18 約束のもの
転生者が割といる世界。
思い通りに生きるには冒険者になるしかないらしい。
それも悪くはないけど。
地球では特別だったのは自分だけだったから。
他の能力者なんかに出会いたくない。
能力者の心は野望に満ちているものだ。
力なき者を踏みつけにしてきた一族の俺がいうのもなんだが。
それより、ヴェギラゴは戦利品の件を快諾してくれるだろうか。
俺はその問いの答えを彼に訊く。
訊きながら、切断した青い鎖をもとに戻した。
切断する前の元の状態にだ。
つまり時間の巻き戻しを使ったのだ。
小さなこの手の中での出来事をなかったことにした。
「俺は鎖を切って見せたよ! しっぽでも爪でも分けてくれる気になった?」
「あ、リヒト。……鎖を繋げたのか? 繋げることもできるのか!?」
「いま問いかけてるのは俺だよ、答えてくれないの?」
俺の質問に対し質問で返すという状況を生んでいるな。
最初に俺が踏んだ会話のミスを彼が踏んだ。
彼は「ぐぬ……」と漏らし、しかめっ面を見せた。
だが、ヴェギラゴが俺に向ける疑問符は当然か。
その理由は教えておかなきゃな。
「鎖は初めから元に戻すつもりで切って見せたんだ…」
「そうか……われが尻尾をくれてやる約束を反故にするとでも思ったか?」
そう思わせたのなら悪いことをした。
でも俺はそうじゃないんだと首を横に振り、力説をする。
「反故にするなんて思ってないよ! だからこうして問うんじゃないか」
「思っておらぬなら、続けて切ってみせよ!」
「待って。そしてヴェギラゴ……どうか誤解しないで聞いて。いいかい?」
「あぁ?」
「俺は全部の鎖を切れないんだ、解るね? つまりまだ逃げられないのに一本だけ鎖が切れたままにしておけば、水属性の勇者が勘付くのではないかと思ったからだよ!」
ヴェギラゴは瞳孔を開くと同時に「グおぉ」と息を吸い込む。
どうやら理解を示してくれたようだ。
「グおっフォフォ。これは迂闊であった。確かにリヒトのいうことには一理ある」
「七勇者たちは特化回復の【聖】を千年もの間、絶やさなかった。死んでも子孫が継承しているなら封印の能力も継ぎ足しているはずだ。継承者も時には優劣がでるだろうけど。絶やしてはいけないものが絶えているのを感知できないようではいけないよね?」
いま一瞬ではあるが切断していた。
だが時間を戻したので感知されたとしても、水の勇者の感知ごと時を戻せているはずなので問題にはなっていないだろう。
いまはそう信じておきたい。
だけどこの世界に時空魔法が存在すれば話は別。
それに備えた対策も練られていても不思議ではないから。
用心をするに越したことはない。
時を少し戻せる能力のことはヴェギラゴにまだ明かさないほうがいい。
助かりたい一心で何を持ちかけられるか分からない。
だからといってこの古竜との関係をここで終わらせるのはもったいない。
話をうまく繋げて信頼は保っておきたいのだ。
俺の用件は約束の戦利品だけだ。
もっとも金策だなんて接触を続けたいがための単なる名分に過ぎないさ。
所詮出会ったばかりの魔物だ。
奪いたければ勝手にするし、他の魔物からでもいいわけだ。
だけど身動き取れない者から奪うのは気が引ける。
それは悪人のする行為と同じだからな。
それと一匹狼が性に合う。
その性格ゆえに封印を受けし古竜側の事情をもっと知りたい。
弱者の味方はいつでもできる。
古竜の心はいましか掴めない気がする。
強き者と友好な繋がりを持つことも冒険を優位に進める手段であるはずだ。