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ラストワン編②

 魔族の里に戻った俺達は、魔王アブシエードと再会。そこで、ルアとも合流して俺達は、魔王から今回の事件の犯人について聞かされる。


 ――クリストロフ王国第四皇子ガルレリウス。通称「武神」。今度の敵は、今までと比べ物にならないとアブシエードは、そう言った。


 だが……考えている暇はない。相手が誰であろうと俺は……!


「……すぐにここを出発する」


 俺は、アブシエードが淹れてくれたお茶を一気に飲み干してから立ち上がる。すると、アブシエードがそんな俺に言ってきた。


「……待て。人の話を聞いていないのか? 相手は――」


「分かっている。だが、だからと言って引き下がれるか? 大事な仲間が攫われたんだ。俺達にしか助けられないだろう?」


 俺がそう言うと、魔王は少ししてからクスリと面白そうに笑い、そして告げた。


「……ふっ、流石だな……。では、好きにするが良い」


 そう言うと、アブシエードは部屋を出て行ってしまい、それっきり戻って来る事はなかった。俺は、すぐにベッドで休んでいるルアの元へ駆けつけた。


「……大丈夫か? ルア。怪我は?」


 すると、彼女は布団を退かして起き上がると俺に言ってきた。


「……僕は、大丈夫。精霊だからね。魔力で実態を保っている僕を傷つけるなんて事が出来る人間の方が少ないんだよ。……それよりも、すまない。主……。僕は、マリアを守る事ができなかった。主に任された事なのに……でも、考えてみたらそうだ。僕、1人じゃ戦う力なんか持ってない。抵抗できなくて当然だ。主の役に立ちたいのに……こんなんじゃ……」


「……そんな事はない。落ち込むな。お前が蘇らせてくれるから俺は、今も生きていられるんだ。いつも感謝しているぜ」


「主……!」


「とにかく、まずはここを出るぞ……! ルリィとルアは、サレサの元へ行っててくれ。後からも俺も合流する」


「分かりましたわ」


「了解!」


 そうして、俺達は一旦、部屋の中で二手に分かれる事にした。……いや、厳密には分かれて行動というよりも……さっきから部屋の外から感じる強大な力……。間違いなく部屋の外で”奴”が、俺を待ち伏せているのが分かった。


 だからこそ、俺はルリィとルアが部屋から出て行った後にドアの向こうにいるソイツを呼ぶ事にした。


「……いるんだろう? 出てこいよ」


 すると、ドアの影から魔王アブシエードが姿を現した。その男は、不敵な笑みを浮かべてゆっくりとこちらへやって来た。


「……いやぁ、バレてしまっていたか。流石は、ジャンゴくんだ」


「お世辞は良い。……お前が、俺をここに呼んだのは、俺に何か用事があったからだろう?」


 すると、アブシエードはニッコリと不気味に思ってしまいそうなほどゾッとするような笑みを浮かべながら告げてきた。


「……ほう。話が早くて助かるよ。俺が、君に伝えたい事は……これからここを旅立ち、人界領へ向かうつもりなんだ。だから、出発の前に友人である君に挨拶をと思ってね」


「ふざけるな! お前と俺が、いつ友人になった? だいたい、人界領へ行くくらいで……これが、最後になるとでも思っているのか? 本当に言いたい事は、それじゃあないだろう?」


 すると、アブシエードは気でも狂ったかのようにゲラゲラと高笑いして俺に言ってきた。


「……はっはっはっ! 君は、何処までも鋭い男だ! 面白い! ……こうなったら、下手に隠さず素直に言った方が良いな? 実はな、お前達が泊っている宿が騎士達によって襲撃された事は、里中に広まっている。既に魔族の中では人間に対して凄まじい憎しみを抱いている者もいるくらいだ。魔王城内でも穏健派と過激派で分かれていてな。過激派の魔族は、今すぐにでも人間と戦争をするべきだと主張をしている。まぁ、そう言いたくなる気持ちも分かる。ここ最近、里が人間達に脅かされ過ぎているからな。耐えられないのだ。今は、穏健派がうまく抑え込んでいるから今すぐに戦争とはならないだろう。しかし、そんな事もあって俺は、王としてクリストロフと話し合わなければならない。なぁ? ジャンゴ……。人間は、酷い生き物だと思わないか? 何千年も昔にこの地へ後からやって来たくせに……俺達、先住民である魔族を虐殺し……挙句の果てには、土地を奪い……差別まで生み出した。私は、こんな人間が大嫌いだ。だが、それと同時に私は、人間を愛してもいるんだ。人間がいなければ今の魔法文明は、ここまで発達しなかっただろう。人間がいなければこの土地は、整備されず……いつまでも発展しないままそのうち滅んでいただろう。……だから、私は人間を憎み切れないし、愛しきれない。しかし、一国の主としては……戦う勇気も必要だ。私は、これから人界領のクリストロフ王国王城へ向かう。そして、もしかしたらそこで……いいや、間違いないな。俺とあの国王が今、話合えば人と魔族は、再び戦争となる。その時、我々魔族には、強力な味方が必要だ。君になって欲しいと私は、考えているんだ。ジャンゴ? 共に……人間を倒そう。そして……この土地に再び平和を取り戻さないか?」


