセットのようにいった。
だから、ヴェギラゴの脳内では「水の勇者」に感知されたかもしれないと。
その思いは確実に彼の念頭にあるはずだ。
「少しだけなら持って行け。……だが尻尾の先をぜんぶ切るのか?」
しかめっ面は見せていないものの、ためらいを感じる返答だった。
身を切るといわれているのだから当然の反応か。
だけど心配には及ばない、だって痛くも痒くもないのだから。
「全部は切れないよ。尻尾の先端といっても直径1メートルはある。そして怪我を負わせる気はないから安心して。表皮や爪の先を削り取り、もらうだけだからね」
「どういうことだ? リヒトの能力で切ったら、流石のわれでも無事ではすまぬであろう……」
「うん、でも俺はさっきもいったよ。元通り繋げられるって。切り取った傷口も治癒しておくから、痛みは残らないから安心して!」
「本当か! 治癒もできるのか!?」
「うん!」
自信に満ちた返事をやさしい笑顔で返す。
治癒ができるの意味の「つなげる」ではなかったが、自分が取った行動なのでこの場合の回復は巻き戻し能力でもできる。
そのほうが後遺症を残すことなく完璧だから。
剝ぎ取った部位は、即行で生まれつき能力の異次元ポケットに収納する。
ここに一度引きずり込んだものは、俺の存在を消しても戻らない。
俺の意思じゃなければ解放できないのだ。
その部分は戻らず、患部に念のため回復スキルで助力をする。
それで痛みは除去できる。
すると細胞は高速で再生を始めて完治にいたるのだ。
このスキルを利用すれば、くりかえし無尽蔵に素材を入手できる。
だが現在は退化の危機にあり、無駄遣いを避けたい。
回復を確かめた彼のその声は、ときめきに満ちていた。
快く同意を得られた。
早速、身体の部位を削らせてもらい、その傷跡も消しておく。
秒で終わらせた。
「おお!なんという速度で回復までこなすのだ!」と感嘆の声を上げた。
カチカチの硬い身体なのに。
尻尾の先まで、ちゃんと血が通っているんだな。
「なるほど! 返って身体の垢が落ちたようで気持ちがよい!」
「こうして置かないと、見つかったら情報がもれていく可能性があるから用心しなくちゃ!」
「グお、……ここが誰かに見つかるというのか?」
千年間、誰人も訪ねて来ない場所。
七英雄でない限り、おいそれとは訪れはしないのではないか。
それを一番知っているヴェギラゴがそのように問うのもわかる。
俺が見せつけた現象に驚きと戸惑いを見せながらも、その心が特別な希望を抱き始めたからだろう。
「だって戦利品を街で売り飛ばすんだよ?目利きだったら高値で売れるかわりに情報も売り渡していることになる。つまり、珍しい個体の物だとはバレてしまうってことさ!」




