表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/119

ラストワン編③

 魔王城内の治療室、そこに俺達は、集まっていた。俺達の元に姿を現したのは、銀髪の少女。俺は、サレサと女将さんを治療室に残したままその銀髪の少女とルリィ、ルアの3人を連れて自分達の暮らしていた宿へ戻ってきていた。部屋の中で俺達4人は向かい合いながら静かに座っていた……。


 お茶を飲み終えた俺が、銀髪の少女の方を向いて喋り出す。


「……まさか、お前とまた再会する事になるとはな……シーフェ」


 対するシーフェは、ホットミルクの入ったカップを眺めながら俺に向かって告げた。


「……それは、こっちのセリフよ。ジャンゴ……貴方、あの後何処で何をしていたの? アタシ、ずっと……シャイモンの屋敷の前で待っていたのよ? それなのに……何も行ってくれないままあの町を離れて……。貴方のおかげで……あの町は、平和を取り戻したわ。皆、シャイモンを倒してくれた勇者を祝福したいと言っていたのに……主役の貴方がいないんだから……町の人達も少し可哀そうだったわよ」


「……すまなかった」


 すると、シーフェが少し驚いた顔でこちらをジーっと見てきた。俺は、どうしたのだろうかと思って、シーフェの顔を確かめるように見返してみると、彼女は驚いた様子のまま言った。


「……アンタが、素直に謝るだなんて少し以外ね。まぁ、もう過ぎた事だし……あの時の事は、もう良いわ。それよりも……ジャンゴ? どうして、貴方は魔族の里にいるの? そして……貴方の周りには、どうしてこんなに魔族が多いの?」


 シーフェの目が一瞬だけルリィの方を向いたのを俺は、見逃さなかった。シーフェのルリィを見る目は、何処か下に見るような……軽蔑した感じの眼差しとなっており、シーフェが魔族を差別している事が、それだけで俺には、理解できた。


 そして、それはルリィ本人も理解する事ができた。ルリィは、シーフェの事を睨みつけた。2人の女が睨みつけているこの状況、その2人のほとんど真ん中にいる俺は、少し気まずい思いを感じた。俺は、少し嫌な空気感のこの場で告げた。


「……まぁ、とにかくだ。シーフェ、お前が……マリアの居所を知っているというのは、本当なのか?」


「えぇ。アタシが、嘘ついた事あった? 情報屋のアタシが知らない事なんてないんだから! マリアさんの居場所……しっかり特定済みよ」


「……教えてくれないか? 俺達は、今すぐに助けに行かなければならないんだ!」


「断る」


 シーフェは、ホットミルクを飲みながらきっぱりそう告げる。そんな彼女の言葉に俺とルリィ、ルアの3人は、思わず体がガタッと動いてしまった。俺は、彼女に告げた。


「……なんでだ!? お前、俺達に教えるって……あの時言ってたはずじゃ……」


「気が変わったわ。ジャンゴ……貴方にマリアさんの居場所を教えるのには、1つだけ条件があるわ」


「なんだ? その条件というのは……」


 すると、シーフェはホットミルクを飲み干し、カップを勢いよく地面に叩きつけると告げた。


「……そこにいる魔族と縁切りなさい」


「は……?」


 何を言っているんだ? コイツ……。俺が、彼女に何か言ってやろうと思ったその矢先、とうとう我慢できなくなったルリィが、口を開いた。


「……貴方、さっきから何なんですの!? 突然、現れて先輩の居所を教えるとか言って、かと思ったら教えない。挙句の果てにはアタシ達と縁を切れ? 何様ですの?」


「それは、こっちのセリフよ。アタシは、アンタらがジャンゴと知りあう前からコイツの事を知っている。アンタ達……ジャンゴに何したのか知らないけど……どうせ、魔族の事よ。ジャンゴの事を……そのデカい胸で誘惑でもして弱みでも握ったんでしょう?」


 これだから、魔族は……。と言葉の最後に小さい声でぶつぶつそう言いながらシーフェは、魔法陣を展開し、その中からミルクの入った紙パックを取り出し、それをコップに注いで飲み始めた。


 そんなシーフェに対してルリィの方は……顔を赤らめさせながらも怒った様子でシーフェに言い返すのだった。


「……そんな事いたしませんわ! 確かに……その……殿方様とは、一夜を共にした事は、ありますけれど……。でも、誘惑だなんて」


 すると、今度はミルクを飲んでいたシーフェが、口から白い液体を勢いよく噴出させながら声を荒げて告げた。


「はぁ? ジャッ、ジャンゴ!? アンタ、この女と……そっ、その……えっ、ええっ……エッt」


 と、彼女が子音まで発音し終わる直前に俺は、シーフェに言った。


「……待て! これには、深いわけがあるんだ。聞いてくれ。シーフェ……。俺は、服を脱がされて……それで、上に乗られて……」


 だが、当然シーフェは、俺の話なんて聞いちゃくれなかった……。


「アンタの言い訳なんて聞く気にもならないわよ! そもそも……人間と魔族が、その……そっ、そういう関係になるだなんて前代未聞よ! これまでにそんな人は、1人もいなかったし……だいたい、そもそもジャンゴ! 貴方は、勇者としてこの世界に転生してきた存在でしょう? それなのに……どうして……。自由が過ぎるわよ!?」