 アブシエードの言葉は、力強い。とても芯の通った声だ。普通の者ならここで感動して、共感してしまうだろう。しかし……俺には、アブシエードが泣いているようにも見えた。


 人間を語るアブシエードが、とても虚しそうに……見えたのだ。


「……それが、アンタの本心か?」


「何……?」


「俺には、そのようには見えなかった。むしろ、人間に対して……本気で倒してやろうとかそういう風には、俺には見えない。アンタは……きっと本当に人間を愛しているし、憎んでもいるんだろう。だからこそ、そういう思いが葛藤して、王としての責務を全うしきれない自分が悔しくて……辛いんだろう? アンタは、本当は戦争なんかしたくない。それは、本当だろう。だが、人間を倒して戦争を終わらせるっていうのは、真っ赤な嘘だな」


「……何もかも君には、お見通しだな。出来る事なら誰も戦わせたくなんかない。それが理想論だ。だが……あの国王は、きっとそんな事を考えちゃいない。俺達は、どちらかが滅び尽くすまで……きっと殺し合わされる。だから……」


「弱気になってんじゃねぇ! アンタは、仮にも魔族の長だろう? 確かに人間は、魔族を差別しているかもしれない。だが、そのアンタがシャキッとしなくてどうする? アンタが胸を張って行ってくれないと……この国の民だって、心配になっちまうだろ?」


「ジャンゴ……」


 俺の言葉にアブシエードは、少しだけ自信を取り戻してくれたみたいだ。彼は、顔を上げて上を見つめて……そして、俺に言った。


「……ありがとう。勇者ジャンゴ。少しだけ自信が持てたような気がするよ」


「おう……」


「ところで、仲間になって欲しいって件なのだが……」


「それは、却下だ。俺は、人間が嫌いだが……それでも人間だ。愛する”人”だっているし、愛する魔族もいる。……できれば、どちらとも戦いたくない。この気持ちは、お前と同じつもりだ」


「そうか……。残念だ。……しかし、同時にホッとしたよ」


 アブシエードは、そう告げると突然部屋から出て行こうと歩き始める。俺は、一応奴が何処に行こうとしているのかを知りたかったために最後に奴に尋ねてみる事にした。


「……待ってくれ! お前、俺達が来る前……ルアと一体、どんな話をしていたんだ?」


「……なぜ、君がそんな事を知りたがる?」


 魔王は、そう言ったがすぐに俺に教えてくれた。


「……ただの昔話だよ。俺達魔族と精霊は、大昔から共存して生きてきた。お前達人間にとっては、精霊とは単に不思議な存在であったり、崇めるべき存在であるだけなのかもしれんが、俺達魔族にとって精霊は、崇めるべき存在でもあり、共に苦難な日々を乗り越えてきた仲間でもある。昔話をしたくなったんだ。人間は……俺達と出会ったばかりの頃と変わってしまったと……」


 魔王は、そう呟くとそのまま部屋を出て行った。奴は、これから旅立つのだろう。クリストロフ国王の元へ……だが、もう心配はいらないはずだ。きっと、魔王は尽力してくれる。アイツの目は、本当に人間も魔族も両方愛している者の目だった。これまで……様々な魔族や人間を見てきたが、奴らは必ずどちらかの種族を憎む目をしていた。


 でも……魔王やココ達は、違った。きっと、俺とルリィ達のように人と魔が共存できる世界は、作れる。そんな事をぼんやり思いながら俺は、ルリィ達が向かった場所へ急ぐ。


 ――広い魔王城の廊下をずっと真っ直ぐ走って行くとその先に治療室と書かれた大きな部屋が見えてくる。そこでは、魔族達が魔王の命によって預かった者を魔法で治療する専門の医療チームが存在する。部屋の奥には、寝ているサレサとその周りを囲うように立っているルリィやルア、更に看護師姿の女将さんの姿もあり、彼女はベッドで横になった状態で看護師姿の女将さんによって治癒の魔法をかけられていた。俺は、そんな女将さんの元へやって来て、彼女に尋ねた。


「……大丈夫そうか?」


 すると、女将さんは少し困った様子で告げるのだった。


「……どうでしょうかねぇ? 相当、傷ついておりますし……治るまでに少し時間はかかりそうです」


「そうか……」


 落ち込んでいると、その時だった。ふと、先程まで眠っていたはずのサレサの声が聞こえてきた。


「……ムー君」


 振り向くと、アイツが必死に目を開けて俺に声をかけていたのだ。俺は、そんな彼女の様子を見るや否や心が苦しくなって告げた。


「……バカ野郎! 起きなくて良い……。寝てろ」


 すると、サレサは申し訳なさそうに告げるのだった。


「……マリアさんを助けられなかった。……私、里帰りを終えて帰って来たら……既に騎士達が宿に突入して来ていて……マリアさんを攫おうとしていた。私は、すぐにソイツらと戦ったけど、数が多すぎて……私の陣形殺撃では、時間が持たず……負けてしまった」


