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愛のウォーリアー編④

 ──追いかけてくる騎士達を巻いた私達は、誰もいない建物の中に入る事にした。追ってくる騎士達に警戒しながら私達は外を見渡す。


 巻けたとはいえ……まだ安心はできない。


「……もう少しここで隠れていた方が良さそうですね」


「はい……」


 私の隣には、パーカーを深く被った1人の少女が立っている。彼女の息はキレキレだった。もう既に疲れて足も動かせないと言った様子だ。


 長いスカートの中から覗く細くてか弱そうな白い足を見た私は、彼女の正体について確信を得た。


「やはり……貴方は……」


 すると、女は私の顔を見て驚いた様子で口をポカンと開けたままとなる。


「……エカテリーナ姫……ですね?」


 少し尋ねてみると、彼女はしばらく下を向いていた。そして、静まり返った暗い空間の中で彼女は、ゆっくりとパーカーを脱ぎ捨てて、そしてその雪のように白くて美しい顔を私の目の前で晒した。


「……」


 姫は、無言で私を見つめてくる。私は、彼女の目を真っ直ぐ見つめながら尋ねるのだった。


「……なぜ、こんな所へ……。姫様……」


 家出……という訳でもないだろう。そもそも一国の姫様が、その辺の女子高生のように気軽に家出するわけがない。彼女は、ゆっくりと口を開き、そして告げた。


「……わたくしは、もうあの御城にはいられません」


「は? それは、どういう……」


「お父様は、これから魔族と戦争を始めるつもりでおります。お父様の目的は、人間だけの世界を作る事。……そして、そのために多くを犠牲にし……神話の時代に存在したとされる女神を降臨させるおつもりです。……最早、時間はありません。わたくしは、お父様との縁を切る事にいたしました。これより、西部にいるクリーフと合流し、お父様を討ちます! そのためにわたくしは、お城を抜け出す事に致しました!」


 姫は、強い視線を向けて私にそう言った。彼女の瞳と言葉からその意志の強さは、よく伝わって来る。しかし……。


「……貴方は、馬鹿なのですか? 貴方は、この国の王族なんです! 将来的には、現国王から王位継承をするかもしれない人なんです。その貴方が、こんな事をしていては……この国は、混乱してしまいます! 今すぐ、お城に戻るべきです!」


 私は、彼女に本音を吐いた。彼女の考えている事は、馬鹿みたいだ。父親を裏切る? そんな事をわざわざやってどうするのか? 一国の姫なら、他にもやりようはあるはずなのだ。それなのに……。


「――それは、わたくしの夫として……パートナーに対する助言ですか?」


「は……?」


 こんな時に何を言っている? パートナー? 夫……? 確かに、王城にいた頃は国王陛下から結婚するように言われていたが……。


「そんな事は、どうでも良い。とにかく、貴方はお城に戻るべきだ。貴方の気持ち1つで……家出などして良いわけがない……。何なら、私が貴方をお城までお返しいたしますよ」


 ――そうすれば、お城に戻った時に国王陛下に脱走した事の言い訳ができる。王に対して反逆を企てようとしていた逃亡中のエカテリーナ様を追って、町まで赴いていました。……このスターバム、国王陛下のために……尽力して参りましたのです! ……こんな所だろうか。これで、再び私は王城に復帰できる。私に着せられた濡れ衣も晴らす事ができる。そうすれば……!


 と、内心思っているとその時だった。エカテリーナは私の顔をジーっと見つめながら告げた。


「……その必要は、ありません。貴方は、もうわたくしのパートナーでも夫でもないのでしょう? それなら……わたくしを王城まで連れて行く必要は、ないはずです」


「何を言っているのですか! 私は、勇者……! 一国の姫を危険から守る事も勇者の務めというものです! さぁ、姫! それでは共に……王城へ戻りましょうか!」


 これで、私は再びあの城の中で生きていける。あともう少しだったのだ……。もう少しで……佐村ジャンゴの心臓にも届く所だったのだ。……できれば、貴方と結婚する事ができれば色々と都合が良かったのだが……そっちの方は、もう難しいだろう。しかし、この場は……この姫をお城に送り届ける事の方が大事だ。私の名誉挽回の為にも!


 ――だが……!