 シーフェは、荒れていた。彼女の言い方には、何処かルリィに対する差別とか棘のある感じ以外にも……何処か別の感情と言うか……ルリィに対して焦りのようなものを感じている気もした。


 すると、ルリィが少し意地悪そうな顔になってシーフェに対して告げた。


「……あら? そんなに色々言っておりますけれど、そういう貴方は、どうなんですの? 貴方、アタシ達よりも付き合いが長いって仰ってましたけれど……具体的に殿方様とどのような関係に……?」


 その時、シーフェの目がカッと開かれて、ギクッと何かを迫られている様子である事が分かった。彼女は、あたふたしながら目をあちこちに泳がせて告げた。


「……そっ、そりゃあ……アタシだって……ジャンゴとは……その……そこそこ近しい関係に……だっ、だって一緒に馬乗りになって……」


「うっ、馬乗り!? なんですって! 殿方様、これは一体どういう事なんですの!?」


 シーフェの発言にルリィは、驚きのあまり嫉妬の混じった瞳で俺を見つめながら告げてきた。そんな彼女に対して俺は、正直に事の本末を丁寧に説明しようと……。


「……それは、俺達がシャイモンの家に向かう途中でな、一緒に馬に乗って……」


 だが――。


「言い訳無用ですわ! そう言ってもアタシの目は、誤魔化せませんわよ! 殿方様!」


 えぇ……。今のは、マジで言い訳じゃなかったのだが……。女って面倒くさい……。


 と、思っていると今度は、横からルアが、面白そうに笑いながら口を開いた。


「まぁ、これについては主の言っている事が、本当なんだけどねぇ。ただ、馬に乗っただけ。いやぁ……あの時は、結構頑張ってたよね? お風呂上りに裸を見せつけたりしてたけど……結局、主には全然通用しなかったよね」


 そんなルアの発言にシーフェは、度肝を抜かれた様子で口を震えさせながら言った。


「……え、え? ど、どうして……その事を……」


 シーフェは、ニッコリ微笑んで告げた。


「……あれ? 情報屋の君でも僕の事は、知らないんだ! 僕は、精霊のルア! 主とは、この世界に来てからずっと一緒さ! 最も……こうして主と顔を合わせたのは、結構最近の事だけれどね」


「せ、精霊様!? えっ、えぇ!? そっ、その……申し訳ございません! 先程からの無礼な態度。……ちょっと、ジャンゴ! どうして今まで言ってくれなかったの!?」


 シーフェが、突然態度を一変させてルアに対して頭を下げたりし始めたのを見て俺は、目を丸くした。


「……いっ、いや別に気にしないかなって……」


「気にしないわけないでしょう! 精霊って……貴方、どんな存在か知っているの!? 神様みたいなもんなのよ! ほら! ジャンゴも頭下げなさい!」


 そう言いながらシーフェは、俺の頭を上から掴んで無理やり頭を下げさせようとしてくる。俺は、必死に抵抗したが、なかなかシーフェも辞めてくれない。


 いや、ていうか……おかしいな。マリアは、コイツみたいにならなかったのに……。普通にルアの事も「ルアさん」呼びだし……。てっきりこの世界では、精霊なんて別にそんなに珍しい存在でもないと思っていたんだが……。


 すると、そんな俺達の様子を見てルアは、口元を緩ませた状態で笑いながら告げた。


「……主に頭下げて貰えるだなんて……感激だなぁ」


 ルリィも俺の事を見つめながら「……あらあら。殿方様ったら……」と告げた。すると、そんな彼女の発言を耳にしたシーフェが俺に対して言ってきた。


「……だいたい、その殿方様って呼び方は何なのよ! 貴方も……それにさっき入院してたエルフの女もそうだけど……どうしてこんな変な奴らと仲良くなっちゃったのよ!」


「それは、旅の中で色々あったからな。けど、誤解してるぜ? コイツらは、別に悪い奴じゃない。一緒にここまで頑張ってきた仲間であり、俺の家族みたいなもんなんだ」


「家族? 魔族なんかと? あのね、ジャンゴ……この世界における魔族は、人間にとって最悪を招く存在なのよ! 貴方は知らないでしょうけど……魔族なんてろくな奴がいないわ! 今すぐそんなのと離れた方が良いに決まってる! そうしないと……貴方だっていつ襲われるか分からないわ! 魔族なんて……皆、野蛮で……遅れてて……情けも何もない存在なんだから!」