 すると、その言葉に女将さんも付け足すように告げた。


「……本当に突然だったんです。いきなり、奴らが私達の宿を襲撃し始めて、あまりに突然の事で宿の者も何人か負傷してしまいました。幸い、死人は出ておりませんが……私達の方としてもマリアさんを守れず申し訳ありません」


「良いんだ。アンタのせいじゃない。むしろ、サレサの事を本当にありがとう……。感謝する」


 俺は、女将さんに頭を下げると彼女は、とても嬉しそうに告げた。


「……人間に感謝されるなんて、長い人生の中で初めてです。ジャンゴさん……これからお1人で向かうおつもりですか?」


「あぁ……」


 すると、その瞬間に今度は近くで立っていたルリィやルアが声を上げた。


「……殿方様!?」


「主!? どうして……」


 俺は、サレサの事を見つめながら告げた。


「……これは、俺の戦いだ。お前達には、関係ない……」


「そんな……。主! どうしたんだい! 主は、僕がいないと復活する事もできないじゃないか! それに……ルリィがいないと……この広い土地を1人で探すなんて不可能だ!」


「そうですわ! アタシ達、殿方様のお役に立ちたいですわ! だから、ついて行かせてください! 殿方様!」


「ダメだ! お前らは……サレサと留守番だ。今度の相手は、今までと違う。次に戦ったらお前達まで死んでしまうかもしれない! そうなったら……」


 だが、ルリィはそれでも俺に言ってきた。


「大丈夫ですわ! アタシ達、そんな簡単には死にませんわ! 殿方様の為ですもん! ずっと、この先も御供する覚悟ですわ! 例え、火の中水の中……」


「やめろ! ……そんなの良い。そんなの辞めてくれ……」


「……殿方、様?」


「ルリィ……俺は、お前に”好き”って言われた時、凄く嬉しかったんだ。俺にとって初めて……そんな事を言ってくれる人であったから。だから……俺は、自分を愛してくれた人をこれ以上、戦いに巻き込みたくない。……俺は、お前も……皆の事も大好きなんだ! だから、誰一人……もう絶対に危険な目には、会わせない! そのためには……!」


 と、その先を言おうとした次の瞬間、俺の頬にルリィのビンタが炸裂した。彼女の俺を見る目からは、少しばかり涙が零れ落ちているのが見えた。俺は、そんな彼女の顔を見て、それから……。


 ルリィは、言った。


「……なら、アタシだって同じ気持ちですわ。これ以上、殿方様に戦って欲しくないですわ! これ以上……危険な目にあって欲しくないですわ! だから……もう行かないで……欲しいですわ。先輩の事なんか諦めて欲しいですわ」


「ルリィ……」


 彼女の涙が、俺に訴えてくる。ルリィは、続けた。


「……でも、嫌なんです。アタシも……先輩を見捨てたくないし、殿方様もそう! アタシも……先輩もサレサも……ルアも……殿方様も皆、アタシは家族だと思っていましたわ! 家族なら……関係ないわけないですわ! 皆で助けに行って……皆で……戦えば……それが……家族だと思いますわ」


「……」


 ルリィは、強い眼差しでそう言う。すると、傍にいたルアやサレサも言ってきた。


「……僕もルリィに賛成! 僕は、言ったはずだよ? 主ある所に僕がいるって……絶対、離れないから」


「私も……ムー君の事が好き」



「サレサ……!?」


「だからね、ムー君……私も貴方の為に戦いたい。こんな怪我、すぐに直してみせる。だから……お願い。……皆で一緒に……マリアさんを助けにいこ?」


「ルア……サレサ……ルリィ……」


 3人の仲間達と見つめ合った後に俺は、告げた。


「……敵は、今までと違う。王国最強だ。こっから先の戦いは、今まで以上にハードになるかもしれないぞ。それこそ、本当に……死ぬかもしれない事が起こるかもしれない。それでも……良いのか?」


「はいですわ!」


「うん!」


「オッケーだよ!」


 3人は、そう言ってくれて……その顔は、少しだけ笑っていたが皆、目は真剣だった。覚悟の瞳。それを確認した俺は、女将さんに尋ねた。


「女将さん……」


 すると、彼女は溜め息交じりに告げた。


「仕方ないですねぇ……。良いでしょう。サレサさんの怪我については……私が、責任をもって今夜中には完治させます。……それで良いですね?」


「ありがとう……女将さん」


「構いませんよ。久しぶりに……ドクター魂に火がつきましたし……!」


 こうして、俺達はマリア救出の為に全員で立ち上がる事を決意するも……しかし、ここで1つ問題点がある事に気付いた。


「……そういえば、マリアを攫った奴が何者かは、分かったが……しかし、何処へ連れて行かれたんだ……」


 と、その時だった。俺達の後ろから1人の女の声が聞こえてきた。……その女の声は、少し幼さを感じる声で、何処か聞き覚えのある声でもあった。



「……それについては、このアタシに任せなさい!」


 振り返るとそこには――!



「……この西部1の情報屋シーフェ様に! この先の道案内は、任せなさい! お代は、いらないわ!」



 ――to be Continued.

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