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運命さえも撃ち抜く弾丸(ヴェラドリング)編②

 ──魔族の里近郊の人界領、赤い砂漠。その砂漠の真ん中で俺=エンジェル・アイとエッタは、歩いていた。


 これまでずっと魔族の里を拠点とし、誰にも見つからないように細々と過ごしてきた俺とエッタだったが、ここ最近、里に自分達以外の人間が数多く入って来た影響もあって、魔族の里を出る事にした。


 俺達は、長い荒野の道を歩いている途中で水筒を回し飲みしていた。すると、水を飲み終えたエッタが、何かを思い出したように俺に言ってきた。


「……そういえば、もう人界領だし、魔力の臭いを元の人間の魔力の臭いに変えた方が良いかもね」


 彼女のその発言を聞いた時に俺は、一瞬何を言っているのか分からなかったが、しかしすぐに思い出した。


 だいぶ前に、魔族の里を訪れた時、俺は周りにいる魔族達に自分達が人間であるという事がバレないように自分達の魔力の香りを人間の臭いから魔族の臭いに作り替え、更に魔族の里で暮らしていけるように身分証などを偽装して、作った。


 それもこれも……全て俺が持つ謎の魔力のおかげだった。俺の持つこの魔力は、頭に浮かんだあらゆるものを作り出す事ができる。身分証のような形あるもの、目に見えるものでも……「臭い」のような目に見えないものでも。何でも作る事ができる。


 ただし、唯一作れないのは、人間と魔族。これだけは、複製ができない。というより、まぁ……道徳的にもアウトだからだろう。


 俺は、エッタを守るため、そして逃亡生活の中で必要な時にこの力を使う。この……”勇者の力”を。



 俺には、記憶がない。誰が親で、それが何処にいて……自分は、何処の出身なのかとか……そう言った記憶が俺には1つもない。それもこれも全て、この魔力……いいや、勇者の力のせいだ。この力は、強力な代わりに使用すればするほど、俺自身の過去の記憶や思い出が消えていくというデメリットがついている。


 エッタが言うには、俺はこれまでこの力を9回使ってきたと言う。そして……後、4回で俺が書いた思い出ノートのページは、全て白紙となる。思い出ノートは、後からいくら沢山の思い出を書いてページ数を増やしてもそれらは全て消えてしまい、一定のページ枚数に絞られてしまう。そして、そのページ数は、徐々に少なくなっていき……今では、残り4ページ。


 つまり、後4回で俺の記憶は完全に消滅。これまで沢山の事を忘れてきたと思うが……それでも、この何十年という歳月の中で唯一、エッタとの思い出だけは、守って来たつもりだった。



 ――でも……それも後、4回で……完全に消えてしまう。そうなれば……俺はもうコイツと一緒にはいられない。コイツのために戦う事も……きっと、無くなってしまう。


「アイくん……?」


 と、色々な事を考えている時にエッタが心配そうにこちらを見てくるのが分かった。


「あぁ……すまん。今、俺達にかけた魔力を解除する」


 そう言うと、俺は前に自分がかけた臭いを変化させる魔法を解除し、元の人間の魔力の臭いに戻した。ちょっぴり懐かしいような臭いが返って来る中、エッタは何処か心配そうに俺の事を見つめて言う。


「……何かあった?」


「いや……何でもない」


「嘘……。その顔、絶対何かあったよね? もしかして、魔法の事? 後、4回っていうのに悩んでいたの?」


「お前は、気にしなくて大丈夫だ。これは、俺の問題なんだ。大丈夫だ……!」


 俺は今、自分にできる限り一番の笑顔をエッタに送った。だが、そうしても彼女は、俺を心配そうに見つめるだけで、俺の悩みを聞いてあげようとして諦めなかった。



 ――しかし、彼女が何かを言おうとした次の瞬間に……俺は、遠くから魔力の気配を感じ取った。



 この感じは……攻撃魔法? しかも……俺達に向かって発射されてきている!?


