銃の精霊ルア編④
湖の精霊ミナ……その正体は、俺と同じこことは、違う別の世界からやって来た正真正銘の人間。この世界にやって来てから精霊となってしまっていたが、彼女が語るに精霊と言うのも元は、ただの人間であったと語っていた。
実際に俺は、彼女の人であった頃の姿を知っていたわけだし――。
そして、俺達は精霊の涙を持つ事もできた。これで、これから先の道中で仲間達の誰かが傷ついてしまったとしても傷の手当てが可能となった事からこれまで以上に戦いやすくはなったわけだ。
それよりも……ミナが最後に言っていた言葉が気になる。ミナは、俺に対して「ルアをよろしく」と言ったような言葉を何回も言っていた。それが、何を意味するのか? 全くの謎である。
単に昔からの友達だからという理由で、ルアをよろしくと言っているようではなかった。もしそれなら、何回も同じ事は、言わないだろう……。そうなのだとしたら……ルアには、何か秘密でもあるのだろうか? 何か俺達にも言えないような……物凄い秘密が……?
湖から離れて森の中を歩いていた俺は、ガンベルトに装填された銃の中で眠っているルアを呼んでみる事にした。
「……ルア、今良いか?」
しかし……アイツが俺の呼びかけに応じる事はなかった。
――あれ? おかしいな……。いつもなら「どうしたの? 主~」とか言ってすぐに呼びかけに応じてくれるのに……。
どうしたのだろうか? いや、アイツにも都合があるのだから応答がないのなら仕方がないか……。ミナと別れてすぐにしばらく休むと言って銃の中に引っ込んだわけだし……。と、そんな事を思いながら森の仲を歩いていると、後ろからシーフェの声がしてきた。
「……ちょっ! アンタ達……待って……よ……」
彼女は、とても疲れた様子で息を切らしながら膝に手を置き、しばらく下を向いていた。
「ん? どうした? まだ、この森の半分程度しか進んでいないが……」
すると、シーフェは人差し指で空をさした。段々暗くなっていく空。既に夕焼けと夜闇が入り混じる光景が広がりつつあった……。
「……もう暗いんだし、今日は……この辺で……キャンプしない?」
シーフェが、そう言うと近くにいたルリィやサレサも賛同してきた。
「……そうですわね。アタシもちょっと歩き疲れてしまいましたわ!」
「私も……。ムー君は?」
サレサに尋ねられて、俺は……仲間達の様子を見渡す。確かに、皆かなり疲れている。
「……そうだな。今日は、かなり歩いたし……それに精霊の涙も手に入った。今日は、ここで一泊するか」
「「「やったぁ!」」」
3人は、大喜びですぐに倒れ込むように地面へ尻餅をついていった……。彼女達が、そうしている間に俺は、晩御飯の用意を開始するのだった。
「……ジャンゴ~、今日のご飯は何?」
シーフェが、ワクワクした様子で尋ねてくる。俺は、ルリィの展開してくれた魔法陣の中から調理器具と食材を取り出し、様々な食材を眺めながら吟味した。
「……うーん。そうだなぁ。今日は……唐揚げでも作るか!」
「唐揚げぇ!」
すると、さっきまで疲れた顔をしていたはずのサレサが、急に嬉しそうな顔になる。そのあまりの落差にびっくりしつつも俺は早速、鶏肉の下ごしらえを始める。
「……そういえば、サレサは……唐揚げが好きだったな」
「うん! ムー君の唐揚げ大好き!」
彼女は、とてもワクワクしていた。その様子が、ちょっと可愛い。
「……唐揚げ?」
そんな彼女の隣では「唐揚げ」という言葉にピンと来ておらず、頭の中に「?」を浮かべているシーフェの姿があった。サレサは、そんなシーフェに告げた。
「鶏肉の揚げ物の事! ムー君の作る唐揚げは、美味しい! 隠し味に蜂蜜を入れるんだよね!」
「よく覚えているな! そうだ。この味も……昔、仲が良かった友達の家で食べた唐揚げでな。あそこのおばさんが、作ってくれるご飯は、どれも美味かった……。唐揚げ以外にも、ミートソースとか手作り餃子とかもあってな……。どれにも隠し味があって、餃子の隠し味なんかはな……」
と、俺がつい楽しくなってしまって昔の思い出を語っているとその時だった――。
