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第三の勇者編⑥

 銃から飛び出した僕=ルアは、急いでいた。


 ――早くしないと……!


 早くしないと主、佐村光矢がやられてしまう。だから、僕は誰にも気づかれないうちに主の銃の中から出て来て、町を走り回っていた。


「……とにかく、マリア達にこの事を伝えないと……!」


 そう思いながら僕が、裏路地を抜けて大通りへやって来ると、曲がり角の付近で僕は、左側から歩いてやって来る人とぶつかった。


 僕は、走っていた事もあってぶつかった途端に地面に尻餅をついてしまう。何か文句の1つでも言ってやろうかと思い、顔を見上げるとそこには……。


 トマトやきゅうりなどの食料がいっぱい入った紙袋を持ったエンジェル・アイが立っていた。僕と彼は、目を合わせた。途端に僕は彼を指さして告げる。


「……きっ、君は!」


 エンジェル・アイは、僕の顔を見ても、キョトンとした様子だ。それもそのはず。僕とこの男が面と向かって会うのは、これが初めての事。昨日まで銃の中で眠っていた僕の事を知っているはずがなかった。


 まぁ……僕は、銃の中から下界の様子を時々チェックしていたから知ってるんだけどね……。


「誰だ……? 君は……。君みたいな子供と関りを持った覚えはないぞ」


 エンジェルは、そう言うが僕には、もう時間がなかった。僕は、すぐに彼の手を取り、引っ張った。


「……とにかく、すぐに来て欲しいんだ! 主が……僕の主の佐村光矢が、大変なんだ!」


「え……?」


 ――僕は、来た道を戻っていき、光矢が騎士達に連れて行かれた町の外れにある大きな家畜小屋の前までエンジェル・アイを連れて行った。家畜小屋の入口のドアは開きっぱなしになっており、僕達は入口の前で一緒に中の様子を見る事にした。


 中では、さっきと変わらずに11人の騎士達が、主の事を蹴ったり殴ったりして痛めつけていた。それに対し、主は何も抵抗しない。


 それは、彼らの後ろにいる4人の騎士達が杖を向けている囚われた5人の魔族の子供達という人質がいるからだ。


 入口の前で座っていたエンジェルが僕に言ってきた。


「……佐村光矢。そう言えば、昨日……俺達のいたキャンプ場に来ていたな。何かと思って来てみれば……お前、あの男の仲間だったんだな」


「主は、あの奥にいる人質になっている魔族の子供達を守るために騎士達にわざとやられているんだ。でも……このままだと主が……僕の主が……」


 すると、エンジェルは紙袋から取り出したトマトを上に投げて遊びながら立ち上がり際に告げてきた。


「……くだらないな。お前達の問題に俺は、関係ない」


 そう言って彼は、何処かへ行ってしまおうとしていたが、僕はすぐにエンジェルの前へと走って行った。


「……待ってよ! どうしてそんな冷たいのさ! 君が来てくれれば主も……それに子供達だって助けられる! それだけの力を持っているのにどうして……!?」


「お前に何故、俺の力の事が分かる? 出会ったばかりのくせに、俺の力の事をまるで知っているみたいだな?」


「知ってるよ! だって君は、主と同じ……同じ力を持っているのだから!」


「何……?」


 エンジェルの足がピタッと止まった。僕は、説明を続ける。


「……君は、僕の主と同じ……異世界からの転移者だ! そして、君が一昨日振るっていたあの金色の槍……あれは、間違いなく神具(アーティファクト)! 3人目の勇者は……君だ! エンジェル・アイ!」


「……勇者? 俺が?」


 エンジェルには、僕の言っている事がまだよく分かっていないみたいだ。それもそうだろう。……何せ、どういう訳か知らないが、彼は戦うたびに自分の記憶がなくなってしまうのだから……きっと、自分が何処からやって来たのかとか、自分の力が何なのかとか……そう言う事も全部忘れてしまっているのだろう。覚えていないのも無理もない。


 でもだからこそ、僕は彼に告げた。


「……そう! 君は勇者としてこの世界にやって来た。しかし、どういう訳か君は記憶を失くしてしまって、自分が何者であったかも忘れてしまった。だから、自分が勇者である事も知らず……君はこの世界でただ生きていた。けどあの時、君と出会って分かった。君は、選ばれし勇者なんだ! 君の持っていたあの金色の槍は……”破壊し尽くし無限の槍”の異名を持つ自在創シバーンステイン! そして、君の強力な魔法の力の正体は……神の子の遺体の1つ! ”創造の知恵”だ! 僕の知っているデメリットとは、少し違うけど、でも間違えないんだ! 君は……君こそが、”第三の勇者”なんだ!」


「……仮にそうだとしても、俺の知ったこっちゃない」


 エンジェル・アイは、そう言うとその場からいなくなろうとしたがそれでも僕は、彼に訴えかける事にした。


「……どうしてだい!? 君は、主を見殺しにするつもりなのかい!」


 すると、エンジェルは僕に言ってきた。強い眼差しと悲しみの混じった顔で……。


「……俺の記憶は、後5回戦ったら完全に消滅してしまうんだ!」


「……!?」


 ──後、5回……。それほどまで勇者の力に飲まれていたとは、思わなかった。


 そうか……だから……。


「俺にだって、あまり余裕はないんだ……」


 僕は、何も言えなくなってしまう。エンジェルが自分の勇者の力のせいで苦しんでいる事に全然目を向けてこなかった。それが、今になって自分でも申し訳なさでいっぱいになる。


 エンジェルは、いなくなろうとしていた……。彼が、主のいる家畜小屋に背を向けて歩き出したその時だった──!


