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愛のウォーリアー編③

「貴様! いつまでトイレに籠っているつもりだ! クソ位さっさと捻りださんかい!」


 騎士の1人が、スターバムの入ったトイレのドアを蹴って無理やりこじ開ける。――だが、そこには。


「……いない?」


 スターバムの姿は、何処にもなかった。彼は、先程までトイレにいたはずで、個室の中に入って行く姿を彼も見ていた。この王城のトイレの個室には、逃げ場などないはずだった。それなのに……自分の知らないうちに逃げられている事に騎士は、驚いた。


「……探せぇ! 奴を探すんだ! まだ遠くには、行っていないはずだ! 徹底的に探し出せェ!」



                       *


「何やら、王城が騒がしくなってきたな……」


 王城から出た先に広がる大きな町――王都。その町でパーカーを着て自分の顔を隠しながら歩いていたのは、私こと勇者スターバムである。


 私は、騎士達から逃げ出すために時を止める魔法を使って、ここまで逃げてくる事に成功したのだが……私の時を止める魔法は、3分程度が限界だ。王城から抜け出し、町まで走って行き、そして……身を隠す事のできる格好をしたらもう時間は、経っていた。


 せめて、王都から抜け出すくらいまでは、持っていて欲しかったのだが……そうもいかない。


 私の時を操る力にも限界は、ある。そして、王都の関所を目指して歩いていた時……道を歩いていると、角から騎士達がせわしく動き回っている様子が見えてきて……私は、角に隠れながらその様子を見ている事にした。すると……奴らの話をしている声が聞こえてきたのだ。


「……おい。聞いたか? スターバムって奴、脱走したらしいぜ」


「スターバムって……あの勇者様の事か?」


「あぁ……どうも国王への反逆罪って事みたいなんだけどなぁ……」


 やはり……既にバレてしまっているか。それを確信した私は、パーカーを深く被り直して、先を急ぐ事にした。


 時を止める魔法は、止めた時間が長くなると……連続して発動させる事ができなくなってしまう。先程は、3分フルで使ってせいで消耗も激しい。少し時間を置いて……関所に着いた時にもう一度この魔法を使う事にしよう……。


 そんな計画を立てていると……今度は目の前で指名手配書を壁に貼り付けている騎士の様子が目に入る。


 ――私の手配書だ……。私も落ちたものだ。……最初は、この世界で……騎士として頑張りつつ……自分の目的の為に陰ながら頑張って行こうと思っていたというのに……。今では、ただの指名手配犯。エンジェルと何ら変わりない。


 すると、その時だった。壁に張り紙をしていた騎士が、私の方に気付いたみたいで、彼はこちらに近づいて来て、告げてきた。


「……失礼。貴方、見ない人ですが……お尋ねしたい。貴方、この男を知っていますか?」


 ――!?


 見せてきたのは先程、壁に張っていた私の指名手配書。私は、息を呑んだ。こんなに早く嗅ぎつけられるとは、思わなかった……。


 ここは、嘘をつくしか……。


「い、いえ……私は、何も……」


 そう言ってさり気なく立ち去ろうとした私だったが、その時――!


「……おい! 待て」


 と、言われて私の腕を騎士は、がっしりと掴み、離さない。私は、騎士の手が触れた途端に全身がぶるっと震えた。恐る恐る彼の方を見てみると、騎士は告げるのだった。


「……お前、どうも怪しい……。先程から貴方から感じる魔力の香り……そして、貴方の雰囲気……。どうも王城にいた頃の勇者スターバム様そっくりだ……」


 ――まさか、もうバレるのか!? こんなに早く!


 関所を通り抜ける事こそが、勝負だと思っていた。だが、思わぬ事態だ。まさか、自分の正体が、こんな見ず知らずの騎士にバレそうになるなんて……。まずいぞ。……ここで、無理やり手を振り解いて逃げようものなら……それこそ怪しいと思われてしまう。だが、だからと言って顔を見られてしまっては、終わりだ。


 と、色々考えていると……。


「どうした?」


「あぁ……実は、この男が怪しくてな……」


 ぞろぞろと他の仲間の騎士達が集まって来た――。


 まずい……。本格的に逃げ場がなくなってきた。このままだと本当にここで、正体がバレて……最悪この場で切り捨てられる事もある。そうなれば……終わりだ。ここまで来てしまったら正体がバレる事なく王都から抜け出す必要があった……。


 だが、それももう無理そうだ――。



 諦めかけていた時、私のもう片方の腕が強く引っ張られる――。てみるとそこには、私と同じくパーカーを被った1人の女がいて、その女が私の手を引っ張りながら周りにいた騎士達に告げた。


「……お待ちになってくださいませ。騎士様方、この人は……わたくしの夫でございます。わたくし達、夫婦は……この王都である商売をしにやって来た旅の者でございます。決して怪しい者ではございません」


 女は、丁寧な口調でそう言うと、騎士たちの視線も私から彼女に移っていく。騎士達は、告げた。


「……ほう。そのある商売というのは……一体なんだ?」


 騎士がそう尋ねると、女の挙動が明らかに一瞬おかしくなった。だが、すぐに改めて彼女は、言葉を発する。


「……実は、このような髪飾りを2人で作っておりまして……」


 咄嗟に女が取り出したのは、世にも珍しく美しい髪飾りだった。銀ピカで……シンプル。しかし、何処か豪勢さも感じる一品。一級のプロでないと作る事ができず、手に持つ人もそれなりに偉い人でないといけないような……そんな感じの髪飾りであった。


 それを見せられた時、騎士たちは髪飾りのあまりの凄さと証拠の提示に納得し、私の手を離してくれた。


「……まぁ、良い。好きにするが良い……」


 そうして、私はその謎の女と共に騎士達の傍からゆっくり離れる事にした。


「……無事で何よりです。スターバム」


 女は、私の耳元でそのような事を言いだした。……私は、この声に聴き覚えがある。しかも……私の名前を知っているという事は……。


 と、思っているとその時だった。今度は後ろの方から騎士達の話し声が聞こえてくる。


「……おい。ちょっと待って。さっきの髪飾りは……王族にのみ着用が許されたティアラだったはず……」


 ――王族!?


「なんだと!? と言う事は、まさか……あの女!」


 騎士達の睨みつける視線が、こちらに向いた次の瞬間、一緒に歩いていたパーカーを被った女が私に小声で言ってきた。


「……走りますよ。スターバム!」


「なっ! 貴様……やはり!」


 私と彼女は、一緒に走って騎士達から逃げるのであった……。

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