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ラストワン編⑥

 ──次の日、朝を迎え、これから出発へ向かおうとしていた俺=佐村光矢とルリィやシーフェ達の元に1羽のフクロウが飛んできて、手紙を渡してきた。


 中を読んでみると、そこにはおやっさんの字でマシンガンの修理が終わったと書かれている。俺は、病室で寝ているサレサを迎えに行った。


「……動けそうか?」


「うん。大丈夫だよ」


 サレサは、昨日までと見違えるほどに回復した様子で、俺の手を取り、そして立ち上がった。側にいた女将さんが告げる。


「……当然でしょう? この私が、一晩かけて治療したんですから」


 女将さんは、そう言うとナースの帽子を取って眠たそうに去って行こうとした。


 彼女は、去り際に告げた。


「ご武運を……」


「……あぁ、アンタには世話になったな」


 俺達は、サレサを連れて魔王城を抜けて、そして龍の姿となったルリィの背中に乗り、空を飛んだ。上空へ上がる途中でシーフェが、ルリィに言った。


「……良い? ここを抜けて北東へ真っ直ぐ進んで頂戴!」


「分かりましたわ」


 どんどん離れていく魔族の里を少し寂しそうに見つめるサレサを見て、俺は言った。


「……今ならまだ引き返せるぜ? 同胞達の元へ帰れる」


 だが、彼女は強い眼差しで俺の事を見つめながら告げた。


「……ううん。ついて行くって決めたから。ムー君と一緒に……」


「サレサ……」


 サレサは、遠い空を眺めながら言った。


「……私、ムー君が助けてくれなかったら……今頃、死んでいたかもしれない。ずっと……ずっと、森の中で1人、寂しい思いをしてきて……それで、やっとムー君やマリアさんと出会えて……数百年ぶりに誰かといる事の温かさを感じられた。ルリィも……マリアさんも……皆、同じ事を言っていた気がするけどね……私にとっても……皆は、家族のような存在なの。だからね、恩人であるムー君とマリアさん達の為なら……私、頑張れる! ううん! むしろ、頑張らせて欲しい!」


「サレサ……」


 ルリィと言い……コイツと言い……マリアもだが……コイツらには、ここ最近助けられっぱなしだ。……前世で何にもなれなかった俺が……今では、こんなに色々な人に精神的に支えられて……今を必死に生きる事が出来ている。最初に……この世界にやって来た時は、追放されて……何もかも失ってしまって……もう完全に生きる事の何が良いのか……分からなかったけど……。


「そういえば……ムー君」


「ん?」


 急にサレサの声色が変わって、俺に何かを問い詰めてきた。


「……ルリィに告白されたって本当?」


「え……?」


 急にどうして……そんな事を知っているんだ。このエルフさんは……アンタ、昨日まで寝てたじゃないか……。


 すると、サレサは突然ニッコリ笑い、告げた。


「……昨日ね、私が寝ている時に……わざわざルリィが、こっちに来て私に言ってきたんだ。……”アタシ、とうとう殿方様に思いを伝えましたわ!”……って、なんだろう? 怪我人にマウント取ってきたんだよね……。怪我人に……」


「待て待て……。それについては、俺は何も悪くないぞ……!」


「ううん。そうじゃないの。ムー君さ……私が、里帰りしている間に……ルリィと何をしていたの?」


「……え? いや……普通に武器取りに行って……その途中でエンジェルを助けて……色々あって、スターバムとも戦う事になって……」



「ふーん……。武器を取りに行っている間……2人っきりだよね? 何か、話した?」


「……え!?」


 その時、ルリィに聞かれた言葉が頭の中に蘇って来る。


 ――誰が、一番好きなんですの?


「その様子だと、なんだか……そっちの方も色々あったみたいだね。ムー君……」


「サレサ……落ち着け。俺は、至って真面目におやっさんの所へ向かったんだ! 色々誤解してるぞ!」


「ううん。良いよ。ムー君……私、怒ってないから。全然……! 全く……! 一切……! 何も……! オールノッシング……! 怒ってないよ」


 ――いや、絶対に怒ってるだろう……。これで、怒ってないは流石に無理がある。


「……なぁ、ルリィ……お前からも何か言ってやってくれ。コイツの誤解を解いてやってくれ……」


 俺が、龍の姿となったルリィに話しかけると、彼女はテレパシーを送って来て直接脳内で俺に話しかけた。


 ――分かりましたわ。


 よし。コイツからも直接言ってくれるみたいだし、これで一安心かな。


「サレサ……! 殿方様の隣は、既に満員電車ですわよ~!」


 ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 何言ってんだ! ルリィ……!


「ぷっ! 面白くなってきたね! やっぱり主といると、飽きないや!」


 と、俺の新しくなった銃の中で俺達の話している様子を見ていたルアが、くすくす笑いながらテレパシーでそう語りかけてきた。


 ――このクソ精霊!


