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銃の精霊ルア編⑤

 その日の夜は、どうも眠れなかった……。ルリィやサレサ達が、隣で眠っている中、俺は1人横になったまま星空を見ていた。


「……」


 湖の精霊ミナの言っていた言葉が俺の頭から離れなかった……。精霊は、元々人間……。俺は、この世界における精霊と言う存在をあんまりよく知らない。ただ、ずっと傍にいてくれた精霊は、俺を助けてくれた。自由気ままで……ちょっとスケベで……お調子者な所はあるけど、それでも仲間思いの良い奴。


 言われてみれば、俺はルアの事を精霊として扱った事がなかった……。否、俺はアイツを何処か普通の人間のように見ていた気がする。


 いや、それは……おそらくルアの見た目が、ある少女と重なって見えるからでもあった……。


「……ゆかり」


 俺は、星空を眺めながら少年時代の思い出にふけった――。



 幼い頃、公園で出会ったその少女は、男子達からいじめを受ける可哀そうな奴だった。たまたま、近くを通りかかった俺は、いじめっ子達を退散させるべく、拳を握りしめて戦った。


 俺は、泥だらけの少女を近くの水道で軽く洗い流してあげて、その後にたまたま駄菓子屋で買っていたお菓子を渡した。


 一緒に駄菓子を食べて……その時に知り合ったのだ。その後も公園で見かけるたびに一緒に駄菓子を食べるようになり、俺と少女は仲を深めていった。俺は、彼女の家にも遊びに行くようになり、よくそこでご飯を一緒に食べるようになった。あの時間が俺にとっては、物凄く幸せな時間だったのだ……。


 俺達は、河川敷で遊んだ。追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、サッカーしたり……とにかく楽しかった。


「また明日、ここで遊ぼ!」


 そんな約束をした。――けど、俺はその約束を果たせなかった……。


 ゆかりを虐めていた奴の親が、俺の家にクレームを入れてきたのだ。貴方の所の息子が家の子に暴力を振るったと……。俺は、母親に叱られ……外で遊ぶ事を当分の間、禁止とされた挙句、塾にも通わされた。


 俺は、何度も理由を言おうとした。ゆかりを救うために必死だった事。暴力には、力でしか抗えなかった事。……でも、母親は分かってくれなかった。どころか、俺の言葉なんて聞いてもくれない。ただ、一言だけ俺に「そんな子とは、もう関わるな」と、ゆかりとの友人関係を断つように言ってきた。挙句の果てにそれでも尚、外で遊ぼうとする俺に対して鉄拳制裁を強いり、勉強だけに専念させられた……。



 その時から俺は、公園に寄らなくなった。河川敷にも……。ゆかりと遊んだ場所には、寄らなくなった。俺は、ゆかりとの約束を破った最低野郎だ……。そんな俺が、ゆかりと会う資格なんてない。そう思いながら俺は、過ごしていた。



 そんなある日にだった……。俺の元に一通の手紙が届いた……。送り主は、里華奈(りかな)とあり、すぐにそれが、ゆかりの家からだと言う事は分かった。しかし、ゆかり本人から送られて来たものではない。名前から察するにゆかりのお母さんから届いたものだろうか……?


 そう思った。俺は……最初にこの手紙を受け取った時にとても怖かった。どうして来てくれなかったのか? とかそう言う事を言われたら……と怯えていた。


 だが、現実はそれよりもっと残酷で……。手紙には、綺麗な大人の文字でこう書かれていた……。


 ――この度、娘は亡くなりました。死因は、自殺です。


「え……?」


 俺が人として生きていた最初の「死」の経験だった。あの時、あんなに元気に2人で駆け回っていたゆかりが、自殺をした。


 自殺の理由は、学校でのいじめと、それから孤独だった……。


「俺のせい……だ」


 本心が心から漏れ出た。俺が、あの時……ちゃんとゆかりと話をしにいけば……俺に母親に逆らう勇気があれば……。俺は……俺のせいで……。


 ゆかりの葬式には、出る事ができた。母親に全ての事情を話した。母は、相変わらず最低の毒親だ。自分のステータスの事しか考えていない。そのために子供を利用する事しか頭にない。……思い出すだけでも、あの時の母は……許せない。


