12 巨竜のきみ
「もうひとつの根拠は、転生者のスキル付与は1個だけだということ」
「それがいったい何だというのだ!?」
「転生者しか知らない情報だ。成り上がりたい鬼畜並みのやつらが容易く他者に明かすと思うか?」
「おぬしがたったいま明かしたのだ、われの知ったことか!」
あっさりと語るに落ちた。
ヴェギラゴが俺に対して初めて不審な言葉を向けてきた。
彼が初対面の、しかも転生者の俺にやけに前向きに情報をくれるのが不思議でならなかった。
いまの駆け引きで判明したことがひとつ。
彼に転生者の仲良しはいない、ということだ。
幼少期の王族からの解放、真実だろうか。
七英雄のうち一人が転生者に該当するのだろ?
彼をこんな目に合わせたのが七英雄。
それじゃ他の六英雄は元の異世界の住人。
彼の話だとそう聞こえるのだが。
しかし転生してきたことをなぜ巨竜の彼に勇者は打ち明ける必要がある?
これから封印をする相手に語る必要性はない。
このように殺傷せずに封印にとどめているのだ、封印が解けでもしたら恨みを買うのは転生者たちだぞ。
その情報はどこで掴んだのだ、ヴェギラゴ。
封印されなければいけない理由と、勇者らの出会いの場がどうにも引っかかっている。
それに──。
転生者に勝る者が異世界には、そうは居ないと彼は確かにいった。
だがそれでは、一対六の割合でたくさん居るではないか。
このあたりが少々抜けているように思う。
囚われになる直前、すでにこの巨躯だったはずだ。
封印のための鎖の長さからしてもそれはうかがえる。
竜族は卵から孵る種族。
幼少期はもっと小さめだ。王族の檻の話が真実なら封印までの間、かなりの成長期間があったと考えられる。
そんな彼だからこそ、転生者についての情報が曖昧すぎるのが腑に落ちない。
彼──ヴェギラゴはこれだけの封印に値する存在だ。
普段から人前や森の中をテクテクと歩き回っているはずがない。
人間たちとの交流が日常にないことは明白。
あるのなら、俺の投げた「転生者だけが知る情報」に戸惑うはずがない。
「勇者たちって、ヒーラーを使い捨てるんだよね。するとその七人とも転生者の可能性しかない。青い鎖は【聖水】とか? 水属性の勇者。【聖炎】は炎属性の勇者だったな。俺が考えるに──属性も究極の【特化加護】なのだろう。その者たちが──」
「…………ふっ。鋭い洞察力をしているな。だがなぜ、そのような言い方をするのだ?また褒めてほしいのか?」
「ヴェギラゴ……話をはぐらかさないでよ!」
「ああ?何を怒っているのだ!」
「──ごめん、言いたいのは【聖の英雄】の存在をどうして伏せようとするの?」
「…………」
知りたい。俺はどうしても、その存在に会いたいんだ。
その特化された回復のスペシャリストに早く会わなきゃならない。
時間がない。
転生後の能力の退化が思ったより進行しているんだ。
だが彼はその問いかけで一気に閉口した。
俺はふと彼のセリフを思い返す。
「また褒めてほしいのか?」まさにそのセリフだ。
それは意識しながら俺を褒めていたということ。
なぜ褒める?
偶然の出会いにより巨竜と人間が出会った。
その竜が好意的で笑ったりしてくれれば、人間も友好的であろうとする。
歩み寄り、好意を抱かせる理由は非常に単純。
「ほんとにその笑い声に癒された……そして──」
洞窟の奥深くで偶然に出会った二人だと思っていた。
ああ、もちろん先に思っていたのは俺のほうだったよ。
だけど、だけど。いまは違うんだよ。
「初対面だと思っているのは、いまは……きみのほうさ。ヴェギラゴ!」
「はあ?──リヒト。…お、おぬしはいったい何を!」
閉口して目を背けていた彼が俺を見返して声を上げた。
「きみは俺に「察しがいいな」と何度もいった。俺を浮かれさせて好感度を得る。そして俺の目的を知ると、鎖を切るだけの力を持っているか計り知ろうとした」
「鎖を切るのは交換条件で。それはおぬしも同意しただろ」
再び彼にいう。「ヴェギラゴ……よく聞いてほしい」と。
「その鎖は一度俺が切って見せた!──きみは覚えてないだろうけど」
「おいリヒト!でたらめをいうな!たったいま「聖」の【特化加護】に太刀打ちできずにわれに説明を求めたばかりのおぬしが、先ほどからいったい何を言っておるのだ!!」
きみは──。
「きみはそのまま俺をここに置いて……飛び去っていった」
「なにをバカなっ!頭上を覆っている…あの分厚い天井が見えないのか!?」
「翼じゃない、きみはすでに転移の仕方を知っているじゃないか!」
「なっ!それは……リヒトおぬし??」
きみは──あのとき約束を果たさずに転移魔法でどこかへ去っていった。