表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/119

ラストワン編①

 ――サレサと合流し、魔族の里に戻った俺=佐村光矢とルリィは、すぐに自分達の泊っていた宿へ駆け込んだ。


 だが、俺達が住んでいた部屋の中には、既に誰もいなかった。部屋の中は、まるで動物に荒らされたかのようにグチャグチャになっており、不気味なくらいに静まり返っていた。


 部屋の中には、ルアもいなかった。何度か名前を呼んでみるが、アイツの返事は返ってこなかったし、姿も現さなかった。


 ――まさか、ルアまで――!?


 マリアと同様に攫われてしまったのか? 俺が、そう思った次の瞬間に部屋の中に入って来たのは、ルリィでもサレサでもなかった。俺達の泊っている宿の女将さん。鬼のような角が特徴的な肌が赤く和服(?)が良く似合う女将さんが、俺の元へやって来た。


「……!」


 最初は、気配を感じて敵の残党かと疑ったが、俺は女将さんの姿を見るや否や警戒を解いた。彼女は、俺に言ってきた。


「……魔王様が、お呼びです。ついて来てください」


 こうして、俺とルリィ。そして、傷だらけの全身ボロボロなサレサの3人は、女将さんが手配してくれた馬車に乗って、魔王城へ……向かって行った。


 ――城に着くと早速、家来の魔族達が俺達を案内し始める。


 しかし、サレサとは、馬車を降りた時に別れてしまった。女将さんが、ボロボロのサレサの体をおんぶしながら俺達に告げてきた。


「……この子は、私が治療室へ運びます」


「だ、だが……」


 俺は、言葉にはできなかったが、少しだけ心配になり女将さんに何か告げようとしたが、女将さんは俺達に微笑みかけてくれて言ってくれた。


「……ご安心を。私、これでも医者なのです。困っている者とあれば相手が誰であろうと治してやりたくなるのが、医者という者です。どうか……私達に任せて貰えませんか?」


 女将さんが、頭を下げてまでそんな事を言うものだから流石の俺も何も言い返せなかった。ただ、一言だけ「よろしくお願いします」と返した。


 そして、俺とルリィはすぐに側近の2人の魔族に案内されて城の中へ入って行った。一体、何処へ向かっているのか? それは、俺にもよく分からない。ただ、ついて来いと言われるがままに廊下を歩いて行き……そして到着した部屋の中に俺達は、入って行くとそこには――。


「……あ、主!」


 大きなベッドの上で眠っていたルアの姿があった。彼女のすぐ傍には、大きな赤いマントを身に纏った大きな体の魔族の男が1人……。その姿は、前にも見た事があった。


 と、俺がソイツの事を呼ぼうとした次の瞬間に、俺達をここまで案内した側近の魔族2人が、告げた。


「失礼いたします! 魔王様! ジャンゴとその一行をお連れいたしました!」


 すると、赤いマントをつけたその男は、こちらを振り返り、告げた。


「……うむ。ご苦労。お前達は、下がって良い」


 魔王=アブシエード。俺達が、魔族の里を訪れたばかりの頃に一度だけ会った事があるその男は、威厳のある堂々とした態度で俺達の前に姿を現した。久しぶりの再会に少し嬉しそうでもあったが……。


 だが、そんな中で下がれと命じられた部下達は、少し不服そうに魔王に告げるのだった。


「……しかし、魔王! お言葉ですが……その者達は……人間でございます! 先程の騒動と言い……この者達のせいで、我らの里は……」


「危険すぎます! 魔王様! 部下もなしにこの者達と話しをしようだなんて!」


 ――だが、アブシエードは、部下達に怒鳴りつけた。


「……俺が、下がれと言ったら下がれ! 俺は、この者達と真剣に話がしたいのだ!」


「しかし……!」


「黙らぬか! この俺を誰と思っておる? お前の主は……この魔王アブシエードであるぞ? 恥を知れ!」



「「しっ、失礼いたしました!」」


 部下達は、一目散に部屋から出て行った。魔王を恐れた様子でドアをバタンと閉めて、いなくなってしまった。


 部屋の中に残された俺達は、最初のうちは少し気まずかったが、すぐに魔王が部屋のソファに腰かけて俺達に言ってくれた。


「……すまないな。聞き分けの悪い部下達で……。あれでも、仕事はしっかりしてくれるのだ。悪く思わないで欲しい」


「あぁ……」


 魔王は、そう言った後にテーブルの上に置いてあったティーカップに手を伸ばし、お茶を一口飲み始める。そして、その後に俺達がまだ立ち尽くしているのを見て不思議そうに目を丸くしてから告げてきた。


「……どうした? 座らぬか? お前達の分のお茶も用意してあるぞ」


 言われるがままに俺とルリィは、魔王の目の前に並べられているソファに腰かけた。すると、自分からティーポットを持ち上げて俺達のカップにお茶を注ぎ始める魔王。


「……やっ、辞めてくださいまし! これ位の事、魔王様にやらせるわけには……」


 流石に少し思う所があったのか、ルリィはそう言うが……魔王は、いつもの「わっはっはっはっ!」と大きな声で笑い始めて告げるのだった。


「……今日くらいは、許せ! 俺だって何でもかんでも人にやらせてばかりは、納得がいかんのだ! さぁ、一緒に茶を飲むぞ。カップを出せ! ルリィ」


 魔王の圧に……ルリィも、納得はしていなさそうだったが渋々、差し出した。魔王は、豪快にお茶を注ぎ込む。その後に魔王は俺の分のカップにもお茶を注いでくれて、俺達は魔王の淹れてくれたお茶を飲む事にした。


