16 タンブンシ
一体どうやって鎖を切ったのかとヴェギラゴに説明をせがまれた。
説明はするけど伝わらない可能性もある。
江戸時代の人にテレビの仕組みを解らせるようなもの。
比喩がものをいう。
「火属性はもう特化されていたのか? 特化されたスキルを賜ったのか!?」
「そうじゃないよ。もちろん対属性は必要だと思うのでこれを選んだのだけど」
「属性ではない別のスキルだと言うのか……」
俺はにっこりとヴェギラゴの問いに対し、頷いた。
「物質には最小単位があるんだけど【原子】【分子】って言うんだ」
「ゲンシ……ブンシ…………」
「生命でいえば細胞の一粒のようなものだよ──」
物質は原子という構造によって構成されていることの説明をする。
原子と呼ばれる小さな粒が集まった構造を持ったものが物質である。
(すこし違うかも……)
その粒が結合している理由の詳細はここでは省く。
「その最小の粒同士がくっついている物理現象の、つまり理由や機能を解体してやったのさ」
え?
俺も、これについての説明を求められることを想定して来なかったから。
自分でも何をいっているか分からないときがある。
「ご、ごめん。そんなんじゃ分からないよね?」
「リヒトの説明はむずかしいものがある。良くわからぬが、物質の最小でくっつく性質を持つもの同士を全部離別させたってことなのか?」
「なんだよ、ヴェギラゴのほうが解説うまいじゃん! そうそれだよ!」
解体ではなく分離、それが正しい。
俺が本当に聞かせたいのはSF小説に登場する単分子カッターの話なんだけど。
混乱させても悪いから。
分子レベルの解体という能力の説明をしたかったのだ。
これは俺が地球に来てから、地球人の空想力を「錬金」して身に付けたものだ。
生前の世界でもだれも能力化していない。
それが俺のもつ能力の一種になったのだ。
これも女神にもらったことにしておく。
「リヒト。その能力ものすごいな! この世の何もかも切断できるということだろ! それじゃ他の鎖も全部切れるのではないかっ!」
要するに分離切断できない物質がない。
目の前でやって見せたのだから、それだけで良かったのにな。
なんか理解してくれている、助かるよ。
ヴェギラゴの鼻息が荒くなって吹き飛ばされそうになるが、空を飛べてるのでその場になんとか踏みとどまった。
その期待は当然するよね。
だけど答えはノーなのさ。
単分子カッターのような能力はありますから大抵のものは切断できます。
だが俺は「ヴェギラゴの期待を裏切るようで悪いけど」と一言添えて首を横に振る。
彼は眉根を寄せて聞き返した。
「なぜだ? すごいスキルだから魔力が枯渇したのか?」
食いつきが凄いな。興味津々だな。
魔力は元からないのだけど。
俺はさらに首を横に振る。
「この鎖って回復守護されているよね。反属性がないと傷つけても修復される。俺さっきも言った様に炎と雷しか属性持ってないから七本全部は斬れないよ」
「そ、そうか。そうだよな、このわれが封印を受けた勇者どもの術だものな」