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第三の勇者編③

 魔王が語った話は、人と魔族にまつわる大昔の壮大な話だった。大昔、まさか本当に女神の伝説が実在したとは、私も思わなかった。


 魔王の話を全て聞き終えて、食事も終えた私達は、魔王アブシエードの案内によって、とある宿を用意された。


 魔王曰く、自分の家族同然である魔族を救ってくれたお礼がしたいとの事で、魔王は私達に里のとあるホテルの一室を貸してくれた。これには、ルリィさんとサレサさんも頭を下げて何度も感謝の言葉を述べる程だった。


 私も嬉しかったのだが……しかし、光矢だけは何処か乗り気じゃない様子で、彼は魔王城の大きな廊下を歩いている間に隣で一緒に歩いていた魔王に鋭い目つきを向けて話しかけるのだった。


「……何が狙いだ?」


「何の事だね? 俺は、ただ君達に感謝をしているに過ぎないよ。魔族の王として……」


 魔王は、平然とした態度でそう語るが、光矢は違った。彼は、魔王を鋭く睨みつけて告げるのだった。


「……アンタは、仮にもここの王だ。いくら王国と無関係の俺達といえど、ここまで人間に肩入れするのは変じゃないか? ……ただのお人よしには、過ぎるし……そんな奴が、王として何千年もやっていけるとは俺は、思えない……。アンタ、俺に何か隠し事があるんじゃないのか? 何か……俺個人に言いたい事があるんじゃないのか?」


 すると、途端に魔王の雰囲気が変わった。彼は、それまでの真っ直ぐで裏表のない様子から一変して突然、背筋がゾッとするような笑い声を上げだした。そのあまりの様子の変化に私も、近くを歩いていたルリィさん達もギョッと目を見開き、驚いていた。魔王は、言った。


「……流石だな。そこの精霊さんが言っていた通り、確かに……勇者としての素質は、申し分ないようだな」


「やはり、何か……隠していたようだな」


 光矢は、魔王を睨みつけて姿勢を低くし、魔王とこれから戦う事も覚悟した様子で、彼から一歩下がる。


 だが、今の光矢には武器がない。ここの檻へ運ばれた際に武器は全て没収され、私達の魔力も特殊な魔法を施されてしまっており、魔法は封じられてしまっている。仮にもしここで魔王と戦闘になれば……間違いなく私達に勝ち目はない。


 ――それでも、いざという時は……。


 私も覚悟を決めて魔王の事を見つめる。ルリィさん達も少し警戒しているような様子で魔王を見つめていたが、魔王は大きな声で笑って私達に告げた。


「……ははは! 安心したまえ。ここで、君達とやり合おうなんて考えていないよ。むしろ、君達をここで殺すのは、あまりに惜しい。俺が望んでいる事は……もっと別の事だ」


「何……?」


 光矢の目が魔王を鋭く睨みつける。すると、魔王は余裕の笑みを浮かべながら私達に告げてきた。


「……ジャンゴ。君に頼みがある。……お願いだ。私の側についてくれないか?」


「……!?」


 この時、私達全員、驚きの余り息を呑んだ。当然、普段はクールな光矢でさえも少し動揺した様子だった。魔王は、続ける。


「……先程も話した通り、俺達魔族は……これまで数々の戦いの中でその数を大きく減らし、弱体化していっている。……元々、魔族と言うのは寿命が人間以上に長いため、子孫を残すって事自体が少ないんだ。それもあって、俺達の数は今どんどん減ってきている。……そして今、王国には勇者が存在する。さっきも話したと思うが、古代における3人の勇者。これは、女神を守るためであり、また俺達魔族を殺すための存在だ。……君が言ってくれた話の通りなら、現在王国では3人のうち1人が勇者として正式に認められ、王国側についている状況だ。君も含めれば……現在の世界で勇者は2人、再び誕生しているわけだ。そして、もしも……このまま行けば、近い将来……クリストロフの国王は女神の復活も目論む事だろう。いや、もしかしたら既に……。そうなれば、俺達魔族は次こそ完全に滅んでしまうかもしれない。それを阻止するためにも……不本意ではあるが、伝説の3人の勇者のうち1人の力を継承した存在である君が、こちら側についてくれれば……俺達が滅ぶ可能性もグンと減らす事ができると思うのだ」