「何だと?」


 シーフェのこの言葉には、流石の俺も我慢ならなかった。俺は、こんな事を言う彼女に言った。


「……ルリィ達が、そんな風に見えるのか? お前には、コイツらがそういう風に見えるのか?」


「……なっ、何よ!? 突然……」


 シーフェは、少しびっくりした様子だったが、俺は構う事なく続けた。


「……確かにコイツらは、変な所もある。理解できないような部分もある。最初は、それでうまく行かなかったり……対立したりもした。だが、俺は決してコイツらの事を野蛮だとかそんな風に思った事はない。さっきも言った通り、コイツらは俺にとって家族みたいな存在なんだ。ずっと一緒に旅をしてきた。大切な仲間だ! その仲間の事をこれ以上悪く言う奴と……俺は、もうこれ以上関わるつもりはない。今すぐ、出て行ってくれ。お前の道案内なんて必要ねぇ。帰れ」


「あっ、アンタ……」


 シーフェは、びっくりしていた。彼女にとって、魔族を差別する事は当たり前だったのだろう。それは、俺だってこれまで旅をしていった中で痛感した。人と魔族。2つの種族の因縁。憎しみと憎しみの連鎖。止められない戦い。


 だから、シーフェの思想が間違っているなんて言えない。国が変われば価値観も変わってくるものだから。でも……俺だって間違っちゃいないはずだ。だから、引き下がらない。俺には、俺の考えがある。それを曲げさせようなんてさせない。もし、分かり合えないのなら……ここで戦うつもりもない。今すぐ、何処かへ消えてくれ。


 それが、俺の思いだった。しかし、当のシーフェもこれには驚いた様子でしばらく何も言わずに固まっていたが、少しするとため息交じりに重たそうな口を開いて俺に言った。


「……それじゃあ、アタシがわざわざこんな所まで臭いを我慢してやって来た意味がないじゃない」


「そんな事、知った事か。俺が出てけと言ったんだ。出てけ」


 シーフェは、納得のいってい無さそうな顔になって、大きく息を吐きだしてから告げた。


「……良いわ。そこまで言うなら……もう仕方ないわね。そこの魔族も連れて行けば良いわ! 教えてあげるわよ。……マリアさんが連れ去られたとされる場所まで!」




                     *


 ――同じ頃、魔族の里から少し離れた砂漠の土地の真ん中にて……。



 その日の夜は、とても静かだった。俺=エンジェル・アイは、エッタと2人で焚火をしていた。買い貯めてあった焼き芋を焼きながら俺達は、夕飯を一緒に食べていた。美味しそうに食べるエッタの目の前で、俺は……全然食事が進まなかった。いや、それどころか今の俺には、食欲さえも湧かなかった。


 あの時、目覚めた時……俺の思い出ノートのページは、とうとう最後の1ページのみとなってしまった。今まで、何度も力を使ってきたが、間違いない。俺は、後1度……あの力を使えば、戦いの後に記憶を完全に全て失くしてしまう。そうなれば……俺は、もう二度とエッタとの思い出も何もかも忘れたまま……。


 今までずっと、忘れたくないと願っていた事。できれば、こうなりたくないと思っていた事が……とうとうここに来てやってきてしまった。


「……」


 焼き芋を全然食べようとしない俺に、エッタは少し心配そうに俺の事を見つめながら言ってきた。


「どうしたの? アイくん? お芋、冷めちゃうよ?」


「……」


「……もしかして、記憶の事?」


「……」


 エッタには、気づかれていた。当然だ。これまでずっと一緒に旅してきたんだ。分からないわけない。だが、俺は何も言えなかった。彼女になんて言っていいのか分からなかったから。


「大丈夫だよ! 私、忘れないから。記憶を失くしても私は、アイくんと一緒にいるよ!」


「……」


「それに……まだ後、1回もあるんだから。戦わなければ良いんだよ! んね! これからは、一緒に逃げようよ! 私達を追う人のいないこの大陸を超えた先に行ってさ……。そこで、ひっそり暮らそ?」


 元気付けようとしているのだろう。だが──そんな事を言われても……。


 エッタの事を完全に忘れた俺が、お前に何を言い出すか……それが怖い。


 ただでさえ俺には、もうエッタとの記憶さえも少ししか残っていない。


 出会ったときの事から一緒に旅をするようになった所まで。後は、もう感情で動いている。こいつに対する感情。


 だが、きっと記憶が全て失われれば、俺は、俺で無くなる。そんな気がしてしまうのだ。


 すると、そんな中──。


「ふーん……記憶ね。面白い話が聞けたよ。エンジェル・アイ」


 荒野の暗闇の向こうから聞いた事のない男の声がしてくる。その男は、黄金の鎧を身に付けており……背丈は高く、凛々しい顔をしていた。


 俺は、咄嗟に身構えてエッタを守るように彼女の前に立つ。


「貴様、何者だ?」


 すると、突然現れたその男は、俺に告げた。


「……僕は、ガルレリウス。君達を捕まえに来た。クリストロフ王国の第四皇子さ」


 俺とその男は、互いに睨み合った。


 俺の思いが、心の中で叫ぶ。



 ──この男は、敵だと!



 ──To be Continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