それぞれの戦い編④(スターバム編)
クリストロフ王国、北部に位置する王都から少し離れた場所に位置する森の中……。
私=スターバムと、エカテリーナ皇女は、共に王都からの脱出に成功していた。あの誓いの後、私は……皇女様を守るため懸命に剣を振るった。元部下である騎士ユダは、私がエカテリーナ様と共に行く事を決意したのを見て、信じられないと言った様子だった……。
――あの時、剣を交えながら私とユダは、互いに睨み合っていた……。
「……スターバム騎士団長!? 貴様、正気か! この国を捨てるのか!」
私は、そう告げてくるユダに向かって告げ返した。
「……私の主は、この国ではない! 私は……私が、最も命を預けるにふさわしい存在にこの身を委ねる事としたのだ!」
「それが……エカテリーナ様とでも!? ふっ、馬鹿な……。そこの皇女様は……ただのお飾り。名前だけで……これまで、王家としての責務の1つも果たした事がない。ただのカカシよぉ!」
「……そうかもしれぬな。だが、それはこれまでの話……。俺とエカテリーナ様は、自分の過去を超える。そのために……戦う覚悟だ!」
「貴方は……いや、貴方が今も生きていられるのは、国王陛下と王宮のおかげなのですぞ! 忘れたのか! スターバム!」
「知った事か! 国王も……王宮も……他の王族も……知った事ではない! ただ、倒すまで……。我らの王道を邪魔する全てを……。我が主、エカテリーナ様の前に立ちふさがる全ての障害を……取り除くのが、剣たる私の使命だぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな……さっきあった事を懐かしい気持ちで振り返りつつ、私は芝生の上に腰を下ろした。
私達は、今日この森の中で野宿をする事に決めて、一緒に火を囲いながら食事を始めた。
と言っても、簡単な食事だ。たまたま私が持っていた野宿した時用の簡易飯。……火で温めながら魔力を注ぎ込むと食べれるようになるシチュー。まぁ、カップ麺のシチュー版みたいなものだ。
それを食べながら私は、皇女と話をした。
「……皇女閣下、今後はどうなさいましょう? このまま……西部を目指すと言っても……私には、あまり食料もありません。かといって、この近くの町に寄るというのも危険だと思われます」
私達は、王宮を追放されてしまった者同士……。いわば、指名手配の状態となっていた。そのため、元々長旅を想定した準備など行われてはいなかったのだ。
このまま行くと、今は良くてもこの先、すぐにじり貧になる事は確定していた。しかし、そんな中でも皇女は、一切落ち込む事もなく告げた。
「スターバム、貴方……狩りの心得は?」
「狩り……? あぁ、転生してきたばかりの頃に教わりました。まぁ、勿論……成績優秀ですぐに卒業する事ができましたけれど……」
私が、そんな自慢話をすると……エカテリーナ様は、嬉しそうな様子で返事を返してくれた。
「……それは、心強いですわ! 頼みます! スターバム! わたくしの……騎士として……!」
「イエス・マイクイーン! お任せを……。それと、忘れないで頂きたい……。エカテリーナ様」
私は、念のために彼女へそう告げる。すると、エカテリーナは私の顔を真剣に見つめたままコクっと頭を上下に振って返事をしてみせた。
「……分かっております。貴方の望みは、このエカテリーナ……命に代えてでも果たすつもりです。クリストロフ王家の名にかけて……」
クリストロフ王家……か……。
「……家を抜けた皇女様が、王家の名を名乗るのですか……? 私達のやっている事は、国王からすれば破門案件ですよ」
と、言うと……エカテリーナ様は、少しだけ恥ずかしそうに下を向いてしまった。
私達は、決して互いに信頼し合っているわけではない。どちらかというと、利用し合うような関係なのだ……。
私は、私の願いの為に……皇女を利用するし、皇女も自分の目的の為に私を利用する。……その間は、主従の関係だ。ナイトとクイーン。守る者と守られる者。……支える者と支えられる者。私達は、そうやって利用し合うのだ。
しかし、これで良い。むしろ、私にとっては、こっちの方が何かと都合が良い。それに、姫には色々と感謝もしている。
――まぁ、ある一点を覗けばだが……。
私は、姫の隣をジーっと見つめる。
「……」
そして、エカテリーナ様に告げた。
「……本当に良かったのですか? これで……」
私が、エカテリーナ様の座っている隣をジーっと見つめながら彼女にそう尋ねると、エカテリーナ様はコクリと頷き、告げた。
「……はい。これも……わたくしが理想としている世界の実現のため……必要な事だったのです」
「しかし……本当に助けるべきだったのでしょうか? この方は……」
私は、エカテリーナ様の隣で眠っている1人の男をジーっと睨みつけた。その男は、まるで死んだように眠っており、全身には火傷の跡のようなものが、あるだけだった。
しかし、エカテリーナは告げた。
「……構いません。なんせ、わたくしは、もう王族ではありません。敵対する者など本来、いないのです……」
流石は、姫様……。覚悟が違う。段違いだ。
と、感心していると次にエカテリーナ様は、私の事をジーっと見つめてきて、告げた。
「……それよりも、貴方の方こそ平気なのですか? 先程から……なんだか、少し呼吸が荒いようですが……」
「え……?」
まずい……感づかれてしまったか? どうなのだろうか? そう思いながら私は、慎重に口を開いて告げた。
「……平気です。少し、今日は疲れてしまったようで……そのせいでしょう」
「……だと、良いのですが……気を付けてください。貴方は、勇者なのですから……この先の西部を目指す旅において、切り札となるのです。勇者スターバム、今日はゆっくりお休みなさい」
「心配をかけ、申し訳ございません。エカテリーナ様……」
そう言って、しばらくしてから私は、食事を終えて……森の中を少し散策する事にした。いつでもエカテリーナ様の所へ戻れるように警戒しつつ、森に異常はないかを確かめつつ……私は、一本の木の前で……急に吐き気を催してしまった。
何もかも……体の中の取り入れて栄養素を吐き捨てた私は、呼吸が苦しくなった……。そして、若干クラクラしながらも私は、立ち上がった。
――まずい……。タイムリミットが近づいているか……。おそらく、今日……王宮を抜け出す時に3分間も時を止めたのが、原因だろう。……その後にも勇者の力を使ってしまって……今日だけでもかなりの消耗だ……。
心臓の音が、激しい……。体の中でうるさく響いて来ているのが分かる……。
「……クソッ! ……まだ、こんな所で……こんな所でっ……! 持ってくれ……私の……体……!」
私は、ギュッと左の胸の前で拳を握りしめながら自分の足元に咲いていた枯れつつある花を見つめた。やがて、少し回復してきた私は、すぐに散策を辞めて、眠る事にした。
明日から……エカテリーナ様を西部に送り届けるための旅が始まる……。佐村ジャンゴとも、会えるかもしれない! そうすれば……すぐにでも私の願いは……叶う!
そう信じて……私は、雪音のいる夢の世界へと入って行った……。




