第三の勇者編⑦
――金色の槍が、魔法陣の中から出現する。そのあまりにも巨大な槍をエンジェルは、魔法陣から引っ張り出すようにして構えると、彼は目の前に立っていた騎士達を睨みつけた。
「行くぞ……!」
主=佐村光矢が、そう告げると2人は同時に走り出した。目の前には、15人の騎士達。彼らも主達を睨みつけていた。真ん中に立っていた騎士モールスが、告げた。
「……数じゃ私達が、上回っている! 奴らの首を取って……スターバム騎士団長を喜ばせるのだ! 行くぞ!」
騎士達は「おぉ!」の掛け声と共に腰から剣を抜き、猛スピードで駆けて行く。
「……撃てぇ!」
更にモールスの合図と同時に騎士達は、15人同時に掌に魔法陣を出現させて、炎の魔法や雷の魔法などをエンジェルと主に撃ち込んで来た。魔法攻撃のあまりの力に主達は、咄嗟に攻撃をかわすべく両サイドに横転する。
「あ、主……!」
そんな2人の事を後ろから見ていた僕=ルアだったが、前で戦っていた主は、僕の存在に気付いた様子で告げてきた。
「……大丈夫だ。ルア!」
彼は、そう言うと再び騎士達を睨みつけて、2丁の拳銃を構える。そして、一瞬にして狙いを定めると引き金を引いて、次々と銃弾を高速で打ち込んでいった。
しかし、それに負けじと騎士達も次々と魔法を撃ちこむ。……主の銃弾は、3人の騎士達の心臓を撃ち抜き、彼らを戦闘不能にした。
「……ちっ!」
貴重な戦力を削がれてしまい、舌打ちをするモールスだったが、そんな彼の元に今度は槍を持ったまま突っ込んで来るエンジェルの姿があり――彼は、手に持った金色の槍でモールスを一刺ししようとする。
しかし、モールスも負けておらず、彼はエンジェルの攻撃をかわすと魔法剣を振って逆に攻撃をしかける。エンジェルは、槍の長さを生かした動きで敵の攻撃にいち早く反応して、攻撃を受け止めながら敵の隙を狙って槍で一突き――!
攻防一体の戦いが、繰り広げられる中で……その他の騎士達は全員、光矢の方へ向って来ていた。
「……奴は、既にボロボロだ! 立っていられてる事でさえ、奇跡ってレベルだ! 奴を殺せェ! この数なら押し切れる! 俺達は、勇者スターバムに選ばれし王国の騎士だ! 実力は、王国で一番の精鋭部隊なんだ!」
11人の騎士達は、そう告げると一斉に光矢へ襲い掛かる。魔法剣を振りあげて突っ込んで来る者達。また、その後ろで魔法剣に魔力を込めて、遠くから魔法攻撃を繰り出そうとして来る者達……。彼らの遠距離と近距離の同時攻撃を見ていた光矢は、不敵な笑みを浮かべて告げる。
「……逆だぜ? その数でかかって来たって事は……俺に王手を譲ったと言う事だ」
「主……! これを!」
僕は、魔法陣から棺桶を1つ出現させて、それを魔法を使って浮かせた状態で主に渡した。主は、すぐに棺桶の中から手回し式のガトリング砲を持って、周りにいる11人の騎士達1人1人に素早く視線を移していき、全員を黙視して、彼らを瞬時にロックオンする。
騎士達の魔法と剣が、同時に主に命中しそうになるその寸前、光矢はハンドルを勢いよく回転させて、ガトリング砲を乱れ撃ち……!
