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後日譚

 ──ジャンゴさんが、アイくんを助けてくれて、私=エッタとアイくんはルリィさんの背中に乗って遠くの場所へ避難していた。ルリィさんは、ジャンゴさんを助けに行くためにとすぐに向かったが、私はアイくんの側にいた。


 彼は目を覚ますまで……ずっと一緒にいる。たとえ、何かが襲ってきても。


 その覚悟だった。そして、数時間の時が過ぎた頃にアイくんは目を覚ました。


 傷はひとつもない。ジャンゴさんが傷つけないようにしてくれたおかげだ。


 アイくんは目を覚ますや否や起き上がって、私の事をじーっと見つめた。そして……。


「……ここは?」


 と、そう呟くと私の事を不思議そうに見つめる。


 この時──私の心は、大きくざわついた。もしかしたら……アイくんの記憶の中から私の事が……そう思ってしまったらかなり不安になって……次第に心臓のバクバクなり始めていた。


 どうしよう……もしも、アイくんが本当に私を忘れていたりしたら……不安は加速し、覚悟が揺らぐ。


 怖い……それだけは、怖い。


 だが──。


「エッタ……?」


 彼の口から私の名前が出てきた時、私は安心で心がいっぱいになり、涙が出そうにもなった。肩の力がどっと抜けていくのが分かった。



「……よかったぁ〜」


 私は、気持ちが抑えきれなくなり、アイくんに抱きつく。そして、じっくりと彼のぬくもりを感じる。


 彼は、いきなりの事で困惑していたけれど、それでも私は、今日もしっかり帰ってきてくれたアイくんを抱きしめた。


「……エッタ? どうしたんだ?」


「何でもない! でも、良かった……」


「……?」


 相変わらず鈍感だ。これだけ君が大切なのに想いが伝わってないだなんて記憶が消えるデメリットがあるとはいえ、最低だ。


 でも、それでもいつも帰ってきてくれるから……私は、彼の事が……。



 ──と、その時だった。


「……うっ!」


 突如、アイくんが苦しそうに自分の頭を抑え始める。どうしたのか? 何があったのか? 分からないが、彼はとても苦しそうに頭を抑えて、とうとう悶絶し始めた。


「アイ……くん?」


「ぐうううぅぅぅ……うううぅぅぅ」


「アイくん! 大丈夫? しっかり!」


 しかし、どう声をかけても彼は、苦しそうだ。どうしたのだろうか? 今まではこんな事なかったのに……。



「アイくん! アイくん!」


 すると、その時だった。彼が顔を上げて空に向かって悲鳴を上げた瞬間だった。その瞬間に彼のポケットの中に入っていた思い出ノートのページが、風でパラパラ捲られていき、そこに書かれていたページが消えていってしまう。



 ──そして、思い出ノートのページは、それを機に最後の1ページを残して全て無くなってしまうのだった。


「ぐああああああああああああああ!」


 アイくんは、叫び声をあげて苦しんだ後、まるでさっきまでの事がなかったように今度は、地面に倒れていってしまった。


「アイくん!」


 私はすぐに彼を抱き抱えた。すると、彼は辛そうに言った。



「……後、一回だ。最後のページだけが残った。後一回、勇者の力を使ってしまえば……俺は、完全に記憶を失くす」


「……え!?」


 急いでノートを確認してみると、そこには確かに1ページしか残っておらず、そのページも私とアイくんが初めて出会った時の事が書かれたページのみとなっていた。


 彼は、告げた。


「……とうとう、この時が来てしまった……か」



                      *


 戦いを終えたアタシ=ルリィと殿方様は、帰りにヘクターおじ様の元を訪れていた。スターバムとの戦いの中で壊れてしまったマシンガンをヘクターおじ様に直してもらうためだ。