「……」


 光矢は、魔王の話を黙って聞いているだけだった。彼は、魔王が一通り話し終わった後でも特に何も反論したりもせず、黙っているだけだった。魔王は、そんな光矢に対して最後に告げた。


「……今すぐに決めろと私も言わない。……だが、君だって私達と同じように人間達からこれまで沢山、苦痛を味わわされてきたはずだ。……よく考えて、検討して欲しい。それまでここにいて貰って構わない」


 魔王が、そう言った次の瞬間に側近の者達が城のドアを開ける。私達がドアの前まで行き、魔王城を出て行こうとするその直前、魔王達が別れの挨拶を私達にしようとしていたその寸前に光矢は、魔王に告げた。


「……1つだけ最後に聞いても良いか?」


「なんだね?」


 魔王が、尋ねると光矢は魔王の事を真っ直ぐ見つめ上げながら言うのだった。


「……3人目の勇者について知りたい。どんな力を持っているんだ?」


 すると、魔王は顎に手を置き、何かを思い出そうとしているみたいだったが……。


「……うむ。それについてなんだが……俺も詳しい事は、知らないんだ。どうしてなのか、これは俺自身にも分からない……。3人目の勇者が存在していた事は間違いないのだが……それが、どういう者でどういう力を有していたのか、はっきりした情報が昔の何処の文献にも存在していないのだ」


「なんだと……?」


「ただ1つだけ言える事は……3人目の勇者は、神の子の遺体の1つである"想像の知恵”と、神具(アーティファクト)・”破壊し尽くし無限の槍”こと、”自在創シヴァーンステイン”を持っていた」


「槍……」


 光矢の顔が、少しだけ曇り出す。すると、そんな彼に対して魔王は少し危機感の混じった様子で彼に話しかける。


「……なぜ、いきなりそんな事を? 君の話では、転生してきた勇者は、君を合わせて2人だけのはずじゃないのかな?」


「いや……まだ、はっきりと分からないが……もしかしたら、()()()()()()()()()()()()が……意外と近い気がしたんだ」


 彼は、それだけ告げてからしばらくして魔王達の元を去った。私達も光矢の後を追いかけながら魔王が用意してくれた馬車がある所まで広い庭を歩いて行く。私達の前方には、魔王の側近が歩いており、彼が親切に私達を馬車の元へまで案内し、私達を中に乗せると、彼は早速馬の手綱を引いて、出発するのだった――。


                     *


 その日のお昼時を過ぎた頃、馬車に乗せられて街までやって来た私達は、とある宿屋の傍で止めて貰って、一度宿の中を見せてもらう事にした。人間の町に比べてのどかで、自然に囲まれた感じの町ではあったが、宿屋自体はかなり綺麗で、人間の世界にあったような魔力で動くシャワーやふかふかのベッドなどがついたしっかりしたお部屋が用意されていた。(ちなみにかなり高い宿らしい)


 食事に関してもしっかり料理が提供されるようになっており、宿代も魔王がしっかり払ってくれているため、特に何か気にする必要もなく泊る事ができるみたいだった。


 さっきの話から察するに……ここまで私達にコストをかけているのも、やはり私達……いいや、正確には光矢の事を仲間に率いれたいからなのだろう。それは、分かっているが……これは、ちょっと色々と凄すぎる……。流石、一国の王はやる事が違う。


 買い物や外出に関しても自由にできるらしいが……門限が決まっており、必ず夕食の時間までには戻らなくてはならず、それ以降に外へ出る事は禁止との事だ。また、一応魔王城にいた時にかけられていた私達の魔力の封印も解かれており、光矢の銃も元に戻ったみたいだった。


「以上が、宿泊の際の注意点となります。……あぁ、それから最後にもう1つ……」


 宿の女将さんらしき1つ目の悪魔のような見た目をした魔族の人が、あるブレスレットを私と光矢に渡して、説明を続けた。


「そのブレスレットは、貴方達人間特有の魔力の臭いや、人間臭さを消してくれるものです。それをつけていれば、町で出会う魔族達から目をつけられる事もないでしょう。外出の際は、必ずそれをつけてくださいね。ルア様に関しては、精霊様であると伺っておりますので……必要はないかと思ってお持ちしておりませんが、必要だったりしますか?」


