9 属性
俺としては鎖の破片なんか拾っても面白くもないけど。
そして流石にこいつは鎖から解き放ったらいけない存在だろうし。
かと言って頭脳戦には先ほど敗れているし。
それなら一丁、鎖を一本切って見せてやるか。
危険を感じたら切った鎖を繋げてやるだけだからな。
俺は自分が取った行動の時間の巻き戻しができるのだ。
舐めてるのはそっちだと知ることになるぞ。
俺は宙を舞っていることを勘付かれないように彼の巨体によじ登った。
「この鎖、何本あるの? 一か所切ったら全部取れたりしない?」
「鎖は全部で七本だ。七英雄と呼ばれし勇者どもがそれぞれ巻きつけたものだ」
英雄だか勇者だかが七人いるのか。
七人がかりで仕留めたわけだ。
再び世に解き放ってよいものか慎重にならないといけないよな。
俺には関係ないかもしれないけど。
「ねえ、その英雄はとっくに死んでるよね?」
「ああ。だが…子孫が七英雄を受け継いでおるからの、同じことじゃ…」
「ふーん。とりあえず一本、切ってみるね」
「ふん。お手並み拝見といこうか」
千年もの間、彼を拘束してきた鎖だ。
お手並み拝見と言いながら鼻で笑うように息をした。
どうやら本気にはしていないようだ。
肩から腕辺りに絡んでいた鎖を選んで手に取った。
ヴェギラゴがとくと目に焼き付けられるように顔に近い所の鎖を選んだのだ。
鎖に手をかけて早速『バチバチ』と火花を散らしていく。
ただの金属の鎖なら熔解させるために高熱を加えればいい。
摂氏三千度の熱で溶けないものがこの世界にあるのかどうか。
野太い声が俺の名を呼ぶ。
「リヒト……」
「なんですか?」
「その指先から放出しているのは魔力か……見かけぬ属性だな」
属性……。
そういやあるよな、そういう概念が。
火とか風とか光とか、俺の能力は魔力ではないのだが。
そもそも魔力が何かを具体的には知らないのだ。
もちろん魔法や魔力という言葉だけなら知っているけど。
「属性というか……プラズマとかエーテルと呼ばれるものですけど」
「手前のはよく知らぬが、エーテルなら精霊の住む場所に多く集まるのを見た記憶がある」
存在するのかその現象が。
しかもエーテルは目に見えるのかよ。
ヴェギラゴが特殊な存在で見えるだけかも知れないし、後で確認をとろう。
「手前のは炎とか雷のことですけど。う~ん、これはなかなか手強いな。鋼鉄の鎖なら秒で切断しているのにな」
個体、液体、気体のどれとも性質が異なる電離した気体。それがプラズマ。
でもそこまで知らないみたい。中世だから細かいことは抜きにしよう。
手に取った鎖は重さからしても、アルミニウム。
鋼鉄といった重みはなく、手触りもその感触ではなかった。
そして一向に溶かすことができないでいた。
俺が手強いと漏らすと、ヴェギラゴが口を開いた。
「そのようなものなら森に住む木こりで十分だ。勇者ともなれば【特化加護】を開花させておるから、単なる鎖という名の捕縛物であるはずがない」
「なにそれ? なんか頑丈そうなスキル名だね。てことは──特殊な加護能力が七種、施されているわけか」
聖とか勇気とかファンタジー系のやつだとお手上げかもしれない。
それ系の属性の対処法が知識にない。
だが興味はある。
鎖が何によって守られているのか、ちょいと視てみるか。