「……ジャンゴ、アンタって本当に罪な男よ」


 少し離れた所で様子を見ていたシーフェまでそう言う。


 ──罪って、俺が一体何をしたって言うんだ!?


 そして……サレサは、というと……。


「……大丈夫だよ。ムー君。ぜんっぜん……! ほんっとうに……! 全く……! 一切……! 何も……! オールデリート……! 怒ってないよ!」


 オールデリートって何!? 俺、消される? 明日は、わが身とは……この事を言うのか?



                     *


 俺達が、ルリィの背中に乗って空を移動し終えて、地上へ下りてきてすぐに俺達は、おやっさんと再会した。


 と言っても、昨日会ったばかりだったので、もうそこまでの感動はない。それよりも……意外だったのは、おやっさんの隣にいた。もう1人の男の事である。


「……エンジェル!?」


「エンジェル・アイ……3人目の勇者の!? どうしてここに……」


 シーフェは、特に驚いていた。まぁ、当然だ。普通の人間なら犯罪者が目の前にいる状況だし……。


 それにしても奴が、おやっさんとどうして一緒にいるのか……分からなかったが、しかし奴の顔といつも一緒にいるはずのエッタがいない事から俺は、奴の事情を察する事ができた。


「……アンタが、おっさんの言うジャンゴって奴か」


 どうやら、この前の事は忘れているらしい。良かった……。あの時の記憶を持ったままだったら色々と面倒だったし……と、安心していると奴は、言った。


「……頼む! 助けてほしい! エッタを……俺の大切な人を奴から……ガルレリウスから取り戻してほしい!」


 俺は、驚いた。エンジェルが俺に頭を下げている。本気で俺に頼んでいるのだ。


 驚いていたのは、俺だけではなくルリィも、サレサも、ルアもシーフェもだった。


 俺達が口を半開きにして驚いていると、側にいたおやっさんも言ってきた。


「……俺の方からも頼みたい。ジャンゴ……銃を治してやった借りを返すって意味でもな……」


 おやっさんまで頭を下げてきた──!


「いや、ちょっと待ってくれ! 俺達もこれからそのガルレリウスを倒しに向かう所で──」


「なんだと!?」


                    *


 ──しばらく、俺とエンジェルは、お互いにガルレリウスの事について色々話した。


 俺達が、互いにガルレリウスによって大切な人を奪われてしまった事なんかを話した。


 エンジェルは、言った。


「……そうか。じゃあ、アンタはずっと1人で王国と戦っていたのか」


「あぁ……」


 お前とも戦ったけどな! とは、流石に言わないでおこう。すると、エンジェルは言った。


「……すまない。目的は、同じと言えど……協力してくれて……」


「あぁ……」


 ……すると、少し間をあけてからエンジェルは、言った。


「……なぁ、ジャンゴ?」


「どうした?」


「俺達の持つ勇者の力って……何なんだろうな? 俺は、後一回力を使えば記憶が消し飛ぶだけだと思っていた。なのに……ガルレリウスは、俺に言った。俺の力は、使えば使う程……記憶だけじゃなくて、魔力まで吸ってしまう。つまり、後一回戦えば……俺は、この先2度と戦う力を失くしてしまう。そうなれば……俺は、本当にエッタの傍にいてやる資格なんてなくなるんだろうな……。アンタにもあるのか? 力の代償が……」


「さぁな。俺には、魔力がないから。ろくにこの力を使った覚えがねぇや。ただ……もしも、代償があるんだとしても……俺の大切な奴らが、俺を必要としてくれている限り俺は、戦い続ける。それだけだ……。俺は、アイツらとのこれからのために……戦うって決めたんだ」


「これから……」


 エンジェルは、少し考えながらボーっとしていた。それから彼は、告げた。


「……ありがとう。少しだけど……覚悟は、できた」


「エンジェル……」


 コイツ……もしかして……。コイツの覚悟と言うのが、何なのかを察してしまったが、俺は改めて告げた。


「……あぁ、良いって事よ。まぁ、それに……お前の事は、嫌いじゃないからな。お互い、勇者の力を授かっちまった者同士……助け合おうや」


 すると、エンジェルの頬が、今一瞬だけ少し赤くなった。彼は、照れくさそうになって言った。


「……なっ!? おっ、おう!」


 こうして、俺達は共にガルレリウスのいる所へ向かう事にした。俺は、おやっさんから治してもらったマシンガンなどの武器を受け取り、棺桶の中にしまってからルリィの背中に乗って、旅発った。


「気を付けて行けよ!」


 おやっさんが、手を振っているのを横目に俺達は、旅発つ。



 ――いよいよだ。……待ってろよ。マリア!




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