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ドキドキ秘境温泉編

「……ふぅ。癒されましゅねぇ~……」


 私=マリアは今、久しぶりの温泉を味わっていた。魔族の里を奥へ奥へ進んでいった先に見える秘境。そこには、温泉があり……そして、そこから見える景色は、まさに絶景だった。


 赤や黄色など秋色の紅葉。時々、風に吹かれて湯の中へ落ちてくる葉っぱが、美しい。そして、向こうには2つの山が両サイドに見える。……更にその奥からは、ほんの少しだが塩の香りもする。


「……向こうには、海もあるんですね」


 すると、私の隣にやってきたノノさんが、素足を湯船につけながらゆっくりお湯の中へ入って、私に告げてきた。


「……ここは、海と山の両方の景色を季節の風景と一緒に味わう事ができるんです」


「へぇ~、凄く綺麗です。人間の世界には、こう言う場所ってなかなかなくって……」


「あらぁ? そうなのね。……ぜひ、ゆっくりしていってちょうだいね」


 ノノさんは、そう言うとゆっくりお湯につかる。彼女の体が透明なお湯越しに見える。


 ──最初に出会った時から思っていたけど、それにしても……結構スタイルが良い。引き締まったお腹とお、大きな胸……そして丸くて大きなお尻に女の私まで視線が奪われそうになった。


 ココちゃんを産み育てて、その後も体型維持など頑張っているのだろう。スタイルの良さやそれに……その、胸といい。さすが、母は強しとは、まさにこの事だ。私は、すぐに視線を逸らしたが、ノノさんは「どうしたの?」と尋ねてきながらこちらを見てくる。


 私も……光矢と結婚したらもっと……大きくなれるだろうか? そう思いながら私は、自分の胸元を見つめる。


 ま、まぁでも……私だって結構ある方だと思うし、気にしすぎない方が良いか。


すると、彼女の目の前に1人の幼い少女が、ジャンプして飛び込んでくる。


 あまりに激しい飛び込みに、私達は2人とも顔中にお湯をかけられてしまい、混乱していると、お湯の中で潜っていたココちゃんが、顔を出してきた。


「ママぁ! これ、楽しいよ!」


「こら! 飛び込んじゃいけませんよ!」


 ノノさんは、すぐにもう一回飛び込もうとしているココちゃんを叱りつけて、止める。ココちゃんは、残念そうにしていたが、そんな少女にノノさんは、優しく告げた。


「……ママと一緒に入ろ。良い子だから」


 途端に少女の顔は、幸せそうな表情に変化した。ココちゃんは、元気よく「うん!」と頷くとノノさんに抱っこしてもらいながら一緒にお風呂の中へ入るのだった。


 そんな仲睦まじい親子の姿を見ていて、私は少し羨ましい気分になった――。


「……どうしたの? マリアさん。ぼーっとして」


 ノノさんにそう言われてから私は、ようやく自分がボーっとしていた事に気付く。


「なっ、なんでもないんです! それより……ルリィさんとサレサさんは……」


 慌てて話を逸らしてから辺りを見渡してみても2人の姿は、何処にもいない。どうしたのだろうか? そう思いながら、私はお風呂に浸かるのだった……。


                      *


 温泉に入るなんて……いつぶりだろうか。それこそ、この世界に来てからは、一度も入った事がなかった。久しぶりの事で、俺=佐村光矢は、内心少しだけ楽しみだった。



 温泉の近くに設置されていた脱衣所で服を脱いでいた俺は、今日までにあった様々な出来事をトトさんに話をしていた。


 トトさんは、俺の話を聞きながら少し驚いた様子で告げる。


「……そしたら、君が元々いた世界では、あちこちに温泉が?」


「……えぇ。まぁ、温泉の国だったので……」


「ほぉ……なるほど。羨ましいね。俺も温泉が大好きなんだ。何かあると、よく1人でここに来る。たまには、家族でも一緒に来るんだが……。妻が恥ずかしいという理由で一緒に入ってくれないんだ」


