14 あきらめないで
俺はあのとき、こう続けた。
彼も自然と応え続けてくれた。
◇◇◇
回復力が特化までいくと完全修復に至るのか。
つまり肉体や生命で言えば、
「不死……蘇生という解釈もできるのかな?」
「その読みは正解だ。飲み込みがよいではないか……グおッフォフォ」
飲み込みの早さを喜んでくれる。
出逢って間もないというのに随分と好意的だな。
竜の笑い声を聞かせてもらえるなんて。
レベルというワードから修行を積むことが予想できるが。
俺もヴェギラゴの顔をぐいっと覗き込んで教えを乞うための笑顔を作る。
「そのレベルを特化まで持って行くにはどうするの?」
「その目は本気でやるつもりでおるな?」
「だって属性が特化されればこの鎖も全部切れるんでしょ? 千年ぶりにお外に出られたら散歩がてら俺を背中に乗せて世界をひとっ飛びしてよ……」
「一体……何十年掛かることやら」そうポツンと呟くと彼は目を閉じた。
期待値ゼロですといわんばかりだ。
それほど長い道のりなのか。
少なくとも数年はかかる、ということだろうか。
「そんな年数って、ヴェギラゴにとってはひと眠りじゃないか!」
一瞬閉じた目を見開き、変な顔を見せて来たかと思えば、
「ぶっははははっ! そうだな。属性にせよ他のスキルアップにせよ、ただ使い倒すだけだ。さすれば熟練度で魂が磨かれ、スキルが強化されていくのだ」
「そうなのか! 魔物を倒した数じゃないんだな、ここ!」
長年の幽閉生活で苦しんで来なかったわけがない。
俺の身も病に侵されているようなもので、あらがえない現実ってのがある。
それで、つい彼を励ましてしまった。
ヴェギラゴは何だか嬉しそうに笑い声を上げ、頷いてくれた。
俺も自己回復はできるが蘇生レベルまでじゃなかった。
だから不覚をとって死んでしまった。
その弱点を克服しなければと考えていたところだ。
回復力をマックスレベルにして【特化回復】を身に付けたいのだ。
誰かを雇ったり仲間にして頼れる者ができても、死を目前にすれば人は自分の保身を優先する。だが自分の不遇を人のせいにした生き方は俺は好きじゃない。
自分で何とかなりそうならそうして置きたいのだ。
「リヒト……たまには遊びに戻って来いよ。修行は相手が重症であるほど早く多く熟練度が上がるが命を粗末にすることはない。急がずゆっくりとやれ」
「うん?」
修行に相手が必要なのは回復だけでしょ?
ギルドで色々と聞くほうが早いか。
結局、冒険者をやるしかないみたいだから。
ヴェギラゴの祝福の気持ちか。
ありがたく受け取っておく。
しかし、もう俺が去ってしまうのだと勝手に決めつけているようだ。
強くあろうとするその瞳の奥に寂しさと孤独を垣間見た気がした。
俺にはわかる。
長く入院してたまに見舞いが来た時の別れが返って寂しいものなのだ。
あとは死を待つだけの運命であるなら。
それに似た境遇だな。
早く地上に出て修行を積みたいところだ。
けど、ヴェギラゴは俺が本当に戻ってくると思っているのだろうか。
俺としてはこの世界の情報を気前よく提供してくれる彼はありがたい存在だ。
この鎖が易々と解けなくても彼は俺を責めたりしないだろう。
時間の流れは時折、人の心を変えてしまうこともある。
彼は竜だが意思があるのなら同じことだ。
来るたびに、ただ情報を聞き出すだけの俺に腹を立てて、喰うとか言わないでほしいから。