 そう探知した俺は、話の途中ではあったが、急いでエッタを守るべく、彼女の体をギュッと抱きしめてそのまま地面へ押し倒した。


「伏せろ!」


 刹那、俺達がいた場所に強烈な炎の魔法が命中……! 間一髪のタイミングで俺とエッタは攻撃を避ける事ができたが、その攻撃の強さ……そして、攻撃から伝わる人間の魔力の臭いから俺は、誰がこんな攻撃を仕掛けてきたのかを予想した。


 すると、向こうからこちらへ歩いてやって来る者が1人、俺達の前に姿を現した。その男は、巨大な魔法剣を持った若い男で、顔は整っており、所謂イケメンであった。


 男は、俺を本気で殺すつもりの殺意の籠った目で睨みつけながら告げた。


「……やっと見つけたぞ。エンジェル・アイ……」


「お前は……」


 奴の顔には、見覚えがなかった。いや、相手の反応からしておそらく、前に会っているのだろうが……俺は覚えていない。だが、奴が着ている鎧が、クリストロフ王国のモノであるという所から敵である事は間違いなかった。


 男は、呆れた顔で笑いながら告げてきた。


「……ふっ、覚えていないか? まぁ、良い。こうして、2人きりで会うのは初めての事だし、無理もない。……私は、勇者スターバム。貴様が前に殺した……騎士モールスの所属していた騎士団の団長だ」


 ――騎士モールス……? その名前にも覚えがない。しかし、騎士というからには一度戦っているのだろう。そして、その……いつぞやに相手をした騎士モールスの上官に当たるのが、この勇者スターバムという事か……。


「お前……勇者なのか?」


 俺は、スターバムにそう問いかけた。すると彼は、また呆れた顔で苦笑いをしながら告げた。


「……だから、そうだと言っているだろう? 私は、勇者スターバム……万能の肉体を持つ剣の勇者だ。お前も……そうだろう? 想像の知恵を持つ槍の勇者……エンジェル・アイ! まさか、既に3人目の勇者が存在していたなんて……気づきもしなかった。私より後からやって来たという話しは聞かないし……過去の史料も閲覧したが、君の記載はなかった。……だが、そんな事はどうでも良い。君は、この世界にいる限り、私にとって邪魔な存在なのだ。消えて貰うぞ……!」


 そう言うと、スターバムは魔法剣の先を俺に向けてきた。彼は、今にも斬りにかかる勢いで魔法剣を構えて、そしてゆっくりと近づいて来る。男のその目は、完全に俺を殺しにかかりに来てる目。


 正しく、殺意が静かに牙を剥いているようだった。


 ――勇者スターバムの狙いは、俺。部下を殺された事への復讐と言った所か。


「エッタ、下がっていろ……」


 俺は、彼女にそう告げて、ゆっくりとエッタの前に立った。そして、スターバムへゆっくりと向かって行き……俺も奴を睨みつける。


「……こんな所で、力を使わなきゃならないとは……迷惑極まりないな」


 俺は、魔法陣を出現させて金色の槍を出現させて、それを構えた。そして、俺と奴が互いに武器を持って睨み合ったその刹那、俺達は互いに斬りかかった――!


 激しく火花が散り、俺とスターバムの戦いが幕を開けるのだった……。


                      *


 クリストロフ王国王城、玉座の間。……クリストロフ王国国王であるクリストロフは、とある騎士から報告を受けていた。


「……以上が、私の報告となります」


 騎士は、そう告げると目元だけ少し上げて王の事を見つめた。すると、王は不敵な笑みを浮かべて告げるのだった。


「……うむ。ご苦労。……とても良い情報が聞けたなぁ。まさか……あの失敗作が、いいや。奴は、もう失敗作ではなくなったな。ジャンゴ……いいや、サム・ゴードン? 発音はしづらいが……奴もしっかり勇者の力を持っていたとはな。……じゃが、これでワシも少し希望が持てそうじゃよ。ジャンゴ、スターバム……そして、エンジェル・アイ。全てのピースは、魔族の里にあるとはのぉ」


 王は、大変満足そうにそう言いながら玉座で寛いでいた。すると、騎士は更に告げた。


「……はっ! その魔族の里には現在、我々……スターバム騎士団がおります。しかし……」


「どうした? まさか、スターバム殿の力だけではジャンゴとエンジェル・アイを捕える事は難しいか?」


「はっ! 団長は、良いのですが……我々の実力が足りないばかりに……」


「分かった。では……ガルレリウスにも連絡しておこう。ワシの方から……魔族の里と西部近郊で警戒態勢を敷けとな」


「あの……西部一帯を収めている”武神”の二つ名を冠する第四皇子のガルレリウス様に!?」


「なんだ? 不服か?」


「いいえ! 滅相もございません! ガルレリウス様の隊がいれば、我々は百人力です! 感謝いたしま す! 国王陛下!」


「構わんよ。騎士ユダよ……。お前には、期待しておるぞ」


「はっ!」


 ユダは、そう返事を返すと玉座から立ち去った。玉座の間が閉じる直前、彼は口元を少しだけ緩ませて、微笑んだ。


 だが、彼がここへ来ている事は、誰も知らない。今、これから起ころうとしている事の裏で……王国が動きを見せ始めている事に……この時は、まだ誰も知らないのだった……。

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