13 はじまった冒険
俺がいま、ヴェギラゴに語ったことは全て真実の出来事だ。
彼とはもっと時間をかけて交流をすれば仲良くなれたかもしれない。
だけどこちらにはこちらの事情がある。
ゆっくり友情を育んでいけるだけの時間がない。
すこし冷静になろう。
頭を冷やしてどのように切り出せば理解してもらえるかを考えようと思う。
「ごめんヴェギラゴ、不快な思いをさせてしまった。けど俺にも事情があるんだ。すこし気持ちの整理をさせてくれ」
「リヒト? いま話してくれたことの説明はもうしないのか?」
「何も言わず、しばらく時間をくれ。地に降りて気を取り直してくるから」
俺は、ヴェギラゴを拘束していた鎖から手を放し、彼の身体から地に降りた。
どのみち彼は身動きが取れないので俺の行動を静観するしかない。
俺が明かした彼との出会いが初めてではないという説明は後回しにして。
彼に背を向け、スライムのいる方へと行く。
すると彼がささやくように言った。
「このまま帰ってしまうつもりか?」
「いや、帰らないよ。何から話せばいいのかを整理したいんだ。だから眠らずにすこしだけ待ってて欲しいんだ。お願い!」
俺の口から、「帰らない」と聞けた彼は「待つしかないなら」と譲ってくれた。
◇◇◇
意識を回復させてやった「でかスライム」に背もたれして、その場に座る。
俺とは一度「シンクロ」させたのでおとなしいものだ。
俺は、あの日の回想をしていく。
ヴェギラゴと初めて出会ったのも、当然この洞窟だ。
場所も同じくまさにここだ。
今日の出会いは、そこからの再会というわけだ。
さきほど彼が【聖炎】の解説をしてくれた、その先の展開が今と過去ではちがうのだ。
彼の解説で【聖炎】とは2種のスキルが同時滞在した状態だとわかった。
それもどちらも【特化】という究極のレベルに相当する。
それが封印の鎖にかけられていて、その反属性の特化スキル六種をこの場に持ち込み、究極レベルの回復力を破らねばならないようだ。
それが鎖を切断する唯一の方法。
このことは、前回の時点でも教わったことだ。
◇◇◇
「もちろん炎はあくまで炎で、焼き尽くす性質に変わりない…」
「うんうん」
「聖は回復だと言うたが「特化レベル」でなければ完全修復には至らないのだ。よって【聖炎】ということは炎属性に究極の【聖】が加勢しておるということだ!」
「完全修復ってことは、結果的に朽ちないってことだよね?」
「さよう」
「それじゃあ聖の働きが究極レベルのため、加えたダメージを即回復させて、あたかもそこに変化がなく、まるでスキルが通用しないかのように錯覚しているというのか」
ヴェギラゴが笑みを見せ、噛みしめるように頷く。
そのまま続けて尋ねたいことがある。
ここが一番大事。
(前回には続けて尋ねたいことは違っていた。口論をしたいわけじゃなかった。
前回──そうだ。俺はいま全く同じ体験を2度しているわけなのだ)
どこかでその流れを変えなければ、ヴェギラゴとはここでお別れすることとなる。
それが嫌だから、こんな苦い体験をしているのだ。