 トトさんは、少し残念そうだった。更に彼は、ため息交じりに告げる。


「……ここの温泉は、2つあって、混浴にもできるんだけど、男女で二手に分かれて、温泉に設置された保護結界を作動させれば、男と女で分ける事もできる。……でも、それをやってしまうと家族で来た場合、私は必然的に1人になる事が多くてな……。今日は、君達がいてくれて助かったよ」


 トトさんが、俺の方を見てくる。すると、ちょうどその時に……


「……主、準備が整ったよ……」


 脱衣所の奥からルアの声がする。振り返ってみると、そこには純白のバスタオルで胸元まで自分の体を隠したルアの姿があった。


 彼は、少しだけ頬を紅く染めながら恥ずかしそうに、モジモジして……こちらへゆっくりやって来た。こんな艶めかしい姿を見せられてしまうと……俺も、ついルアが実は、女の子なのではないかと疑いたくなるが……。



 いや……コイツ、どう見ても女の子だろう。タオルを胸元まで隠したスタイルといい、それでいて、恥ずかしそうに頬を紅く染めている所といい……。小さくて華奢な体、細い手、白くてスベスベしてそうな肌。……よく見たら、なんか胸も若干、いや……ほんの少しだけあるように見える。これは、俺の錯覚だろうか……。



 ――これ以上、この精霊を見ていると変な気分になりそうだったので、俺は目線を逸らした。


「……ぜ、全員揃った事だし、そろそろ入るか」


 そして、俺達はついに3人で温泉に入るのであった。大きな湯舟に浸かる俺達3人。そこに会話なんてなかった。まぁ、当然だ。男同士の風呂なんて……語る事もあるまい。ただ、目の前の極楽に身を任せれば良いだけ。



 そう思っていた俺が、ゆったりと温泉に浸かっていると、少し離れた所からルアが俺に話しかけてくる。


「……気持ちいいね。主……」


「あぁ……。日本を思い出すな」


「うん……」


 その返事が、俺は少しだけ気になった。――日本を知っている? そう言えば、この前も……俺が「秋葉原」という単語を出した時に、反応していた。……しかも、普通に「アキハバラ」と喋っていたような。……ルアは、”日本”を知っているのか? どうして……。


 俺は、もう一度ルアの事をぼーっと眺めた。すると、俺の記憶の中から……ある思い出が蘇る。……それは、物凄く古い記憶。……小学生の頃だろうか? 俺は、誰かと遊んでいる。女の子、か? スカートを履いている。俺達は、とても仲が良さそうに公園で遊んでいる……。凄く懐かしい記憶……だ。


「どうしたの? 主」


「あっ、あぁ……いや、なんでも……」


 俺が、そう返事を返すとルアは何事もなかったかのように温泉に浸かり出した。だが俺は、そんな彼の事が気になって仕方がない。


「ル……ルア」


 ルアを見ていると思い出すこの古い記憶が、何なのか? そして、どうして「アキハバラ」を知っているのか? その謎を解こうと俺が奴に話しかけようとした――次の瞬間だった!


 ――いきなり、何者かが俺の体を後ろから引っ張りさり、俺は温泉の岩陰の中へと引きずり込まれてしまった。


 俺には一体、何がどうしてこうなったのかが分からなかったが、口を手で抑えられていた俺が周りを見てみるとそこには……。


「ルリィ!? それに、サレサ!?」


 女湯にいるはずの2人が、なぜかここに来ていたのだった。彼女達は、シーッと人差し指を立てた後、俺の事をがっしり両手で抑えながら妖艶な微笑みを浮かべて告げた。


「うふふ……! 捕まえましたわ。……殿方様ぁ」


「どうしてここに!?」


 俺が、そう尋ねるとルリィは、告げた。


「……バリアが張られる直前に女湯から走って駆けつけましたわ……殿方様」


 いや、マジかよ……。そう言えば、お風呂に入る前、脱衣所の前で俺達は、先に女性陣から入るようにと伝えた。そして、女性陣の誰かが先に入って温泉の保護結界を張り、外から女湯の様子を見えなくしてから男性陣が入るようにしていたのだが……。コイツら、温泉に一番乗りを決めた後に速攻でこっちに来てたのか……。


 すると、ルリィの手が後ろから自分に回って来て、ギュッと俺の事を離さない。そのあまりに強い腕力に俺は、驚いたが、よーく見てみると彼女の手には、魔法陣が出現しているのが見えた。


