第三の勇者編⑤
――次の日も相変わらず私達は、のんびりと暮らしていた。宿で出る美味しい朝食を食べ終わると光矢は、一服したいと言って外へ。そして私達は、すぐに洗濯を始めて……。
「あ……」
部屋に備え付けられていた洗濯機に私達全員分の服を入れて、魔力を込めて洗濯を始めた瞬間に私は、気づいた。
「そういえば、私達……服一着しか持ってない……」
生まれたままの姿になった女3人が、部屋に立ったままお互いに見つめ合う事数秒。私達は、自分達が今、女として絶対にあってはならない禁忌を犯してしまった事に気づく。
「……」
誰も喋らなくなった女だけの空間に、突如外から部屋をノックする音が聞こえてくる。
「……おーい。開けてくれ」
光矢が、煙草から帰って来たのだ。魔力のない彼は、魔力を込める事で開くオートロック式のドアを自分の力で開ける事ができない。そのため、必ず部屋の中に誰かがいるか、または一緒に外に出ないといけないのである……。
本当ならすぐにでも彼の為にドアを開けてあげたいのだが……。
「え、えーっと……」
こんなみっともない姿を彼に見られたくない……。一着しか服持ってないのに……洗濯に出しちゃって着るものが何もありませんだなんて……恥ずかしくて言えない! もしも、それがバレてしまったら……もし幻滅されてしまったら当分、立ち直れない! いや、彼に限ってそんな事ないだろうけど……。
「こ、光矢? えーっとその……」
私が、何か思いつこうとした次の瞬間だった。颯爽と物凄いスピードでドアの傍まで来ていたルリィさんが、自分の手に魔力をギンギンに込めてドアノブを握ろうとする。
「……はーい! 旦那様! 只今開けて差し上げますわぁ~!」
「ちょっ!? ルリィさん! ダメッ! 今は――!」
私が、彼女の手を引こうとしたその瞬間、私よりも先にルリィさんの手を引いたのは、サレサさんだった。
「……はぁ。良かった……これなら……」
と、安心していたのも束の間、今度はサレサさんがドアノブを手で握り出す……! 彼女は、告げた。
「……ムー君、今開ける。そこで待ってて……」
サレサさんが、息を荒くしながら自分の掌へと魔力を注ぎ込もうとしているのを見て、私は速攻で彼女の手を引っ張り、ドアから離した。
「ちょっ! ストーーーーーーップ!」
すぐにサレサさんの両肩をガッチリと抑え込むも彼女は、ジタバタしながら告げた。
「……離してマリアさん! ここは、私が……私がムー君にアピールするチャンス!」
「何をアピールするつもり何ですか!?」
と、ツッコミを入れていると、今度は私達の前にひょっこり立ち上がったルリィさんが告げる。
「……ふっ! 貴方の細身で貧相な……たかだかCカップを殿方様に見せた所で無駄無駄ァ! 貴方は、そこで見ていなさい。女として真に魅力ある者が見せる堂々たる後姿を! アタシのこの体で殿方様を今度こそ落として差し上げますわ!」
そう言ってルリィさんがドアへと歩いて行こうとするのだが……。
「やらせない!」
すかさず、サレサさんは、手を伸ばして植物を操る魔法を使う。彼女の掌から植物の長い蔓が伸び、僅か一瞬にしてルリィさんの体にぐるっと巻き付き、捕まえてしまう。
「あ!? いやああぁぁぁぁぁん!」
ルリィさんは、呆気なく捕まってしまい、そのまま……素っ裸の状態で植物で全身の至る所をグルグル巻きにされてしまう。
――って、あれ……。これって、ちょっと色々まずい感じじゃ……。
ルリィさんの素肌に植物の水分が絡みついて……彼女の全身のあちこちが良い感じに濡れていて、しかもその植物の水分も若干、粘り気を含んでいるせいで、余計に言葉で表現できないような状態になっている。
「何をしやがるのですわ! 後輩のくせに!」
ルリィさんは、必死にそう言うが……サレサさんは告げた。
「……貴方にだけは、そのドアを開けさせたりしない!」
「なんですって!?」
「……Cカップには、Cカップなりの戦い方がある」
そう言うと、サレサさんは口元を吊り上げていやらしく笑い始める。彼女のその笑った顔が何処か不気味に感じた私が、何かと思っているとその時だった――!