「……馬鹿な奴だ! 魔族のガキのために体張って……こんな守る価値もないガキどもなんぞ、無視して私達を殺せば良いのに! 本当に甘い奴だ。魔族なんて俺達人間の敵……全て滅ぼしきらねばならない存在。お前は、人間でありながらそんな事も分からないなんて……」


 家畜小屋の中から騎士モールスの声がする。見てみると、彼は主の事を踏みつけた状態で言っていた。既にボロボロな主は、血を吐きながらもまだ必死に意識を保とうとしており、彼は真っ直ぐモールスの事を見上げながら告げた。


「……”守る価値もないガキ”だと? お前……本気で言ってんのか?」


「ん?」


 モールスが、キョトンと光矢の事を見降ろす中で、彼は告げた。


「……俺は、子供が大っ嫌いだ! 前世で……散々酷い目にあってきた。子供って存在に一番身近に寄り添っていたからな悪い部分は沢山見てきた。……でもな、守る価値がないなんて俺は思わない! 子供は、宝だ! 例え、種族が違えど……国が違えど……文化が違えど……子供は、俺達の永遠の宝なんだ。そんな事も分からないような奴に騎士を名乗る資格はない!」


「生意気な奴め! ええい! やってしまえ!」


 モールスが、仲間達にそう告げると、途端に11人の騎士達は再び主の事を蹴り始めた。そのあまりに無惨な姿にとうとう我慢ができなくなってしまった僕は、駆けつけようとするが……しかし、僕の力では主を救う事なんてできない。……僕1人の力じゃ……。


 ――急いで、マリア達の元へ戻らないと……。


 そう思って走り出そうとした次の瞬間だった――。


「……おい。待て」


 エンジェル・アイが、僕に言ってきた。


「……気が変わった」


「え……?」


 すると、エンジェルは家畜小屋の方を向き、歩き始める。そして、彼は小屋の中へと入って行ったのだった。


「どうして……?」


 そう思っていると、家畜小屋の中に入ったエンジェルを見てモールスは告げた。


「……なんだ? お前」


「……俺にも自分が誰か分からないんだ。記憶がないからな」


 エンジェルが、そう言うと騎士達は口々に「ふざけるな!」とか「失せろ!」とか罵倒し始める。しかし、エンジェルは立ち去る事なく、光矢の事を見つめて告げた。


「……だが、さっきのお前のセリフは……響くものがあった」


「エンジェル……アイ?」


 主もエンジェルの登場に少し驚いた様子で、彼の事を見ていた。2人は、言葉ではなく心でお互いを少し理解し始めているみたいで、お互い目を合わせていた。


 すると、騎士モールスは告げた。


「……思い出したぞ! お前……あの時、スターバム騎士団長を邪魔した奴だな! 貴様、まさか……この男に手を貸そうなんてするつもりじゃないだろうな? こんな……ちっぽけな魔族を守ろうとする愚か者に……」


 エンジェルは、言った。


「あぁ。そのつもりだ」


「はっ? バカか? お前……人間だろう? 魔族なんて救う価値もない! 根絶やしにするべき存在を……お前達、馬鹿か? 大馬鹿か? 女神と勇者の神話を学び直して来いよ! 人間と魔族は、決して手を取り合えない。滅ぼすべき敵なんだよ!」


「……生憎、俺はどうせ……この戦いが終われば記憶を失くす。だから、俺は俺の気持ちのまま動く事にしているんだ。俺の正義に従って……気に入らない奴は、ぶっ潰す! それだけだ」


「何ぃ……?」


 モールスや他の騎士達が、エンジェルを睨みつける。すると、その時だった――。


「……もっ、モールスさん! これは!?」


 後ろから魔族の子供達を人質に取っていた4人の騎士達の声がした。彼らは、人質に触れようと手を伸ばそうとするが、魔族の子供達の周りにのみ強力なバリアが張り巡らされていて、騎士達の力ではこれを打ち破る事ができなかった。

 その様子にモールス達は、目をギョッとさせて、エンジェルの事を睨みつける。


「……貴様、いつの間に……」


 すると、とうのエンジェルは主の元へ駆け寄った。

「……これで、人質は無事だ。俺のバリアは……並大抵の攻撃じゃビクともしない。……後は、思う存分、暴れればいいだけだ」


 エンジェルは、光矢に手を差し伸べて続けた。


「……1つ貸しだ。コイツらを倒すのに協力してやる」


 そんなエンジェルの手を主は、取り……そしてニッコリ微笑んで告げた。


「……ふっ、貸しって……どうせお前、忘れんだろ?」


「あぁ。だから、お前は忘れるなよ? 佐村光矢。俺との貸しを……。お前のために俺は、力を使うんだからな……」


「……あぁ、忘れないさ。エンジェル・アイ。いつかこの借りは、返す。だから今は……一緒にあのクソ騎士共をぶっ倒すぞ!」


 2人の勇者達は、並び……そしてモールス達を睨みつけた。


「行くぞ……!」


 光矢は、そう言うとガンベルトから二丁の拳銃を引き抜く。エンジェルも魔法陣から金色の槍を出現させて騎士達の元へと突っ込んで行くのだった――。




 To be Continued.



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