 ――なるほど。俺を捕まえるために……身体強化の魔法を使っているのか……。本気度合いが違う。


 すると、今度は前からサレサが顔を見せてくる。彼女も、ルリィと同じく魔法を使って岩から植物の長い蔓を生やして、それによって俺の足を強力に縛り付けていた。



 これは……ルリィよりも大胆な……と、思っているとサレサが告げる。


「……ムー君、もう離さない。さっ、一緒に温泉はいろ」


 そう言うと、サレサは素っ裸のまま俺に抱き着いた。彼女の体は、当然のようにタオルなど一切巻いていなかった。透明な湯船の中から彼女の乳房や生まれたての白肌が、見える見える……。


「……サレサ、お前……ここは一応、男湯なんだが……」


「ん? でも、ここ……元々は、秘境だし。男も女も関係ないよ。一緒に入りたい人と入ればいいんだよ」


「……お、おぉ?」


 何を言っているんだかよく分からなかった。上せてきたのか……妙に体も熱い。……とにかく、苦しくなってきたし……あんまり密着されると辛い。


 早く上がりたかった俺が、出ようとするも足をグルグル巻きにしている植物と物凄いパワーで抱きしめてくるルリィには、敵わず……。


 今度は、ルリィが俺に言ってきた。


「……殿方様? どういたしましたか? あら? もしかして……喉でも乾きましたか?」


「ん? あっ、あぁ……」


 何でも良い。そう言う事にして、一旦ここから出ていければ、この苦しい状況から逃れられるかもしれない。


 しかし、現実は甘くなかった。ルリィは、俺の顔に自分の全開になった胸を押し当てて来て言ってきた。


「……それでしたら! ぜひ! アタシのおっぱいをお飲みください! お風呂上りの牛乳かわりにピッタリですわ!」


 彼女のデカすぎる胸が、俺の顔にグイグイ当たる。……本来であれば、その感触が気持ちよくて、どうのこうのなりそうだったが、今は違う。……お風呂の温度と、コイツらの体がベッタベタくっついてきて……くっ、苦しい。



 きっと、若い頃の俺だったら興奮のあまり……色々やらかしてしまいそうだったが……今の俺は、違う。俺は、もう若くない。おっさんだ。……体力も落ちているし……正直、こう言った事を不意打ちでされると……。


「や、やばい……頼むから……うぶ! あがら……うぶぅ! せて……」


 ルリィの胸が押し当てられていたせいで、うまく喋れない。そんな辛い思いをしている中だった。突如、飛びかけていた意識の中でかろうじて、聞こえてきたのはルアの声だった。


 奴は、岩陰で苦しそうにしている俺を見て、ニヤニヤしていた。


「……たすけ、て……」


 何とか、ルアに助けを求めようとするが、この精霊は、ケラケラ笑って告げるのだった。


「……いやぁ、まさか主が、僕に内緒でこんな所にいたなんて~」


 ぐへへ……と、俺を見て楽しそうに笑っている。そんなルアに向かってルリィとサレサが告げる。


「……ルアさん、邪魔はしないでくださる? 今、アタシが殿方様と一緒にお風呂に入っていますの!」



「……そう。ムー君は、私とお風呂に入りたいみたいだから……私が、しっかり最後まで面倒見てあげなくちゃ……」


 だが、ルリィとサレサは、各々の認識の違いから今度は、2人が喧嘩を始めるのだった――。


「……ちょっとお待ちになってサレサさん……。貴方が、殿方様と? 笑わせないで下さる? 殿方様は、アタシとお風呂を楽しみたいに決まっていますわ!」


「違う。ルリィ……。ムー君は、私と一緒になりたいの」


「……!? 貴方、アタシより後から入った後輩のくせに……アタシの事、呼び捨てにするなんて良い度胸していますわね!」


「ルリィこそ! 私達の中で一番、胸が大きいからって……色々と調子に乗り過ぎ!」


「あら? 当然の事ですわ! 女が、自分の武器を使わないで、どうしますの? アタシは、どんな手段を使ってでも……殿方様を落としてみせますわ。……そして、いつかは……先輩の事だって!」