「……え? キャッ! いやああああ!」
サレサさんの植物の蔓が、いつの間にか私の体に巻き付いてきていた――。どうやら、彼女はルリィさんをグルグル巻きにした時に同時に私に対しても魔法を使っていたみたいで、私とルリィさんはサレサさんの植物でグルグル巻きにされた状態で、宙に浮いていた。
「いやあああ! 離してください! なんだか、ヌメヌメしていて気持ち悪いですぅ! 助けて!」
私が、サレサさんにそう訴えかけるも彼女は、言った。
「……マリアさんの裸が、一番ムー君にとって破壊力ある。よって、こうなる事は確定。プレミアム殿堂」
「そんなぁ! いやですぅ! 気持ち悪いですぅ! 助けてぇ~!」
すると、近くで同じように植物でグルグル巻きにされていたルリィさんも告げた。
「そうですわ! 1人だけ美味しい思いしようだなんてズルいですわ! 殿方様に自分だけ裸を見て貰おうだなんて!」
すると……。
「……でも、マリアさんと乳ドラ先輩は、私がここに来る前に2人でムー君を誘惑した事があるって……前にルアさんが言ってた」
「え……?」
この瞬間、私とルリィさんは固まってしまう。サレサさんは追い打ちとばかりに続けて言ってきた。
「……私だけムー君に何も見て貰ってない。これって……平等じゃない。今日は、私の番」
そう言うと、サレサさんはドアへ歩き出す。そんな彼女の後姿を見つめながらルリィさんは、叫ぶ。
「お待ちになって! 考え直してくださいましぃ! 貴方の貧相なCでは、既にアタシのHと先輩のGを堪能した殿方様を落とす事は、不可能ですわぁ! 今一度、お考えを!」
「……なら、ムー君がその気になるまで頑張ればいい」
「え……?」
この瞬間、私の思考がショートした。同じようにルリィさんの思考もショートしたみたいだった。
「……ムー君が、私を好きになってくれるまで……私、何でもする。どんな言う事も聞く……何でも受け入れる。そうすれば……いつかは……」
そう言うと、サレサさんはついにドアノブを握り、魔力を込め始めてしまう。しかし、その瞬間に私は、かろうじて掌に魔法の杖を出現させて、サレサさんへ魔法を発動。
「……ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
次の瞬間、振り返ったサレサさんは魔法にかかってしまい……部屋の地面に置いてあった彼女が出現させた植物の蔓が、彼女の体をグルグル巻きにする。
「なっ!? これはっ……!?」
驚くサレサさんに私は、告げた。
「……サレサさんと同じ植物の魔法です! サレサさんのよりは、大した事ありませんが……それでも、貴方を拘束するくらいの力はあります!」
私が、そう言うとサレサさんは舌打ちをしながら悔しそうに告げた。
「……くっ! 流石は、マリアさん! 魔力の高さは伊達じゃない……。けど、それでも私は……」
サレサさんは、そう言うと自力で植物の蔓から脱出しようと体の全身に力を込め始めるのだが……。
「……どうしたんだ? 開けるの遅かったけど……お前達、部屋であんまり騒いだりするな……よ?」
その時、私達がいた部屋のドアが開き、光矢が廊下から姿を現す。どうやら、先程サレサさんがドアノブに手を置いた時に彼女の魔力が込められて、ロックが解除されたみたいで……生まれたままの姿で植物でグルグル巻き(おまけにヌメヌメ)にされていた私達の事をガッツリ見ていた。
「あっ! 殿方様! いやぁ~ん助けてぇぇぇ!」
「ムー君! こっち見て!」
「お前ら……何やってんだ?」
光矢は、至って冷静にそう返し、サレサさんとルリィさんは、光矢に甘ったるい言葉を投げかける中で私は1人、頬を赤らめた。