 そして、俺は……その時からずっと……あの時の後悔を引きずり続けた。……女の子とも関わらなくなった。現実から逃げるようにオタク趣味に走った……。自分の心を閉ざし、残りの人生を死んだように生きた。……それは、この世界に来るまでずっとだ。


 俺は……許せなかった。自分が……。だから、この世界に来てからは、悪を始末するようになったんだろう。きっと、それも正義のためとかじゃなくて……自分の事が許せなかったから。腹いせなのだろう。


 そんな俺を……マリアは、受け止めてくれた。シャイモン邸から逃げ出した後、俺はアイツに……俺のこれまでの人生の全てを懺悔した。


 アイツは、俺を抱きしめてくれた。……それが、俺の第二の人生のビギンズナイトだったのだ。



 ルアの事を見ていると、無性にゆかりを思い出す。アイツの顔は、昔のゆかりに似ているのだ。まぁ、でも……ゆかりは女の子だった。それに正確も違っていた。ゆかりは、もっと自信のない感じのオドオドした女の子だったのだ。


 ――きっと、人違いだろう……。


 でも、もしも何かの奇跡が起きてゆかりが、この世界の何処かで精霊として生きているのなら……俺は、アイツに謝りたい。アイツを殺したのは、俺なのだから……。


 今まで多くの命をこの銃で奪ってきたが、俺にとって一番印象に残る人生最初の殺しは……ゆかりだ。銃も使わず、一切の引き金も必要としない。気づいたら死んでいたというのは、言い方が悪いが正にそれだ。


 人の命は、簡単に消し飛ぶ。……俺達は、生きているだけで存在そのものが”銃”のようなもので、行動1つが誰かを守る盾にもなるし、殺すための引き金にだってなる。一切の武器を用いずに死んでしまったゆかりは、これまでの誰よりも優しくて、素敵な人だった。……多分、初恋だった。


 ……ルアは、もうとっくに銃の中だ。いつもこの中で眠っている。……明日に備えて眠らないと……。


 そう思って俺は、目を閉じた。そして、しばらく目を閉じたままジーっとしていると、徐々に俺は眠りにつく事ができた……。


                      *


 銃の精霊。そうなったのは、もうかなり昔の話。僕=ルアは、主の銃の中に精神を映していた。この中にいる時、僕は主と実質1つとなる。だから、主の気持ちも……何もかも全て僕に伝わって来るのだ。


 僕は、主が眠れずに昔の事を思い出している心の声を銃の中で聞いていた。主は……ずっと後悔していたのだ。


 ゆかりの事を……。自分が殺したんだと……。ずっと……ずっと……後悔し続けていた。


「……主」


 僕は、主が眠った直後に銃の中から出た。そして、広がる星空を眺めたのだった。


 ――異世界に行こうと星は、変わらない。ずっと綺麗だ。


 僕は、この星を眺めながら昔の事を思い出していた。


「……ねぇ、あのね……」


 夜の河川敷の芝生の上で横になっている僕と友達。僕らは、遊び疲れて横になっていた。昔の僕が、隣で一緒に星を見ている男の子に話しかけていた。男の子は、視線を星空から僕に映し、聞いてくれた。


「……僕、学校に行くのがとっても怖い……。明日で冬休み終わっちゃうじゃん。そしたら……もう会えなくなっちゃうよね? 僕の事もきっと……忘れちゃう……?」


 しかし、男の子は言った。


「……何言ってんだよ! 俺は、忘れないよ! 学校が始まっても俺達、ずっと一緒だ!」


「ほんと……?」


「本当だよ! それにね、もしも……学校が怖いと言うのなら……俺が、学校を作ってやる!」


「え……?」


「俺達だけの学校だ! 俺が、いつか大人になって先生になったら……お前も連れて行ってやるよ!」


「その学校では、どんな事をしてくれるの?」


「……うーん……とね、俺が美味しい給食を作ってやる!」


「何それ~!」


「とっ、とにかく……大丈夫だ! 俺、絶対にお前の為に教師になってみせるから! だから、絶対に……絶対に忘れるなよ!」


「うん! 楽しみにしてる!」


「おう! ……また明日、ここで遊ぼ!」


「うん! 約束!」



 懐かしいなぁ……。僕、君ともっと遊びたかったよ。……でも、ごめんね。……先に逝ってしまって……。ごめんね。約束を破ったのは、僕の方なんだ……。

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