「……必要ないよ。僕は、これからしばらく主の中で眠る事にするからね。ここまでの旅の中で疲れてしまったんだ。こんなに長い距離を歩いたり、実体化した状態で話をしたのは数千年ぶりかな? だからまた、しばらくの間は主の銃の中で眠る事にするよ」


 ルアさんは、そう言うと姿を消してしまった。そして、女将さんが全ての説明を終えて私と光矢が、しっかりブレスレットをつけると、そこからは自由となった。私達は、早速宿を出て周辺の繁華街みたいになっている所の散歩に出かける事にした。


「さぁ! 殿方様と先輩! これから、私達の故郷を案内いたしますわね!」


「……馬車から眺めて見ていた感じ、昔とそこまで景色も変わっていなかったし……ここの町の事については、私達に任せて欲しい!」


 魔族の里を散歩するなんて初めてだったので今回は、はしゃいでいるルリィさんとサレサさんについて行く形で、私達は皆で外に出る。宿の周辺は、バザールのようになっており、様々な出店が並んでいて、魔族も沢山おり、凄く賑わっていた。


 久しぶりの故郷にウキウキするルリィさんとサレサさんが、あちこち歩き回って色々な所へ私達を連れて行く。


「殿方様! ここのアイスクリームは……魔龍族のお乳を発酵させた乳酸菌を使っていましてね……」


「……魔龍族、お前以外絶滅した後にカルピスみたいなの作られてんの!?」




「ムー君! これ見て! この本はね……エルフ族の有名な作家さんが書いた本でね……」


「なになに~、タイトルは……”吾輩はエルフである”……って! とんだパクリ本じゃないか……」


 光矢は、ウキウキな2人について行き、彼女達が見せてくれる様々なものに笑ったり、ツッコミを入れたり……普段の旅をしている時には見せてくれないような色々な表情を私達に見せてくれた。


 そんなこんなで……皆でお出かけを楽しんだ後、そろそろ帰ろうと来た道を帰っているとその時だった――。




 ……たまたま、私達は見覚えのある人物が自分達の横を通り過ぎていくのが見えた……。


 その人物は、銅色の髪の毛をしていて白いワンピースのような衣装にヒラヒラした長袖がついた衣装を着ており、ロングスカートの中から覗いた生足が魅力的な少女だった。彼女は、両手に食べ物でいっぱいになった紙袋をいくつも積み上げた状態で歩いていた。


 その女性の顔が、凄く見覚えがあった私が、ジーっと彼女の事を見ていると……。


「あっ……!」


 ようやく、思い出した。……そう、この少女は……昨日、光矢と戦ったクリストロフ王国で指名手配されている槍使いのエンジェル・アイと一緒にいた少女。確か……この子も指名手配書があったはずで……。


 私が、彼女の存在に気付くと同じように彼女も驚いた様子で、私達は同時に指をさして告げた。


「「……貴方、昨日の!?」」


 すると、今度は光矢も彼女の存在に気付いた様子で彼は、途端に顔色を変えて、恐ろしい形相で彼女の事を睨みつけると、早速ベルトから銃を一丁取り出した。


「……昨日あの男と一緒だった奴か……。奴は、今何処にいる? 教えろ!」


 光矢が、彼女に怒鳴りつけると、少女は怯えた小動物のような顔で光矢の事を見つめだす。その様子に私は、少し違和感を覚える。


 ――なんだろう……。この人、なんだか……悪い人じゃなさそうな気が……。


「待って光矢……!」


 私が、彼にそう告げると次の瞬間、銅色の髪の毛をした少女は、パンパンになった紙袋を持った状態で何度も何度も私達に頭を下げて謝り始めるのだった。……彼女の紙袋の中から彩とりどりの野菜や果物が溢れて転がっていく中、私達は何度も少女から謝罪を聞かされた……。


「すいません! すいません! うちのアイくんが……また、ご迷惑をおかけして! すいません! すいません! どうか、アイくんの事を誤解しないであげてください! 根は、良い人なんです! ただ、その……ちょっと忘れっぽい所があるだけっていうか……。とにかく、すいません! すいません! 私の方からもキツく叱っておきますので……すいません! すいません! 私がちゃんとしてなかったばかりに……すいません! すいません! どうか、アイくんの事を嫌いにならないで、忘れないで上げてください! すいません! すいません!」


「え……えっと……?」


 アイくん……? アイくんって……?



 ――To be Continued.


 

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