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……って、おい! お、落ち着け! マリア!」
彼が、そう言う中で私は光矢に対しても魔法の杖を構えながら叫んだ。
「……良いから出て行ってください! 何処かでお買い物でもしてきてください!」
そう言いながら私は、光矢に植物の蔓をぶつけた。
*
「……やれやれ。酷い目にあった。服が一着しかないのなら言ってくれればいいのに……」
俺=佐村光矢は、そんな独り言をボソボソ呟きながら町を歩いていた。マリア達が、服が無くて外に出られない今、俺が彼女達のためにもう一着何か買って上げなきゃいけないのだが……。
「……女ものの服なんて選んだ事ねぇや」
前世でほとんど女と関わった事のなかった俺には、ちと難易度が高い。どういう柄が好みなのかとか、どういう服ならおかしくないか? とか……そう言う事を色々考えてしまう。とはいっても、あんまり遅くまで時間かけちゃうとな……。丸裸なわけだし、今は比較的熱いから良いけど……これから夜になると寒くなるし、風邪でも引いたら大変だ。最悪遅くとも夕方までには全員分の服を用意しないと……。
「うーん……」
ホテルの前のバザールみたいになっている所を何周も何周もグルグル回っていた俺だったが、一向にどの服かと決められず……結局、午前中のほとんどの時間を服選びにかけてしまった。
「……ダメだ。決まらないな。……これ以上、ここをグルグルしていても仕方ないし、一旦何処かで休憩でもして頭をリフレッシュさせてから出直すか」
俺は、そう思ってバザールの辺りをまたウロウロし、何処かに喫茶店らしきお店はないかとあちこちを歩き回った。しかし、この辺りにやって来たばかりの俺には、何処に何のお店があるのかなんて分からず……俺は、道に迷ってしまう。
――そして、裏路地の様な所へやって来た俺は、そこで驚愕する事になる。
俺の目の前には、見知った鎧を身に纏った男達が6人程おり……。
――アイツらは……!?
俺が、奴らの正体に気が付いた次の瞬間、後ろにも人の気配を感じて振り返ると、なんと後ろから更にもう5人やって来て、俺はコイツらに周りを囲まれてしまったのだった。
「お前達……確か、スターバムの所の……」
俺がそう言うと、前に立っていた騎士達の真ん中にいた1人の男が、俺を睨みつけながら言ってきた。
「……血染めのサム。……いいや。ジャンゴと言うべきなのか? それとも……精霊の宿りし黒鉄の杖を持つ勇者か? まぁ、どれでも良い。私の名前は、モールス。ちょっと来い……話しがある」
俺は、今の自分の状況を考えて、ガンベルトに装着されていた二丁の拳銃を持とうとするのをやめ、素直に言う事を聞く事にした。
「……良いだろう」
そうして、奴らに連れてかれて俺は、裏路地を抜けた先に見えた家畜小屋のような所へ入って行った。
「こんな所へ連れて来て、俺に何をするつもりだ? まさか、お前ら如きとここでやろうってわけじゃないよな?」
もしも、そのつもりなら俺がコイツらに負ける気は毛頭ない。普通に戦えば、俺の方が明らかに強いと言う事は、一目瞭然だった。
だが――。
「いやいや、お前と正々堂々と戦うほど私達は、馬鹿じゃない」
「……何?」
真ん中に立っていた騎士モールスが、そう言うと彼は、指をパチンと鳴らす。その合図と同時に4人の騎士達が家畜小屋の奥から縄でグルグル巻きにした小さな魔族の子供達を連れてきて現れるのだった。
その子供達は、叫べないように口封じの魔法がかけられているようで、子供達は今にも泣きだしそうな顔をしながらも彼らからは全く何の声も聞こえてこない。
「お前達……その子達は、なんだ!? 今すぐ子供達から――!」