さっきまで余裕な顔をしていた騎士達は、次々と呆気もなく撃たれていき、遠くで魔法を撃っていた騎士達も僅か0コンマ数秒のうちに心臓を射抜かれ、地面に伏していった。
騎士達の死体が、辺り一面に広がる中で、光矢は自身のカウボーイハットをクイっと上げながら告げる。
「……悪いが、王国で一番の精鋭部隊の名は、いただくぜ? まっ、精鋭部隊と言っても……俺しかいないがな……」
主が、そう言うとその向こうでは……騎士モールスと1対1で戦っているエンジェル・アイの姿があった。
2人の戦いは、どちらもほぼ互角といった所で、そこに戦力差のようなものはなく、長く大きな槍を振るって攻防一体の動きを見せるエンジェルと、そんな彼へ次々と攻撃を加えているモールスの激しいぶつかり合いだった。
しかし、一見するとモールスがエンジェルを押しているようにも見えるこの戦い……。実際は、そうでもなかった。モールスの顔は、エンジェル以上に緊迫しており、まさに一瞬たりとも隙を見せられないと言った様子だった。
モールスの剣さばきは、まさに最大の防御という言葉が似合うような怒涛の連撃だった。しかし、それは、むしろ追い詰められているからこその焦りから来るものでもあった。凄まじい速さから繰り出される攻撃もエンジェルは、槍で次々薙ぎ払って行く。
「……その程度か? まだまだだな!」
エンジェルは、モールスが一瞬だけ呼吸のペースを乱したその瞬間に槍の反対側の石突の部分でモールスのお腹目掛けて軽く突いて吹っ飛ばした。
その攻撃にモールスは、苦しそうにお腹を抑えながら地面に膝をついている。彼は、剣を杖のように使って、ゆっくり立ち上がると告げた。
「……やるな。……だが、私には……勝たねばならない使命がある! 尊敬するスターバム騎士団長のためにも!」
モールスは、そう告げると魔法剣に魔力を込め始める。剣身に魔法陣が浮かび上がり、そこから膨大な力が溢れ出る……。モールスは、告げた。
「……こうなれば、私の本気を見せてやる! 陣形殺撃! オーバー・アーマー!」
モールスの全身を白い色をした魔力のエネルギーが覆い尽くす。そして、やがてその魔力は、鎧の形へと姿を変えていき、彼の顔から足の爪先にかけて全てを真っ白に染め上げた。そして……。
「……ふっ! これが、私の真の力。我ら王国の騎士にのみ与えられし最強の必殺魔法! 魔力の力で作り上げた最強の鎧! これを全身に纏った時、私はどんな攻撃をも効かなくなるのだ!」
モールスは、そう言う。……しかし
「……それが、お前の本気か。……案外、大した事ないな」
「何!?」
エンジェルは、彼の事を鼻で笑うと自分の手に持った金色の槍を持ったまま宙へと浮いて行き……やがて彼は浮遊した状態で槍の矛先をモールスに向けながら魔力を槍の先端へ注ぎ込んだ。
……すると、彼の槍の真ん中の柄の部分に魔法陣が浮かび上がる。
「陣形殺撃……」
刹那、エンジェルの左右両サイドに無数の魔法陣が出現し、そのサークルの中央からいくつもの槍が出現し、それらの矛先が一斉にモールスを捕える。槍は、次々と空間に出現し、それらがまるで串刺しの刑と言わんばかりに空中に浮いた状態で、モールスへ矛を向けていた。
エンジェルは、言った……!
「無限創槍撃!」
空に浮かんだ無限の槍が、モールスに牙を剥く……! それらの槍が、一斉に彼の無敵の鎧を砕かんとばかりに襲い掛かる!
しかし、エンジェルの槍たちは、悉くモールスの鎧に弾かれてしまい、通用しない。そんな状況にモールスは、エンジェルを嘲笑いながら告げた。
「……はっ! 大した事がないと抜かすわりには……攻撃が通用していないじゃないか! そんな程度の攻撃……いくらやった所で……」
――しかし、エンジェルの槍は、無限に姿を現す。彼の両サイドに出現した無数の魔法陣の中から魔力によって複製された彼の金色の槍が、いくつもいくつも……何度も何度も……無限にモールスの鎧に襲い掛かる……! その無限の槍による攻撃は、まさに……雨!
大雨の如く槍が、降りかかっていく……。そして、その猛攻により、とうとうモールスの鎧にも……。
――ピキッ!
と、ヒビが入った。……一筋の小さなヒビだった。しかし、それが決定打となった。モールスの鎧は、そこから一分もしないうちにエンジェルの無限の槍による連撃に敗れ、壊されていってしまった。
「……ばっ、馬鹿な!? 私の鎧が……なぜ!?」
驚愕していたモールスにエンジェルは、上空から自分の手に持っていた槍を握りしめ、腕を大きく振り上げてそれを投げようとする。
「……これで、終わりだ!」
トドメの一撃が、炸裂する――! エンジェルの金色の槍が、モールスの心臓を貫いて、彼の事を倒すのだった。息絶えてしまったモールスは、そのまま地面に膝をつき、そしてやがて彼の魔力は尽きていく。モールスは倒れ、その体は死体と化した。
彼の体を守っていた魔力でできた鎧も姿を消していった――。