 殿方様とおじ様は、久しぶりの再会に感極まって抱き合った後に棺桶の中から壊れたマシンガンを見せると、おじ様は少しだけ感慨深い顔をし、対する殿方様は、とても申し訳なさそうにしていた。


「……すまない。おやっさん。……壊しちゃった……」


「……ったく、こんな簡単に壊されちまうなんて……手のかかるガキだぜ」


「すまない……」


「良いって事よ。しっかり修理しといてやるから……また完成した時にここに来な。そん時は、そこの伝書フクロウ使ってまた手紙を送る。このフクロウは、テメェの臭いを覚えているからな。何処にいようがすぐに見つけられる」


「ありがとう。おやっさん……」


「あぁ……。こっちこそ、生きててくれてありがとう」


 まるで、おもちゃを壊してしまった子供とそれを叱る親のような構図だった。微笑ましい姿を見た後にアタシ達はすぐにヘクターおじ様の元を離れる事にした。



「急いでくれルリィ……。マリアを待たせているからな」


「分かってますわ」


 先輩を心配する気持ちは、殿方さもアタシも同じ。すぐにヘクターおじ様と別れた私達は、魔族の里に戻る事にした。



 帰っている途中で、殿方様は私の背中に乗った状態で自分のガンベルトにしまってある新しい2丁拳銃を嬉しそうに見つめていた。


「……これが、俺の新しい……」


 ヘクターさんのくれた新しい武器というのが、殿方様にとっては嬉しい事なのだろう。アタシ達は、そのまま空を飛び、魔族の里へ向かっているとその時だった。



 殿方様が、何かを見つけた様子でアタシに言ってきた。


「ルリィ……ちょっと下に下りてくれないか?」


「どうかいたしました? 殿方様……」


「いや……もしかしたらな……と思って……」


 殿方様は、何処か神妙そうな顔で地面を睨みつけている。そこに何があるのか? どうしたのか? アタシには、まだ分からなかったが……とにかく彼の言う通りに下へ下りてみる事にした。


 すると……。


「……あれは!?」


 魔族の里から少し離れた荒野のど真ん中を歩く1人のエルフの姿があった。その少女は、魔法剣を杖のようにして歩いており、ヘトヘトになりながらも必死に荒野を歩いていた。


 アタシには、そのエルフの少女の姿に見覚えがあった。


「……サレサ!?」


 気づいたアタシは、すぐに彼女の元へ下りていく。すると、上空にいたアタシと目が合ったサレサが、アタシ達と目を合わせるや否やホッとした顔で倒れそうになる。


「……サレサ!」


 殿方様が、アタシの背中から降りて地面に着地し、倒れそうになっている彼女の体を抱きかかえる。後からアタシも彼女の元へ駆けつけてみると、サレサは殿方様に抱きかかえられたまま辛そうに過呼吸になっていた。


「……どうしたんだ? サレサ……。そんなにボロボロで……一体、何があった?」


 殿方様が、そう問い詰めるとサレサは、語った。


「……マリアさんが……」


「どうした!? マリアが……。マリアに何かあったのか!?」


「マリアさんが……騎士達に……連れ去られ……た……」


 それだけ言い残してサレサは、眠ってしまった。彼女の全身は、怪我をしていてボロボロだったが、死んではいなかった。まだ、顔から彼女の精気を感じるし、魔力もまだ僅かにだが残っている。


 しかし、問題は……そうではない。



「……マリア」


 先輩が、連れ去られたという情報を聞いた殿方様は、今までにない位に動揺していた。彼は、サレサの事を抱きかかえたまま大きな雄叫びを上げるのだった――。





「うわあああああああああああああああああああああああ!」





  ――To be Continued.(第8章へ続く)

 皆さんこんにちは。作者の上野蒼良です! 寒い季節が訪れてきましたね。僕も普段使っている作業部屋が寒すぎて足先が凍ってしまいそうです。


 さて『殺意が静かに牙を剥く』第7章、ここまで読んでくれた読者の皆様、いつも応援ありがとうございます! 