と、俺が最後まで自分の言葉を言おうとした次の瞬間、背後から騎士の1人が俺の背中を蹴り飛ばしてきて、俺はそのまま地面に叩きつけられた。
すぐに立ち上がって子供達を助けようとするも……後ろから蹴りを入れてきたその太った騎士は、俺の事を今度は、踏みつけて来た。
モールスは、そんな俺に対して言ってきた。
「……おっと。それ以上抵抗するなよ? さもなければ……このガキどもの命は、ないと思え……」
「何……?」
「……お前が強い事は、重々承知しているつもりだ。ここにいる全員で束になってかかってきても……きっと、私達はお前に瞬殺されるだろう。……だから、趣向を変えた。お前の最大の弱点は……その”甘さ”だ。その甘さを最大限に利用させてもらったぞ。……私達は、これまでのお前の冒険の事について色々調べてきたのだ。そして、お前はこれまでの冒険で必ず他の誰かに助けを求められた時にのみ戦ってきた事が分かった。それは、例え相手が人間じゃなかろうと……魔族の子供であろうと関係なく、目の前で助けを求められたらその為にお前は、戦おうとする。一見、ただの用心棒のようだが……しかし、違う。お前はクールに成りすましているに過ぎない。甘ちゃんだったのさ。だから、それを利用させてもらった」
「随分と俺に詳しいじゃないか? テメェ……まさか、はめたのか? 俺を……」
「小さい頃に学ばなかったか? 知らない人について行っちゃいけませんって……ふっ、まぁ良い。おかげで苦労せずにお前をここまで呼び寄せる事ができた。まぁ、あの路地裏で私達がやられていた場合、1時間経ってもここに戻って来なかったらガキどもの命を殺すように指示を出しておいたから。どちらにしろ、ガキの命はなかったわけだが。後は……」
11人の騎士達が、俺の周りを囲む。彼らは手をボキボキ鳴らしながら俺の事を見下ろしていた。しかし、そんな奴らに俺は言った。
「……待て! 俺の事よりも……そこにいる子供達を開放してやってくれ! 俺は、どれだけ殴られようとかまわない! だが、その子達は関係ないはずだろう!」
「知った事かよ!」
刹那、モールスが思いっきり俺の顔面を踏みつけた。彼の力強い一撃に俺の歯は折れてしまい、鼻は曲がってしまう。更に口と鼻から血が出始める。モールスは、そのまま俺の体を蹴り上げながら言った。
「……魔族のガキなんて私にとってどうでも良い事なんだ! 単にお前をボコボコにできる口実が欲しかっただけさ……。そのためなら私は、どんな卑怯な手でも使う! 悪魔にだって魂を売るさ! 尊敬するスターバム騎士団長のためならな!」
騎士達は、モールスに続いて更に蹴りをお見舞いしてきた。一方の俺は……人質がいるせいで、動けない。もしも、ここで奴らの攻撃を跳ね除けて、11人同時に撃ち殺せたとしても、その先の子供達の傍にいる4人の騎士達を……子供達に何かする前に殺す事は、難しい。
俺の早撃ちは……1人殺すのにだいたい0.06秒はかかる。11人全員を殺すとなれば、0.66秒。更にそこから離れた4人の騎士達に照準を合わせるのに0.1秒……1人殺すのに0.06秒。全員殺し切るのに更に0.24秒だ。つまり、子供達を救うのに”1秒”かかっちまう。早撃ちの世界において1秒は、長すぎる……!
前に戦ったシャイモンは、魔法を撃つのに0.1秒。奴は、太っていたからその分のろかった。しかし今、目の前で子供達を殺そうとしているのは、しっかり鍛え抜かれた王国の騎士達だ。1人でも殺し損ねればそれこそ命取りになる……。
俺は、そのまま騎士達の拷問を受け続ける事にした。何か良い作戦は……または、奴らにほんの少しでも隙が出来れば……。マリア達の助けは来ない。……この状況で、俺に出来る事は……子供達を救えさえすれば……。
――To be Continued.