 そして、全員がとりあえず一息ついたタイミングで俺は、尋ねた。


「……それで、どうして貴方が……ルアと一緒にいるんだ?」


 俺のその問いかけ方にルリィが、横から注意して来ていたが、そんな事は無視して俺は、魔王を睨みつけた。すると、アブシエードは笑い声をあげながら答えた。


「……そう、怒るでない。別に俺が、お前達の仲間を誘拐したわけではないのだ。むしろ、俺が誘拐市に行った方が……逆に良かったのかもしれぬな!」


「アンタ……ふざけてると……いくら魔王でも許さねぇぞ?」


 俺は、少しだけ殺気を放った。そして、ガンベルトに装着されている2丁の拳銃を今にも引き抜こうとしていた。


 ルリィは、隣で俺に「やめて!」とか言っていたが、しかし……俺にとっては、言って良い冗談と悪い冗談があるのだ。許しておけなかった。


 すると――。


「……はっはっはっ! 俺を前にしても臆する事なく、歯向かおうとしてくるとは……流石は、ジャンゴ。勇者なだけは、あるな……」


 魔王が、俺を試すような顔で見つめてくる。……何が狙いだ? 一体、どうしていきなり俺に喧嘩を売るような事を言った? 色々な事を頭の中で考えたが、魔王の思考は読めなかった。


 すると、今度は鋭い目つきで魔王が俺を睨みながら言ってきた。


「……だが、今回ばかりは君のその勇気も……的外れと言わざるを得ないな。俺は、むしろ君達が感謝すべき相手であるはずだ? 現に、君達の仲間の1人は今、俺の城で治療を受けている。その恩を忘れるなよ? ジャンゴ……」


「……」


 俺は、黙ってガンベルトから手を離し、お茶を一口飲む事にした。そして、黙って魔王の話を聞く事にした。


 魔王は、また一呼吸置いた所で話を始めた。


「……さて、それでは話を始めようか。しかし、まずは君達のこれまでの事についても知りたい。話してくれないか?」


 魔王にそう尋ねられると、ルリィが言った。


「……それについては、アタシの方から説明いたしますわ。魔王様……アタシ達は、殿方様の知り合いの……家族同然の仲の者と会う約束をしておりました。それで、宿の方々にも行く事を許可してもらいました」


「それは、俺も知っている。サレサの里帰りについてもな。それで?」


「はい……。アタシ達は、すぐに里を出て、殿方様の知り合いの元へ急ぎました。しかし、道中で……勇者スターバムと名乗る男に遭遇し、戦闘になりました。途中で3人目の勇者、エンジェル・アイとも戦う事になってしまいましたが、何とか状況を打破し、知りあいの方にも出会う事ができ、里へ帰ろうとしていたその時に……サレサと出会い、そこで……マリア先輩が、何者かに攫われてしまった事を知りましたわ」


「なるほど。それで、今に至ると……」


「はい……」


 魔王は、顎に手を置いて納得した様子だった。……まぁ、ルリィの言った通りの内容を女将さんにも報告はしているし、俺達は嘘はついていない。疑われるような事は、何もしていないのだ。


 すると、魔王は告げた。


「……ご苦労。ありがとうルリィ。よく分かったよ。……つまり、君達は仲間が誰に攫われてしまったのかも知らずにここまで来たと……」


「はい……」


 ルリィは、そう返事を返す。俺は、黙ってお茶を飲みながら2人の話を聞いているだけであった。すると、魔王は言った。


「……ならば、教えよう。単刀直入に言う。お前達の仲間を攫った犯人は……クリストロフ王国だ」


 その言葉に俺もルリィも半分分かっていたような顔を浮かべた。……実際、思い浮かぶ犯人と言えば、ソイツらくらいなものだしな……。


 すると、そんな俺達に魔王は、更に付け加えた。


「……しかも、単にクリストロフの騎士達が攫ったのではない。相手は、君達がこれまで戦ってきた者達とは、比べ物にならない程強い……クリストロフ王国西部エリアを管轄しているクリストロフ王国の……第四皇子ガルレリウス」


「……ガルレリウス?」


 俺が聞き返すと……魔王は、急に渋そうな顔をして俺達に告げてきた。


「……そうだ。奴は、現国王の息子で……クリストロフ王国の西部エリアを管轄している。クリストロフ王国は、東西南北にそれぞれ1人ずつ国王の息子娘達が、派遣されており……その者達によって支配されてきた。そのうちの1人が……西部を管轄する第四皇子のガルレリウス。……別名「武神」だ」


「「武神!?」」


 俺とルリィは、声を合わせて驚いてしまった。すると、魔王は俺達に告げてきた。


「そうだ。今度の相手は、今までとは段違いだ。クリストロフの東西南北を司る4人の王族……奴らは、クリストロフの”四柱(しちゅう)”とも呼ばれる程、恐れられている。そのうちの1人、ガルレリウスは……「武神」の二つ名を持つ男だ。単純な戦闘力や魔力なら君達を遥かに凌駕するだろう。武力だけなら奴は、クリストロフ王国でも最強の実力者であると言われている程だ」


「……最強の……実力者!?」



 ――To be Continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