「……お断りします!」


「ふっ、予想通り。私が睨んだ通り……って、何ですって!?」


 エカテリーナ姫は、私の目をジーっと睨みつけながら告げた。


「……貴方が、わたくしをお城へ連れ帰す目的など最初から分かっております。自らの手柄を得て、もう一度名誉挽回……。おおむね、そんな所でしょう」


「そっ、そんな事は……」


「嘘を申しても無駄です。指名手配され、逃亡中の貴方が、お城へ戻る事などリスクがあり過ぎる。しかし、同じ頃に逃亡しているわたくしを連れて帰る事ができれば話は、変わって来るかもしれない。おおむね、そんな所でしょうか? あいにく、わたくしの推理力を舐めないでいただきたいですわ」


 ――この女……勘が鋭いとは、前から聞いていたが……まさか、ここまでとは。


 と、色々な事を考えていると今度は、エカテリーナ様の方から言ってきた。


「……それよりも、スターバム。貴方は、どうして指名手配などされているのです? 一体、何を……」


 だが、私は姫様に対して言ってやった。


「……ふっ! 貴方には関係ないですよね? 姫様。なんせ、私と貴方はパートナーでも結婚しているわけでもない。私の事にいちいち首を突っ込む必要はないはずです」


「それは……そうかもしれません」


 よしっ! ……このまま説き伏せてしまえば、この場でこの女を王城へ連れて行き、再び私は復活する!


 私は、追い打ちとばかりに告げた。


「……お分かりいただけましたか? 貴方と私は、いわば赤の他人だ! さっき助けてもらった事には感謝はしています! しかし……それとこれでは話が違う! 第一、姫様1人でこの先……西部まで行く事など不可能に近い! 姫様の足では西部に辿り着く前に倒れてしまう事でしょう! それなら、やはり私と共に王城へ戻った方が良いに決まっている!」


「……」


 更に追い打ちをかけた事で口を開かず黙り続けているエカテリーナに私は、最後の追い打ちをかけた。


「……それとも、この場で私の妻となる事を決意しますか? そうすれば、教えてあげても良いでしょう? 私の事を……。そして、手伝って上げましょう。貴方が、西部へ向かうための……私が足となりましょう!」


 ――さぁ、どうする?


 結果は見えている。姫は、絶対に私の妻となる事だけはしないはずだ。


 だが――。


「構いません……。貴方が、それで満足するのならそうしましょう!」


「何……?」


「その代わり、わたくしの前でそう言ったからには最後までわたくしの夫として尽くしてもらいます! わたくしを必ず西部まで送り届ける事! それから……貴方の隠している秘密。貴方の事も全て……お話しなさい!」


 エカテリーナは、強い眼差しでこっちを見てくる。その強すぎる視線に私は、固まってしまい、一瞬声も出せなくなっていた。


 私は、何とか振り絞った言葉で彼女に言い返す。


「……なっ、何を馬鹿な!? 貴方は、私との結婚を嫌がっていたはずだ! それなのに……急にどうして?」


「確かに……貴方と婚約の契りを結ぶ事は、わたくしは反対です。しかし……貴方がどうしてもと言うのであれば、話しは違います。わたくしは、確かに無力です。自分1人の力では、きっと西部まで辿り着く事はできない。故に……協力者が必要なのです。そのためなら良いでしょう。わたくしは、いくらでもこの身を捧げましょう! ……わたくしは、知りたい。巣に閉じ籠っていた間に起きた真実を……。この世界の未来を! そのために……今を見に行くのです! この砂漠を超えて……」


「なっ、何を! 良いのですか? 旅の中で私が貴方にどんな酷い事をするかも分かりませんよ?」


 私は、彼女に脅しをかけるも……エカテリーナから返って来る言葉には、重みがあった。


「……できませんわ。貴方が、わたくしにそんな酷い仕打ちをする事など……きっと不可能」


「なっ、なんだと!? なぜ、それが分かる!」


「目を見れば分かります。貴方は、わたくしと同じ目をしている。わたくしと同じ……愛する者の為ならなんだってしようとする目。……しかし、その愛する者は、今はいない。だからこそ、迷いもある。……わたくしと貴方は、きっと同じなのでしょうね……」


 その言葉に私は、我慢ならなかった。私は、姫様相手に大声で怒鳴りつけてしまった。


「貴方のような人と私を一緒にするな! 私は、貴方とは違う! 少女漫画脳の貴方なんかとは! 私は……私には……」


 すると、エカテリーナは大きく溜息をついて……呆れた様子で私に言ってきた。


「……では、申してください。貴方が、私とどう違うのか? その過去について……」



「……なっ!?」


 過去……私の……過去……だと? 私の過去……雪音との……時間。


 私の脳裏に美しい黒髪を持った1人の女の姿が思い浮かぶ……。ここまで来たら……もう仕方ないか。私の過去。……それを始めて……私は、この世界の住人に話す事になる……。



 ――To be Continued.



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