 このお話が、執筆し終わっている頃には、いよいよカクヨムコンもスタートしていて、私の卒業論文も過渡期を迎えている頃でしょう。色々と大変な思いをしている中でもこうしてまた1つの章を閉じる事ができて私としても嬉しい限りです。



 さて、今回の第7章は、いかがでしたでしょうか? なかなか重たい話を個人的には書いたつもりなのですが……。それと同時に物語も大きく進展する内容ですね。


 まず、何と言ってもジャンゴの新武器ですね。なんと、合体します! 2丁の拳銃が1つの大きな銃となるアイディアは、何と言ってもマカロニウエスタンの名作『夕日のガンマン』のモーティマー大佐が使用する銃からアイディアを頂戴しました。


 この武器、弾丸に魔力が込められている事からジャンゴが念じるだけで魔法を使う事ができるというものになっております。


 当初は、新武器を出すにあたってどういう武器が良いものか? と色々悩みました。「バズーカにしよう!」とか「レーザー光線銃にしよう!」とか色々考えたのですが、やはりそこは異世界転生ものといえど、西部劇の世界観でやっている今作ですので、2丁拳銃にいたしました。


 ただの2丁拳銃では、つまらないと思い、魔法が使える2丁拳銃にしたら面白そうだと思いました。ちなみに、この銃にはまだまだ隠している要素がございますので、それについても今後の活躍を是非とも見て欲しいものです!


 さて、続いては……アイくんの思い出ノートでしょうか。この物語の最後でついにノートも最後の一ページになってしまいましたね。


 最後の一ページになってしまったと言う事は、彼が次に勇者の力を使って戦ってしまえば完全に記憶を失ってしまいます。……どうなるのか? 彼は、このまま最後に残った記憶まで失くしてしまうのか? それとも、戦わずに平和に過ごす事ができるのか? 果たして……。


 今回の物語では、アイくんとエッタの深掘りも行う事ができましたね。2人の心情を書くパートも多くて、なかなか新鮮でした。この2人には、ぜひ幸せになってもらいたいものですねぇ。



 さて、それから今回のお話のMVPであるルリィちゃんです! いやぁ、頑張りましたねぇ。ジャンゴに銃を届けるという超重大な役割を果たしてくれました。


 また、今回はこの他にジャンゴと2人だけで話をするシーンなんかもあり、より一層2人の絆が深まるような描写が出来たのではないかと思っています。


 特にルリィに関しては、最初のヒロインであるマリア、そして新ヒロインであるサレサと、精霊のルアの間に挟まっていて、今まであまりフォーカスされていなかったかなと思う部分もあり、今回はルリィだからこそ話せるジャンゴとの会話というのを意識して書きました。いかがでしたでしょうか? うまく伝わったかな?



 さてさて、そして最後にスターバムくんですかね。ようやく、しっかり決着をつける事ができましたね。ジャンゴとスターバム。


 今回の物語の中では、少しずつ彼の事についても見えてくる内容になっています。なぜ、彼がジャンゴの心臓に固執するのか? 謎は、深まるばかりですが……。


 あっ……ちなみにこの作品を書いていて、一番楽しいキャラクターは、スターバムです。彼が登場する所は、書き終わった後に1人で音読を始めてしまうくらいに好きです。今回もやられるところとか何回も音読して、近所迷惑だと言われてしまいました(笑)



 そんなこんなで、あとがきはこれくらいにしておきましょう。最後にもう一度、ここまで応援して下さった皆さん、読者の方々……いつも支えて下さりありがとうございます! 皆さんのエールに日々励まされております! 今後もどうか、よろしくお願いします!



 次回は、第8章です! タイトルは……『ラストワン編』となります。……タイトルからしてなんだか、不穏な感じがしますが、次回からもどうかよろしくお願いします! それでは、皆さん。サラダバー!

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