「奇遇……。私もいつかは、マリアさんを超えたい」


「あら? アタシ達、意外と気が合いますわね。それなら、話が早いですわ。……ここから退いて下さい! サレサ”後輩”!」


「……それとこれとは、違う。今は、貴方を超える! ”乳ドラ先輩”!」


「なっ!? 言いましたわね! アタシの事を……乳でかドラゴンって……しかも、略して! もう許しませんわ! 今すぐとアタシと……ここで、決着ですわ! 勝った方が、殿方様を奪い、今晩のアタシ達のおかずにできると言うのは、どうでしょうか!?」


「望む所! ムー君のためにも頑張る!」


 なんだか……俺の知らない所でとんでもない事になってきている……。ていうか、年頃の若い女の子が「おかず」だなんて、下品な言葉を使うなよ……。お母さん泣いてるぞ……。


 朦朧とする意識の中で俺が、そう思っているとちょうど視界の中にルアの姿が見えて、奴は岩の上で横になりながらケラケラ笑って面白そうに見ているのだった。


「……おっ! 良いぞ良いぞ! やっちゃえやっちゃえ~! お・か・ず! お・か・ず!」


 完全にガヤ……。しかも、見た目はまだ幼い少年って感じなのに……このスケベ精霊、ノリが完全に酔っぱらったおじさんのそれだ。



 すると、そんな時だった――。俺達のいる温泉の結界が、突如として破壊されてしまった。見てみると、そこには向こうの女湯から上がってタオルを体に巻いたマリアの姿があり、彼女が俺達のいる男湯の保護結界を自身の杖で叩き壊していたのだった。


 マリアの様子は、明らかに怒っている。……怒りに満ちた様子でゆっくり男湯の方へ向かって来ていた。


「……貴方達、そこで何をしているんですか?」


 その声は、明らかに……棘を感じるというか、完全に怒っていらっしゃいますね……。ルリィとサレサとも恐怖を感じたようで、すぐに魔法を解除し、俺を開放するが……俺の意識はもうギリギリも良い所で、ヘロヘロだった。すぐにお風呂から出た俺は、その場で倒れてしまった。ルアもさっきまでのガヤガヤした感じは、微塵もなく……マリアを見て恐怖に震えているみたいだった。


 すると、倒れた俺の様子を見ていたマリアが、ルリィ達に告げた。


「……そこに正座してください」


 ビクッと恐ろしいマリアに怯えるようにルリィ達は、たちまち温泉から出て正座する。マリアは、告げた。


「……光矢に何かしましたか?」


 そう問いかけるマリアだったが、ルリィ達は皆、首を横に振る。


「嘘は、つかないでください!」


 マリアは、カッと目を見開き、そう言うとルリィ達は、怖そうに怯えながらコクコク……と首を縦に振るのだった。マリアは、正座しているルリィ、サレサ、ルアに向かって言った。


「罰として……貴方達、今夜は光矢の隣で寝る事を禁じます」


 すると、途端に3人は心底残念そうに


「「えぇ~!」」


 と、言ったが、マリアは杖の先を地面に叩きつけて大きな声で怒鳴りつける。


「……えぇ~! じゃありません! 自業自得です! さっ、貴方達は、すぐ女湯に戻る。ルアさんは、光矢を脱衣所に戻して、しばらく面倒みてなさい。温泉は禁止です!」


「「……はっ、はいぃ……」」


 3人は、心底残念そうに口を揃えて返事をした。そんな様子を遠くから見ていたココの一家は、それぞれ湯船につかりながら言っていた。


「……誰もマリアお姉ちゃんには、頭が上がらないなの!」


 ココは、ニコニコ笑いながらそう言っていた。その傍では、彼女の母親が真剣な顔でこの光景を見ており……。


「そうみたいね……。貴方も、あんまり他の女にモテ過ぎないようにね……」


 ノノさんが、少し冷たくそう言うと男湯に入っていたトトさんは、真顔で告げた。


「うん。気を付けるよ。さっ、10数えてそろそろ上がろうか? ココ」


「うん!」


 ……こうして、私達の温泉は、幕を閉じるのであった。

次回『魔族の里編』

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