「シナモン……でしょ?」
「そうそう……! って、ルア!?」
突如、俺の銃の中で眠っていたルアが起きて、姿を現していた。ルアは、俺達の前に姿を現すと、告げた。
「……そろそろ晩御飯の予感がして起きちゃったよ~。唐揚げを作っているんだね!」
「あぁ……! ルアも作るか?」
「うん! やるよ。……何をすれば良い?」
「それなら……調味料とか片栗粉の用意をお願いできるか?」
「分かったよ。主」
ルアは、とてもノリノリで早速準備に取り掛かった。それを見ていたルリィも……。
「アタシも何かお手伝いいたしますわ!」
そして、それに釣られてサレサやシーフェも身を乗り出して来た。
「……私も手伝う」
「……しょっ、しょうがないから……手伝ってあげなくもないというか……」
「……ありがとう。……それじゃあ、色々お願いしよう」
こうして、俺達は皆で分担して調理を行う事にした。その甲斐もあって、調理は順調に進み、いつも1人で作るよりもかなり早くに調理は、完了していった――。
「「「「「いただきます!」」」」」
皆で、出来上がったご飯を食べる事にした。今日のご飯は、唐揚げ。……本当は、米とみそ汁もつけたいのが、日本人というものだが……そこまで豪勢にもできない。この世界じゃ米はそこまで取れないようで、お米を炊く事は、かなり限られる。カレーの時に米を使ってしまったし……。
その代わり、かなり大きい山賊焼きのようなデカい唐揚げを揚げたので、お腹は十分に満たされるはずだ。
幸い、サレサ達も喜んでくれているみたいだし……。と、皆で食事をしている時にルリィが、ルアに尋ねるのだった。
「……そういえば、先程湖の精霊も言っておりましたけれど……精霊は、元々人間でしたのよね? それなら、ルアさんも元は、人間と言う事で……良いのでしょうか?」
その一言に、ルアは急に食べるのを辞めて……下を向き始めた。
「……ルア?」
少し心配になった俺が、アイツの名前を呼ぶと……ルアは、しばらく黙ってしまった。
「……」
やはり、何か言いたくない事でもあるのだろうか? そんな事を考えていると……ルアは、少し口を開けて告げた。
「……うん。僕、人間だったよ……」
「あっ! やっぱりそうなんですわね!」
ルリィは、それを聞いて少し嬉しそうにしていた。しかし、当のルア本人は、どうも暗い。すると、ルリィは、尋ねるのだった。
「……どんな人だったんですの? ルアさんって……殿方様と同じ世界の人なんですよね? それこそ、もしかして……殿方様と既に会っていたりとか……」
ルリィは、少し楽しそうに尋ねていた。俺は、そんなルリィに一言告げた。
「……おい! やめろ。……あんまり無理に聞こうとするな。それに俺とコイツが出会ってるわけないだろ! 俺、おっさんだぞ? こんな可愛い子と知り合ってたら……捕まっちまうよ……」
と、言うとルリィやサレサ、シーフェは大笑い。だが、反対にルアは全く笑っていなかった。彼女は、しばらく下を向いて、俺達がひとしきり笑い終わった頃に告げた。
「……普通の人、だったよ? 僕、普通の家に生まれて……普通に過ごしてた。前世ではね、僕結構、女の子にもモテてたんだよ? 美形って言われてたし……。芸能界デビューの話だってあったんだから!」
と、そんな事を言うルアをルリィ達は、大笑いで迎えた。俺も少しだけ半笑いで聞いていたけど、でもどうも乗り切れなかった。ここ最近、なんでだろう? ルアの様子が、やはりおかしい気がしてしまう。何だろう? この違和感……。
ふと、ルアの横顔をジーっと眺めていると……俺の大昔の記憶の中に1人の女の子の姿が浮かび上がって来る。
その女の子と俺は、追いかけっこをしている。河川敷で……。俺達は、いつまでも走り続けていた……。
――ゆかり……。
あの子の名前が、浮かび上がってくる。懐かしい友の名前……。俺が、人生で初めてできた女の子の友達だ。……もう何十年も昔の……俺が小学生の頃の話だが……。
俺は、そんな遠い過去の記憶を朧げに思い出しながらこの唐揚げにかじりついたのだった――。




